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64話 その4

「ユノ、今日はお互いに頑張ろう。俺のことは気にせずに全力できてくれ」

「えと、いい感じに頑張ってみます」


 そうは言ってみたものの、アヴィさんと学長さんにも負けるとお話されているので、きっと私が勝てる可能性はないはずです。でも、レンさんと戦える機会は珍しいので、できるかぎり頑張ってみようと思います。

 そしてそんなお話をしたあとは、なんとなくアヴィさんに「祝賀の宴ではクラウディアさんの護衛を頑張ってくださいね」と言ってみると、必死に首を横に振ってきていたので、もう一度ぺちっぺちっと叩いておくのでした。




 そうしてまったりと朝ごはんを楽しんだ私たちは、今日も後片付けなどを済ませて寝室に戻ってきました。レンさんは相変わらず早く出てしまったので、私はオルさんのことをギュッとしながらベッドに横になってみます。……因みに、夜空さんとルアさんはアヴィさんにギュッとされていて、嬉しそうです。


「夜空様? ルア様? 布団で包んであげますね!」

「……包む?」

「……我もですか?」

「はい! たくさん包んであげます!」


 そんな感じの声が聞こえてくると、すぐにお二人はふかふかに包まれてしまいます。


「えへへ、可愛いです!!」

「そうですね、可愛いです。オルさんのことも包んであげてください」

「分かりました!」


 オルさんは私のことを見つめてきていたのですけど、簡単にアヴィさんに抱き上げられると、そのままふかふかの中に入れられて安心した感じです。そして夜空さんとルアさんのことをギュッとしたりして微笑んでいます。

 アヴィさんと私はそんなオルさんたちを撫でながら優しい時間を過ごしていたのですけど、あっという間に三位決定戦の時間になってしまったので、体を起こすとアヴィさんに映像を確認してもらいます。


「主様、今アムネシアが出てきたところですよ! メルティアはまだです!」

「そうですか」


 そんな風に答えると、私は制服を着ていくのです。アヴィさんは優しいので、私がかんざしを挿そうとしていると、すぐにお手伝いしてくれました。


「メルティアは出てきませんね! 主様の言った通り不戦敗にしたみたいです!」

「良かったです。アムネシアさんはどうしてますか?」

「なにもしてません! 無能です!」

「そんなことはありません」


 ……あれ? よく考えてみれば、アムネシアさんにはメルティアさんが試合に出ないことをお話してあるのでした。

 ただまあそれは良くて、服も着れたので私はもふもふで遊ぶオルさんたちに声を掛けてみます。


「あの、オルさん、夜空さん、ルアさん。一緒に行きますか?」

「行きます」

「……お散歩する」

主様マスターと一緒です」


 そんな返事をすると、三人はベッドから下りて、一瞬で私たちと同じ制服に着替えました。物質生成の力で上手に着替えられたみたいなので、優しく頭を撫でてあげます。

 そして玄関に行くと、靴を履いて寮の通路に出てみました。


「――姫様、おはようございます。本日も全身全霊を以てお守りさせていただきます」

「……そうなんですね。今日はオルさんと夜空さんとルアさんも一緒です」

「なるほど、壮観でございます」

「……?」


 なんとなく適当なことを言っているみたいなので、私たちは特に気にせずに歩き出します。ただ、ルアさんは不思議そうにロッドさんのことを見たりしているので、「見なくても大丈夫ですよ?」と伝えてみると、すぐに分かってくれたみたいで、一度こくっと頷いてからはロッドさんのことを見なくなりました。……とっても賢い子ですね。

 それからアヴィさんが『ほのぼの主様物語』という変わったお話をしてくれていると、闘技場が見えてきました。流石に試合の合間なので、歩いている方は一人もいません。


「アヴィさん、夜空さんとルアさんは出てきますか?」

「もうすぐ出てきますよ! 我がもふもふ島から連れてきます!」

「……良かった」

「……嬉しいです」

「ならお話を聞いて待ってます」


 心配してくれたオルさんも、アヴィさんの言葉を聞いて安心したみたいです。三人ともずっといい子で可愛いので、私もそのまま撫でながら歩いていくのでした。

 そうして闘技場の中に入ったあとは、いつの間にかロッドさんがいなくなったりしつつも、私たちはアドラスの特別観覧席に到着しました。

 オフィリアさんとグラシアさんも、オルさんたちを見るとすぐに駆け寄ってきてくれます。


「ふふっ、柔らかくてふわふわしてるね~」

「オフィリア? そんなにしたら可愛そうです」

「そう? 大丈夫かも」


 よく分からない感じでそう言っているのですけど、オルさんも夜空さんも嬉しそうなので大丈夫そうです。ルアさんもグラシアさんに優しく抱き締められて、安心した感じです。

 ひとまずオルさんたち三人のことをお二人に任せると、私はレティシアさんの隣に座ってみました。そしてじっと見つめていると、なにかを感じたように言ってきます。


「……ユノ、良くないことがあったのね?」

「えと、その……秘密です」


 レティシアさんには嘘をつきたくなかったので、思わずそう言ってしまいました。ただ、それだと心配をかけてしまうだけなので、しっかりと言っておきます。


「でも、私は大丈夫です。今日お別れしてしまったらまた会えなくなってしまいますけど、きっといつかレティシアさんに元気な姿を見せますね。……きっとです」

「ユノ……、あなたはお姉ちゃんと同じで、なにか大きな運命に導かれているのね……。あなたのためになるのなら、私にできることはなんでもします。だから、どんなことでも助けが必要なら言ってちょうだいね」

「ふふっ、ありがとうございます、レティシアさん。……もし助けてもらえることがあったら、その時はお願いします」

「ええ、なにもかも一人で背負い込んだらダメなの。私ではなくても、辛い道を選ばないで誰かに相談して欲しいわ。……きっとリタもそう思ってるはずよ。お姉ちゃんの助けになりたいと……」


 そう言うレティシアさんの瞳を見ていると、なんだか悲しくなってきました。慈愛と優しさで満ちていて、それでいて……とっても辛い過去を経験しているから、こんな私のことまで、より大切にしてくれるんです。レティシアさんは私のお母さんとあんな形でお別れしてしまったので、このまま私がいなくなってしまったら、リタさんが同じ気持ちをすることを分かっています。だからこそ……こう言ってくれるのだと思います。


「……レティシアさん、分かりました。……いつかお話できる時が来たら、リタさんにもレティシアさんにも、お話しようと思います」

「……そうしてください」


 そう言い、レティシアさんは私のことを優しく抱き締めてくれました。その温もりに包まれているだけで、もうずっとこうしていたいほどに……優しい気持ちになれます。

 でも、そういうわけにはいかないので、私はなんとか少しそうしてから、レティシアさんの体を離してみます。

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