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64話 その5

「えと、悲しいお話だけじゃないんです。実は、アヴィさんも私の家族になりました」

「……まあ、そうなのね」


 少しだけ驚くレティシアさんですけど、オルさんたちはぱたぱたと私の隣のアヴィさんの元にやってきます。


「アヴィさんはマスターの家族です」

「……すごい。家族がたくさん……」

「そうです。良かったです」


 そう言われると、アヴィさんもえっへんとしながら「我は主様の家族です!! 大切にされてます!!」と喜んでくれました。すると、オフィリアさんが聞いてきます。


「ユノの家族なら、私たちの家族なの?」

「んと、違います。アヴィさんは私だけの家族なので、リタさんの家族でもありませんし、オフィリアさんの家族でもありません」

「そっか~……」

「……なんだか大変な感じですね」

「そうですか? いつも通りです」


 そんな風に答えると、グラシアさんは少し苦笑いをしてきました。ただ、すぐにオフィリアさんにほっぺをむにむにされて困っています。

 そしてそんな感じでまったりしていると、レティシアさんがアヴィさんに言いました。


「アヴィ、ユノのことをお願いね。この子の傍で守ってあげて」


 そう言われると、アヴィさんはなぜかしゅんとしてしまいます。


「我は主様を守ります……。我は今激弱モードです……」

「……? アヴィさん、しっかりしてください」

「はい! 我は主様と一緒にいます!」

「「……?」」


 アヴィさんのよく分からない感じに私たちは翻弄されると、なんとなくいい感じの時間になってきたみたいなので、ソファから立ち上がってみました。


「あの、レティシアさん。また閉会式が終わったら戻ってきますね。決勝戦は負けてしまいますけど、できるかぎり頑張ってきます」

「……ユノは負けてしまうの?」

「はい、負けてしまいます」

「……そうなのね」

「ユノ? レンさんは勇者だしすごいけど、ユノなら十分勝てると思うよ?」

「そうですね。ユノならきっと大丈夫だと思います」

「……その、私もレンさんとお話した感じは大丈夫だと思ったんですけど、結局無理だと分かってしまいました。……でも頑張ってみます」


 そんな説明にまたレティシアさんたちは不思議そうな顔をしてきてしまうのですけど、私は気にせずにオルさんたちに話し掛けます。


「オルさん、夜空さん、ルアさん。これから試合に出てきますね。一緒に行きますか?」

「はい、マスターのお部屋に戻ってます」

「……私もそうする」

「……我もです」


 そんな感じで三人は私にムギュっとしてくると、レティシアさんたちにもギュッとして撫でてもらってから、突然光を放って収納魔法に戻ってしまいました。少し落ち込んでしまうオフィリアさんとグラシアさんは観覧席から応援してくれるみたいなので、私はアヴィさんと一緒に闘技場の通路に出てみます。


「主様? 対戦相手はレンなので、どうせ主様の応援に来る者は少ないですよ! ほとんどがレンの方に行きます!」


 なんだかひどいことを言っている気がしたので、私は首を横に振ってみました。


「ノエルさんとシエラさんとユッカさんは来てくれますし、きっとメルティアさんも来てくれます。……アムネシアさんも来てくれると思うので、たくさんです」

「そうですね! 我の予想ではミハエルとラファエルも来ますよ! 因みにシャルルは来ません!」

「……そうなんですね」


 どういう予想なのかは分かりませんけど、実際に階段を下りて控え室に向かうと、ノエルさんたちの姿がありました。


「ユノちゃん……! ……えっと、体調は大丈夫ですか……?」

「……? 大丈夫です」


 なぜか少し不安そうなノエルさんのことを見つめてみると、シエラさんが言うのです。


「ユノ? またノエルが緊張してるのよ。自分が戦うわけでもないのに、だいぶ激しいわよね」

「シエラ、そう言ったら可愛そうじゃない。ノエルも真剣に応援してるのよ」

「そんなこと言っても、昨日だってずっと――」


 そんな感じでお話してくれたので、私はノエルさんの頭を優しく撫でてみます。


「あの、ノエルさん? たくさん応援してくれて嬉しいです。でも、今日はレンさんに負けてしまうので、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

「……え? ……ユノちゃん、どういうことですか?」

「その、レンさんはとってもすごい方なので、簡単に負けてしまうんです。でも、優しいので危なくはないと思います」

「……そ、そうですか……。ユノちゃんが無事なら、それが一番ですけど……」


 なんとなく悲しそうな感じなので、私は「大丈夫です」と言いながらギュッと抱き締めてみるのです。そんなことをしていると、ノエルさんはなぜか顔を赤くしているのですけど、安心してくれたみたいです。


「ユノはレンに負けるつもりで戦うの?」

「そうじゃないんですけど、レンさんと私ではお話にならないんです」

「そう? 見たところ、レンさんが手を抜くのなら、ユノさんにも勝機はある気がするわ」

「そうですか?」

「――主様、ユッカに騙されてはいけません! 主様は絶対に負けますよ!」


 そんなことを言ってくるので、私は少し頷きながら言ってみます。


「えと、そういう感じなんです。アヴィさんが言うので私は勝てません」

「……まあ、それなら仕方ないわね。でもここまで勝ち上がって来たユノさんの実力は、誰が見ても確かなものということは間違いないわ」

「そうね。どうせ勝てないんだったら、レンに傷を付けてあげなさいよ。ユノならきっと行けるわ」

「たしか、レンさんはこれまでの試合でも全試合無傷だったわね」

「んと、そうかもしれません。……それなら、私では無理な気がします」


 そうお話していたところで、通路の先からアムネシアさんがやってきました。


「ユノの方は人が全然少ないかな」

「そうですか? これで四人も来てくれました」

「我とロッドを合わせれば六人ですね!」

「ロッドさんはいませんよ?」

「あそこの影にいます!」

「「……?」」


 私たちはアヴィさんの指差すところを見てみるのですけど、まったく姿は見えません。それどころか、気配もまったくありません。

 ただまあ、ロッドさんのことはいいのです。一応魔法大会の時に、アムネシアさんがレンさんに勝つ方法があるとお話していたので、聞いてみようと思います。


「アムネシア? いくらユノがぼーっとしてる子だからって、そんなこと言ったら可愛そうでしょ?」

「……そっか?」

「そうよ、まったく……」

「……? あの、アムネシアさん。レンさんに勝つ方法を教えてください」


 そう言うと、なんだかなにか言いたげなシエラさんのことをユッカさんが押さえてくれて、アムネシアさんが少し首を傾げたあとに言いました。


「いくつかあった気がするけど、忘れちゃった。……ごめんね」

「そうなんですね……」


 ……えぇと、忘れちゃったのなら仕方ありませんね。……それよりも、言っておくことがありました。

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