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11 アヴェル

 月日は流れ、エレイナは10歳になっていた。

 そしてある日とうとう父王からクレイ公爵の第一公子アヴェンデルとの正式な婚約を言い渡された。


 クレイ公爵には叔母様を逃がす際に手助けをしてもらった借りがある。

 そして父親の命令に歯向かって今機嫌を損ねるのは得策ではない。

 そんな事情からエレイナはその婚約に素直に同意した。


 彼女の新たな婚約者アヴェンデル・クレイは宰相の父親に似て頭がよく10歳になるころにはすでに父親に付いて王宮に出入りしていた。

 幼少の頃から法律や歴史、政治経済などの分野でぬきんでた才能を発揮しており、その見識の広さは父親を超えるものがあった。

 さらには母親に似た美しい外見を持ち、琥珀色の髪とエメラルド色の瞳で優雅に微笑むその顔を使っての人心掌握術にも長けていた。



「今日はようこそお越しくださいました。クレイ公子」


 王宮の貴賓室では、エレイナと第一公子アヴェンデルとの初めての顔合わせが行われていた。

 エレイナはきつく編んだ髪を結い上げ、公子の瞳の色にあわせ深い緑の絹のドレスを身にまとっていた。

「お初にお目にかかります。王女殿下」

 アヴェンデルは深く一礼し、顔をあげると彼女の美しさに思わず息を呑んだ。


 アヴェンデルは自分が他の同年代の誰よりもはるかに優れた頭脳をもつことから、周りの子供や時には大人さえも見下すような生意気な少年だったが

 その日彼は初めて自分にふさわしいと思える相手に出会った。


「なかなかお会いできる機会に恵まれずご挨拶が遅れましたことお許しください。この度このようにお話できる時間をいただけましたこと、お礼申し上げます」

 彼はそういうと美しい笑顔を王女に向けた。


「クレイ公爵からはいつもお手紙いただいておりましたのに、なかなかよいお返事ができず失礼しました。

 私、殿方とおしゃべりすることに慣れておりませんから……その、ちゃんとお話ができるか不安でしたの」

「でもクレイ公子がこんなに素敵な方だったなんて。わかっていればもっと早くお会いしたかったですわ」


 およそ子供らしくないこの会話はまるで狐と狸の化かし合いのようだ。

 エレイナは自分の婚約者に向かって微笑みを返しながら、頭の中では笑いをこらえていた。


 だがその言葉にアヴェンデルはとても満足気に相槌をうっていた。


 誉め言葉を素直に受け取り得意げな様子を隠すこともない……わかりやすく扱いやすい。私の結婚相手にふさわしい。

 エレイナはアヴェンデルにニコニコと語りかけながら自分の婚約者が単純な人間だということに安堵していた。

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