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1 プロローグ

 ~プロローグ~


 まだ夜も明けきらぬ空が炎で赤く染まる。

 アースヴェル城は門が破られ、ハーン国の軍勢がなだれ込んだ。


 アースヴェルの王太子レイナード・アースヴェルは混乱する城の中、父王ダイロニアスを探していた。

 王の護衛がレイナードを見つけ、駆け寄ってきた。


「父はどこだ?無事か?!」

「殿下、こちらは危険です。お逃げください!」

「王は無事かと聞いている!」

「王は……囚われました」


 レイナードはその言葉に茫然と立ち尽くした。

「まさか……」

 騎士は無言で項垂(うなだ)れた。

「お前!黙ってそれを見ていたのか!それでも護衛騎士か!」


 そのときレイナードの目の前に立っていた騎士がいきなり口から血を流し前のめりに倒れこんだ。



「臆病者は代わりに始末しておいた」



 護衛騎士が床に倒れこむとその背後に全身を鋼の鎧に包んだ小柄な剣士が現れた。

 手には血まみれになった剣を握り、銀の鎧は返り血で真っ赤に染まっていた。

 ゆっくりと兜を取ると豊かな金糸の髪がそこからこぼれ広がり、暗闇の中で金色に光る瞳がこちらをじっと見つめた。


「お前がレイナードか」


 エレイナは脱いだ兜を放り投げるとレイナードにそう尋ねた。






 はじまり


挿絵(By みてみん)


 ハーン国は大陸の中央に位置する山岳地帯の多い小さな国であったが、周辺5国の起源国としてまた宗主神ハーンを崇める国として平和を保っていた。

 ハーン国の周囲を囲む5つの国はアースヴェル、オルテヴェル、エシュヴェル、ナージヴェル、ステラヴェルという5人の女神の名を国名として戴き、各国に伝わる建国神話にはその成り立ちが次のように記されてあった。


 まず主神ハーンが天上界から地上へ降り立ち、空と大地をつくり、大地から人間を作り出した。

 

そして人間を導くため自身の血から5人の女神を生み出したが、女神たちはハーン神の寵愛を得ようと競い合い、争いが絶えず起こったため、彼は5人の女神をそれぞれ別の地に住まわせることにした。

 

そのためハーン国を取り囲むように5人の女神を柱とする国が生まれた。

 そしてその神の血をひくものがそれぞれの国の最初の王となり、主神国と5つの女神の国は六神国といわれ、均衡を保ったまま1000年以上続いてきた。


 神の血を引く王族はその特徴として、金色の髪と瞳をもっており、神力を受け継いでいた。

 

六神国の外側にある不毛の砂漠地帯には赤の民といわれる赤茶色の髪をもつ異教徒がすんでおり、その中にはまれに黒髪と黒い瞳をもつノアール(黒魔導士)といわれる魔力使いが生まれた。

 神力と真逆の魔力は悪魔の力ともいわれ、六神国の民に忌み嫌われていた。



 誕生


 ハーン国の城ではいままさに国王カイロンと彼の従妹であり王妃でもあるユラニアの間に第一子が誕生しようとしていた。


「女のお子様でいらっしゃいます!」


 産婆が赤ん坊を取り上げ、真白な布でくるんだ。

 王妃ユラニアは息をきらしながらも弱弱しく微笑んだ。しかし産婆の顔がこわばっていることに気づいた。


「どうして泣き声が聞こえないの?」

 彼女は震えながら産婆に尋ねた。


「息をしておりません。まさか……神の子がこんな……」


「王女をこちらへ」


 ユラニアはそういうと産婆から赤ん坊を受け取った。彼女は腕に抱いた小さな灯が今にも消えようとしていることに気づいた。


「神力が多すぎる。これでは体がもたないわ」


 神族の子は皆、神の加護を受けその体に神力を宿していた。彼らは神力を使うことにより邪を封印し、結界により身を守り、治癒力を高めることでケガや病気を癒すことができた。

 この神力は本来体の成長と共に徐々に増えていき、成人になると最高値に達するのだが、この赤ん坊はすでに神力が成長速度を越えており、幼い体に耐え切れぬほどの力を持って生まれてしまった。


「私の加護を与えます。どうかこの子をエレイナと名付けを」


「なりません!妃殿下!おやめください!」


 産婆がとめる声にも王妃は躊躇することもなく赤子を抱きしめて祈った。

 ユラニアの身体が光に包まれ、その光はユラニアから赤ん坊へと移った。その途端、小さな手がぴくりと動き大きな泣き声が部屋に響き渡った。



「生まれたか!ユラニアは無事か?!」

 国王カイロンは部屋の前で赤ん坊の泣き声を聞き安堵していた。

 王妃の部屋の扉が開き、産婆が金色の髪の赤子を抱き外へ出てきた。


「女のお子様でいらっしゃいます」


「ユラニアはどうした?」


 王は産婆の沈んだ様子に不安を感じ、慌てて部屋の中へ飛び込んだ。


「王妃殿下は息をしていない王女殿下に加護をお渡しになりました」


 神族が生まれながらに持つ神の加護は人の血が混ざった神族の身体が神力に耐えるために必要なものであり、それを手放すということは自死に等しい行為であった。

 

神の加護を他人に渡すことは本来不可能だが、生みの母親から我が子にのみ渡すことができ、それは生母の加護といわれた。

 しかし自ら命を捨てるという行為は神族にとって禁忌とされており、自死で命を絶った魂は天上界へ行くことができず永遠にこの世をさまよい続けるという。


 王妃ユラニアを誰よりも愛していた王カイロンは、動かない彼女を抱き上げ声をかけた。


「なぜ目を覚まさない?早く起きて、私を見つめていつものように笑ってくれ」

「彼女が私を置いていくはずがない。彼女は私を何より愛している。私を捨てて赤子を選ぶわけがない」


 しかし王妃ユラニアが再び目を覚ますことは二度となかった。








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