箕輪まどかの霊感推理 生霊三昧
私は箕輪まどか。美少女霊能者だ。
どうした事か、今日は学校が休み。
どうやら創立記念日らしいのだが、よく調べてみたら違う日だったらしく、今先生方はその事実の改竄に全力を挙げているらしい。
ところで、改竄て何?
暇を持て余していた私は、散歩でもしようと思って外に出た。
え? 牧野君はどうした? その名前、出さないでよ。
この前、初詣に行って、あれこれあったので、会ってくれなくなったの。
別れたわけじゃないのよ。
私をふるなんて事、彼にできるわけないんだから。
あ、何でだろ、涙が出ちゃう。
そんな妄想を繰り広げながら、家の前を歩き始めた時だ。
「まゆ子さん?」
私は、電柱の陰に立っている、私のお姉さん候補ナンバーワンの里見まゆ子さんに気づいた。
まゆ子さんは、携帯で話し中みたいで、私に見られている事に気づいていない。
「そ、そんなんじゃないわよ、亜由ったら! べ、べ、別に箕輪さんに会いに行くわけじゃないんだから!」
お。ウチに来るつもりだったの? もう少し、様子を見てみよう。
「そ、そうよ。あんたが困っているから、箕輪さんの妹さんに会いに行くのよ」
あれれ、私に用事?
「おはようございます、まゆ子さん」
「い!」
まゆ子さんは、私が声をかけると、幽霊にでも会ったかのように顔を引きつらせた。
「じゃ、また後でね」
まゆ子さんは慌てて携帯を切り、ショルダーバッグにしまった。
「お、おはよう、まどかちゃん。今日は学校お休み?」
まゆ子さん、白々しい。多分エロ兄貴に訊いて知ってるはずなのに。
「ええ。創立記念日です」
「まあ、そうなの。それは丁度良かったわ」
まゆ子さん、セリフ棒読み。私は苦笑いをして、
「亜由さんに何かあったのですか?」
「え?」
まゆ子さんはまた驚いた。大袈裟だな、全く。聞かれたと思ったのだろう。
でも、心優しい私は、
「私にはわかるんですよ。亜由さんが困っているのが」
「そ、そうなの」
まゆ子さんは少しホッとしたのか、微笑んで言った。
「じゃ、話が早いわ。一緒に来て欲しいの」
「え? ほしのあき?」
蘭子お姉さんにかましたのと同じボケだ。するとまゆ子さんは、
「アハハ、まどかちゃんたら……」
と笑ってくれた。いや、決して同情ではない。まゆ子さんは、こういうオヤジギャグがツボなのだ。
そして、私は、まゆ子さんの車で亜由さんのところに向かった。
亜由さんはまゆ子さんとは高校の同級生で、エロ兄貴とは中学の同級生なのだ。
亜由さんはエロ兄貴の所業を知っているので、まゆ子さんが兄貴に「ほの字」なのを心配している。
その亜由さんが直接私に連絡をくれないという事は、まゆ子さんが一人で暴走している可能性がある。
だから「箕輪さんに会いに行くわけじゃない」などという言葉が出たのだ。
亜由さんは兄貴とまゆ子さんが同僚なのをとても心配しているくらいだから。
でも何故、まゆ子さんは家まで来ないで、電柱の陰に明子姉ちゃんみたいに立っていたのだろう?
よくわからない。
大人には大人の事情がある。
お父さんにそう言われたのは、朝帰りしてお母さんに締め出されたのを私が助けてあげた時だった。
「着いたわよ、まどかちゃん」
まゆ子さんのその声に、私の妄想タイムは終了した。
亜由さんはすでに結婚している。
旦那さんは、海外出張中で、今は一人。
「なるほどね」
私は亜由さんの家の前に立つなり、全てがわかった。
旦那さん、凄く恨まれてる。
多分、会社の人達だろうけど、生霊がいっぱい。
それも、ちょっとでも霊感があれば見えるのではないかと思う程、強烈だ。
以前、兄貴に憑いていた生霊とはレベルが違う。
「いらっしゃい、まゆ子、まどかちゃん」
亜由さんが出迎えてくれた。
私達はリビングルームに通された。
「旦那さんはいつお帰りですか?」
私がいきなりそう切り出したので、亜由さんはビックリして、
「あ、あの、明後日よ。それが何か?」
「旦那さんを恨んでいる人達の生霊が、この家に溢れています」
亜由さんは思い当たる事があるのか、暗い顔になった。
「やっぱり」
その言葉にまゆ子さんが、
「知っていたの?」
「知ってはいないけど、何となくそんな予感はしたわ。あの人、同僚を敵としか見ていないから」
亜由さんは悲しそうに言った。
「ここに引っ越す前は、あんなに独善的な人ではなかったのに……。どうしてなのかしら?」
「この家のせいです」
私は周囲を見渡して言った。
「ええ?」
亜由さんとまゆ子さんが同時に言った。私は二人を見て、
「この家を建てた人、亡くなってます。その人の強い思いが、旦那さんに影響しているんです」
「そ、そんな……」
亜由さんは泣きそうだ。私、こういうの苦手。
「どうすればいいの、まどかちゃん」
まゆ子さんが代わりに尋ねる。私は腕組みをして、
「引っ越すのがいいのでしょうけど、そういう訳にもいかないですよね」
「ええ。ローンは始まったばかりだし。私もこのあたりの住環境が気に入っているので」
亜由さんは立っていられなくなったのか、ソファに座った。まゆ子さんがそれを支えるように隣に座る。
「では方法は一つです。この家に取り憑いている男の霊を除霊します」
「……」
そう言われても、亜由さんとまゆ子さんにはわからないだろう。
「?」
そんな会話をしていたせいなのか、その人の霊が現れた。
あれ? もっと執念深そうな人かと思ったけど、そうでもないみたい。
『待ってくれ。もうここの旦那に私の思いをぶつけるのはやめるから、除霊しないでくれ』
「どういう事?」
私は亜由さんとまゆ子さんがキョトンとするのもかまわず、霊と話した。
『やっとわかってくれそうな人が来たので、つい甘えてしまった。迷惑をかけているようだから、もうやめるよ』
「なるほどね。生霊達が、貴方も鬱陶しかったのね?」
『そういう事だ』
男の霊は苦笑いした。
『じゃ、頼んだよ』
彼はそう言い残し、消えた。
後は生霊達ね。こいつらは、一回追い出せば、もう来なくなるでしょ。
「オンマリシエイソワカ!」
私は摩利支天の真言を唱えた。
『ひーーーーっ!』
たちまち、生霊達は退散した。
「一件落着です」
私はあるメイドに負けない笑顔全開で言った。
「ほ、本当?」
亜由さんは涙ぐんでいる。まゆ子さんが、
「もちろんよ。まどかちゃんは、凄いんだから」
「ありがとう、まどかちゃん」
亜由さんは立ち上がり、私の両手を握り締めた。
そんな事で、霊現象はあっさり解決。
私とまゆ子さんは、ケーキと紅茶を頂いた。
「あの、料金は?」
玄関で亜由さんにそう言われた。私はニコッとして、
「いただきません。私は、関西の霊能者とは違いますから」
「そ、そうなの」
亜由さんは不思議そうな顔で言った。そして、
「そっか。将を射んと欲さばまず馬を射よ、なのね」
と小声でまゆ子さんに言うのが聞こえてしまった。
「ち、違うわよ、亜由ったら! まどかちゃんの前で、何て事言うのよ!」
まゆ子さんが酷く慌てて言った。
でもまゆ子さん、何を慌てているのか知らないけど、亜由さんの話の意味、全然わからないから安心してね。
私はまゆ子さんの応援団だしね。