ムール貝 MYTILUS EDULIS
MYTILUS EDULIS
生きる事への恐怖と、
己の傲慢に苦しむ
漁師の網の様な貝の足糸は、
岩場に根を張る
無数のムール貝達を
不自由な肋骨に固着させている。
[何処かに帰りたい・・]
と願った所で、
その[生きる為の執着]が
希望を打ち砕き、
哀れな貧者や、貝達を
悲惨な岩礁に留めるのだ・・
だが、二枚貝達は
限りなく無機に近い故、
キリストの与える聖体も、
そして、
死をも恐れずに受け入れる。
GRADIENT ENVIRONNEMENTAL
傾度の厳しい摩耗によって死亡し、
貝殻だけの
空虚な洞となった
骨の中の闇に、
キリストは自らの血を満たし、
無知な海の男達は
その夜の色を恐れる。
ああ、生存の痛みを恐れ、
魚を欲し、
荒波に網を投げる者よ・・
お前は貝殻の中の
空洞を信じないのか?
お前が傷んだ甲板の上で・・
骨の痛みの破片の散らばる荒野で・・
本当に欲しているものは何なのか?
それは、山の様な
斧の仮骨か?
それとも、
取り上げられた
お前の海岸か?
QUIA VIDISTI ME, CREDIDISTI
キリストは言った。
「私を見たから信じたのか?」
その溜息にも似た地上の波の音は、
無数のムール貝達には
聞こえていない・・
ああ、キリストよ!!
そして、
低地にいる何処にも行けぬ漁師よ!!
私にもわからない・・
目先の大漁の魚の屍を欲し、
それでも打ちひしがれる亡者達の
陰湿な痛みを
どうすれば取り除けるのか?
CARROÑA DE MEJILLON
魂の腫瘍は、
海に浮かぶ水死人の様に
不快な悪臭と共に
お前の船にこびりついて離れない・・
聖なる僭称は、真理を示し、
大工の肉体を十字架上の死へ導き、
その腰を
正しき王国の玉座に据えるだろう。
見たか!!
ムール貝達の貝血漿が、
肉として生まれてしまった
哀れな命達の抵抗なら、
水死体の漂母皮とは、
そこから解放された
死者の衣なのだ。
ああ、
捨てられる遺棄物の中にこそ
楽園を見よ。
無意味の中にこそ
永遠を見よ。
喪失の中にこそ
人生を見よ。
BEATI, QUI NON VIDERUNT ET CREDIDERUNT
「私を見る事なく信ずる者は、
幸いである」
ああ・・
荒野で叫ぶ者はいれど
お前は違う。
海で漁る者だ・・
生きる為に!!
そして、
またお前は置いていかれた。
その事を知っている。
甲板に転がる
黒いムール貝の洞の中には
ラテン語で[CLAM ANTIS]
と書かれている。
他者を冷笑する卑しい顔の肉体に
閉じ込められたお前の本当の魂は、
今日も十字架の下で泣き崩れ、
真理に焦がれる。
MYTILUS EDULIS
その嗚咽は、
貝を漁りながら、
貝の空虚を見てはいない悲しい人間の・・
最後の楽園への招待状なのだ。




