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04.自宅(1)

 ***


 午後2時。

 朝にそう言っていた通り、寧子はエリアスと共に特殊管理1区を訪れていた。

 まだ1区から離れて1日しか経っていないのだが、それでもとても久しぶりに家へ帰った気分だから不思議だ。


 ただし、その1区は変わり果てた姿となっている。

 まず住人が全員避難しているので人っ子一人いない。死者は出ていないと聞いているが、それでも割れた窓や壊れた壁、倒れた小さな物置など寂れた様子に胸が痛む。


「何だか気が滅入るなあ……」

「どうせ、シールドの捜査が終われば住人が戻って来る。お前はセラフに住み込み診療になるが」

「私、どのくらいセラフで生活する事になるのでしょうか?」

「さあ。それはアーディに聞いた方がいいだろうな。……俺の予想だと、相当長くなりそうだ」


 エリアスはそう言うと頭でも痛むのか、軽く自身の額を抑えた。心労が凄まじそうである。

 そんな彼だったが、勤務時間中は勤務に勤しむスタイルらしい。

 気を取り直したかのように本日の予定について話始めた。


「まずはシールドと会って事情聴取を受ける。その後は家に一度帰っていいはずだ。勿論、俺も同行する」

「分かりました、よろしくお願いします」

「それとなるべく早く帰社する必要がある。感傷に浸る暇はないから手際よく事を済ませてくれ」

「ああ、はい……」


 しっかり釘を刺されてしまい苦笑する。

 ちなみにシールドだが治安維持組織、お巡りさんである。いつだったかのニュースで言っていたが、セラフと協力関係にありデミ・ゲートの処理等に当たっているようだ。


「あの、エリアスさん? シールドの人はどのあたりにいるんですか?」

「1区の中央付近でお仕事中だとさ」

「なら、その右の道に入った方が早いですね」

「ああ、了解。……細かい道が多いな、1区は。まるで普通の街並みみたいだ。5区のカプセルホテルみたいなのとは全然違うんだな」


 ポロっと零れたようなエリアスの感想にぎょっとして目を見開く。

 特殊管理5区と言えば犯罪者予備軍を収容する場所だとか、人に害を及ぼす可能性がある異能力者を隔離する施設だとか、巷ではまことしやかに恐ろしい噂が流れている場所だ。

 絶対に触れない方が良い話題、そう判断した寧子はその独り言は聞こえなかった事にした。


 数分ほど歩いただろうか。

 1区内にある広場というか――噴水のある小綺麗な公園でシールドの職員を発見した。中央付近でお仕事と聞いてすぐにここだろうと分かっていたので驚きはない。


 こちらに気付いたシールドの女性職員がにこやかに小さく手を振る。そのまま小走りで駆けよって来た。


「お疲れ様です。お待ちしておりました、私はシールドのルーシャです。本日はよろしくお願いします」


 一般的なシールドの制服には、シールドを示すエンブレムである盾が描かれている。

 ルーシャと名乗った女性はきっちりとその制服を着こなし、長い髪を几帳面に縛り上げた品行方正そうな印象の強い職員だった。

 そんな彼女の後ろから煙草を唇の端に引っ掛けたままのんびりと歩いて来たのは男性職員だ。彼はかなりルーズに制服を着用しており、ルーシャとあまりにも正反対である。

 そんな男の存在に気付いたのか、ルーシャがついでと言わんばかりに彼の事も紹介してくれた。


「あ! こちらはジャレッド、現場の責任者です」

「どうも。セラフからわざわざ来てくれたんだって?」


 言いながらジャレッドは煙草を携帯灰皿に押し付け、そのまま回収。意外にも吸い殻を地面に投げ捨てるタイプではないらしい。

 エリアスが感情のない瞳で一連の動作を眺め、そして口を開く。


「ああ。俺はセラフ職員のエリアス。事情聴取の為に呼ばれた1区の住人は、こっちの寧子だな。それで? まず俺達は何をしたらいい?」

「お嬢ちゃんの事情聴取を先に終わらせるか。アンタ等、1区内に用事があるんだったよな?」

「そうだな。特に急ぎじゃないから、シールドの用事が終わってからで構わない」

「了解。ルーシャ、そっちの子から話を聞いといてくれる? 俺はここで待っておくからさ」


 ジャレッドの指示に、ルーシャが気前よく肯定の意を示した。


「はい。お任せください。こちらです、寧子ちゃん。緊張しないで、そんなに恐い事は聞いたりしませんから」


 ルーシャのエスコートで、噴水の裏へ連れていかれる。

 複数名の前で生活様式を喋らなくていいよう、配慮してくれているらしい。


「それじゃあ、始めましょうか。その前に何か私に聞きたい事はありますか? 1区の諸々の件であなただけがセラフに引き取られてしまって、あの後どうなったのか知らないでしょう?」

「ありがとうございます。1区に住んでいたみんなは今、どうしているのでしょうか?」

「シールドで保護していますよ。当然、衣食住完備です。1区に再び入れるようになるのは――来週末くらいでしょうか。遅くなる可能性はありますが、早まる事はたぶんありませんね」


 そういえば、とルーシャが純粋な疑問と言わんばかりに首を傾げる。


「どうしてあなただけ、セラフ預かりになったのでしょうか? 偶然、アーディ先生の診察を受けていたタイミングだったからでしょうか?」

「え、えーっと、あの……」

「って、あなたに聞いても分からないですよね。大丈夫、事情等なければあなたもシールド預かりに変更しますから。あとでエリアスさんに確認しておきますね」

「あ……はい」

「それじゃあ、聴取に移りましょう。事件当日、不審者はいませんでしたか? 1区の皆さんは顔見知りなので、知らない人がウロウロしていた……とか」


 この後、当たり障りのない質問を2つ3つされ、目ぼしい情報も提供できず事情聴取はあっさり終了した。


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