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31 願い

 その後の出来事は、一度目の人生と同じことが繰り返されていた。


 その晩マリシラと一緒に眠ったエレイナは前回と同じようにレイナードの神力を微かに感じ取った。

 そして翌朝、公爵家の医者を密かに王宮へと呼び、マリシラの妊娠が告げられた。



 このままでは同じことが繰り返されるだけだ。

 これでは過去に戻った意味がない。考えなくては……この状況を変える方法を。

 今度こそ二人を救う方法を。




「叔母様、私に一つ考えがあります。しばらく留守にしますが、私が戻るまで決してここを出ぬよう、体を休めておいてください」


「一体なにをしようというのですか……まさか……」


「いいえ、王太子を退治に行くわけではありませんよ。ご心配なさるようなことはありません」


 エレイナはそういうとマリシラに向かって笑顔を見せた。


「上手く事が運べば一週間ほどで戻ります。それまで王女宮から決して出てはなりません」


 そして侍女に向かって護衛を呼ぶように告げた。

「私の侍女2人と護衛3人を叔母様に付けるように。決して部屋に誰もいれるな。それから旅支度を。護衛騎士のエイデン卿とアルフォンス卿に、行商にいくと伝えよ」


「王女殿下……国境を越えるおつもりですか?こんな大変な時に一体どこへ……」


 エレイナの言う「行商に行く」というのは行商人のふりをして国境を越えるという意味だった。

 彼女はお忍びで国境を越えるとき、いつも旅商人の子供のふりをしていた。




「オルテヴェルだ」




 今度は私が先に手に入れる。あの悪魔を……黒魔導士ノアールを!







 無事国境を越えたエレイナは半月の昇る月夜に封印の塔へたどり着いた。

 藪をかき分けながら道なき道を進み、辿り着いたそこは蔦と苔に覆われ陰鬱な空気に包まれていた。


「オルテヴェル王の神力と私の神力どちらが上か……」


 彼女は扉に向かって幼い手を伸ばし、ゆっくりと押した。お互い二つの加護を持つ王と王女だが、エレイナの神力が僅かに上回っていた。



「殿下、我々にはこれ以上進めません」


 護衛の二人は封印に遮られ、塔の中に入ることができなかった。


「私が封印を壊すことは容易いが、そうするとオルテヴェルの王に気づかれてしまうやもしれぬ。しばしその場で待機せよ」

 エレイナはそう言うと灯りを持ち一人塔の中へと姿を消した。


 螺旋の階段を上り、最上階にたどり着いたエレイナは扉の隙間から漏れる明かりに気が付いた。


 音をたてぬよう、ゆっくりと扉を押し開いた。




「誰?」




 ぼろを纏った一人のやせ細った少年がこちらを振り返った。闇のような黒い髪と瞳をもつ少年が。


 彼は目の前に現れた金色に輝く美しい少女に驚き唖然とした。


 エレイナは薄汚れたまだあどけないその少年に確かにあの黒魔導士の面影をみた。

 それと同時に最期の遺恨の念が突如として沸き上がり、思わず彼に向って掴みかかりそうになったが、必死にそれを堪えた。


「私は隣国ハーンの王太女、エレイナ・ハーンだ」

「お前の助けが必要だ。私の頼みを聞いてくれたらかわりにお前の願いを叶えよう。」


 彼女はそう言うとヨシュアに向かって手を差し出した。



 ヨシュアは自分に向かって差し出されたエレイナの白い手をじっと見つめた。


「僕の願い……」



 彼は自分自身も気が付かぬ間に手を伸ばし、その白い手を掴んでいた。

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