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05.自宅(2)

 ***


 エリアスはハキハキと喋るアーシャと、若干ぐだつき始めている寧子の会話を尻目に現場責任者だと紹介されたジャレッドと言葉を交わしていた。

 どうやら重度のニコチン中毒者らしく、既に2本目の煙草を咥えている。


「アンタさ、この後……えー、寧子ちゃんだっけ? の家に帰るって言ってたケドさあ」

「不穏な前置きだな。何か問題があるのなら、俺達が1区をブラつく前に教えてくれるか……」

「公僕だから不確定情報を『問題あるかも』とは言えねぇんだわ、俺等。だから世間話って事にしといてくれよ。セラフ職員だけが巻き込み事故起こすなら別にいいけど、お嬢ちゃん一般人だよな? 何かあった時に責任取らないといけなくなるわけ、おじさんが」

「はあ……」


 世間話と言う体で、それだけで嫌な予感が拭えないがエリアスは溜息一つで続きを促した。ものによっては帰宅を中止させたいが、どうだろうか。


「1区に侵入したテロリスト共、全員で8人いたんだけどな。これだけの人数がセキュリティのしっかりしている1区にどうやって入り込んだのか未だに分かってねぇんだよな」

「……なに?」

「武器もあれ、俺等が一昨年に使ってた割と新しい銃器だったんだよな。入手経路、全然分からんが」

「シールドの中に廃棄品を売り払っているバイヤーでもいるんじゃないのか?」

「ま、それは調査する事になるわな。懲戒じゃ済まないだろうな、売り払ったおバカ。あ、あとさぁ、その捕まえた犯人8人の目的。異能者を排除したかった、つってるがあれも多分嘘なんだよね」

「そうだろうな。1区住人の中に死者は出ていないし、大怪我をした住人もいない」


 気怠そうに煙を吐き出したジャレッドがぽつりと漏らした。


「ここからは俺の勘だが……1区から人を追い出すのが目的だったんじゃねぇのかな、あいつ等。どこかの危険団体の構成員のような気がしてならないね。捨て石、鉄砲玉……そんなところかなぁ」

「この後、まだ1区で何か起こる可能性があると?」

「そういうワケ。何が起こるか分からないから、こうして替えの効く人材である俺がここに詰めてるんだよね。いやあ、社畜は辛いね」

「帰社したくなってきたが、これは世間話だったな。仕事を放棄して戻る訳にもいかないか」

「アンタも大変そうだね。あの子、何かあるんでしょ? だから――」


 不自然なところでジャレッドの言葉が途切れた。

 その視線は事情聴取中のルーシャと寧子へ向けられている。自然、エリアスの耳が後ろの会話を拾った。


「それで、寧子ちゃん。最初の話に戻りますけど、どうしますか? シールドで保護を受けた方が良さそう――」

「ルーシャ」


 ジャレッドの思わぬ大きさの声に眉根を寄せる。

 そして止めるタイミングは非常に適切だ。寧子周りのあれこれには触らない方が真っ当な生活を送れるだろう。

 危険な質問をしかけていたと気付かないルーシャはきょとんとした顔をしている。


「どうされましたか、先輩」

「それは聞かなくていい。あー、コンプラとかの問題で」

「えっ!? あ、これ、聞いてはいけない質問だったのですか? ごめんなさい、寧子ちゃん」


 寧子は怯えと安堵が混ざった複雑な表情でルーシャを宥めている様子だ。あの質問で何と答えるべきか迷っていたのだろう。下手な事を言う前に、責任者がフォローに入って助かった。

 シールド側としてもセラフの事情に深入りするのはリスクが大きすぎる。ジャレッドの判断は正しい。


 2本目の煙草を吸い終えたジャレッドと目が合う。


「――ま、ともあれ1区から出る時は一度連絡してくれ。ちゃんと出て行けたのか、確認しておきたいからさ」

「ああ、承知した」

「よろしく頼むわ。えーと、寧子ちゃん自宅はどの辺……あっ、いや、こういうのって最近聞き過ぎたら駄目なんだったっけな……」


 シールドも大変そうである。

 寧子をチラと見るも、問いに答えるべきか、それとも答えない方がいいのか考えているようだった。

 このままここに留まっている訳にもいかない。1区ではまだゴタゴタが未解決だし、なるべく早くこの場から去るべきだ。仕事が増えそうで心配である。


「行くぞ、寧子。シールドの邪魔になる、早急に用事を終わらせて1区を出ないといけない」

「分かりました! ルーシャさん、ありがとうございました。エリアスさん、私の家はそっちじゃないです」


 ――そもそも家に着くまででさえ、時間が掛かりそうだ。

 案内役を買って出た寧子の足があまりにも遅いのを見て、エリアスは空を仰いだ。ジャレッドから得た情報を寧子に話す訳にもいかないので、いまいち『早く出ないとまずい』空気を理解していなさそうだ。仕方のない事だけれど。


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