15 悪魔
エレイナにマリシラを奪い返されたアースヴェルの王太子ダイロニアスはその後もマリシラの行方を探し続けていた。
ハーンの王宮に送り込んでいる密偵は厳重な警備の王女宮に近づくこともできず、王女の様子はほとんど伝わってこなかった。
たまにお忍びで城下へ出ているようだったが町を見回り戻っているだけで、誰かと接触する様子もなかった。
彼は王女を調べるうちに彼女が母親から生母の加護を受け取っていることを突き止めた。
「加護を二つ持っているのか。道理で私の神力が通用しないはずだ」
だがこのままだとマリシラを手に入れられない。
たとえ手に入れたとしてもエレイナ王女が王位につけばレガリアの加護を手にいれマリシラを取り戻しにくるかもしれない。
自分がレガリアの加護を手に入れてもあの王女には敵わない。
あの王女を上回る力を手に入れない限り……
彼はそのとき神の力をも恐れぬ黒魔導士ノアールの存在を思い出した。
14年前にオルテヴェルの国王に黒髪黒眼の私生児が生まれたという噂は公然の秘密となっていた。
そしてその母子が封印された塔に閉じ込められているという噂も。
だが王の施した封印がある限りそこに入るにはそれ以上の神力がいる……
「オルテヴェルの王は昨年天上界へ渡ったじゃないか!」
ダイロニアスはそう叫ぶと天を仰ぎ見た。
今王位についているのはまだ幼い彼の嫡子だ。塔の存在を知らない可能性が高い。
そして封印をかけた前王が死んだということは封印の力はほとんど残っていないだろう。
「やはり私には神が味方についている……いや悪魔か!」
そう呟くと彼は何かに取り憑かれたように大声で笑い出した。




