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8話 その2

 私とアヴィさんが歩いていると、各寮への分かれ道にノエルさんが立っているのが見えました。それに気付いたアヴィさんがよく分からないことを言い始めます。


「主様! あいつには気付かれないようにタイミングを見て行きましょう! それか花壇などの障害物の影から移動してここを抜けましょう! 慎重に行きますよ!」

「……アヴィさん、どうしてノエルさんから隠れる必要があるんですか? よく分かりません」


 私はアヴィさんにそう言うと、ノエルさんの方に向かって歩き出します。アヴィさんは「主様待ってください!」「あいつは敵です!」「バレてしまいますよ!?」とか何とか色々と言いながら私の後を追ってきました。

 ……アヴィさんはノエルさんのこと嫌いなのでしょうか? まあ、もしそうだとしても私にとってはお友達なので関係ありませんけど。

 私が近付くとノエルさんもこちらに気付いて、直ぐに話し掛けてきます。……因みに、ノエルさんの隣には女性が二人います。きっとノエルさんのお友達でしょうね。


「ユノちゃんのこと待ってました! 一緒に校舎に行きたくて……」

「――え、私のことを待ってたんですか?」


 私が少し驚いてそう言うと、ノエルさんは「あの……迷惑でしたか?」と不安そうに私を見てきます。もちろん迷惑ではありませんけど、ノエルさんの隣にいる方が私のことを鋭く睨んできます。よく分からないので、とりあえずノエルさんに返事をします。


「ノエルさんが待っててくれて迷惑なわけありません。ただ、私を待っててくれる方なんて中々いませんから……少し驚いてしまいました」


 私がそう答えると、ノエルさんが口を開くより先に、なぜかアヴィさんが反応してきました。


「主様! 我のこと忘れないでくださいね! 我はいつも主様のことを待つ側ですよ!」


 ……もう、そんなことはどうでもいいですよ。まったく、なんなんですか。静かにしててください。今はノエルさんとお話しているんです。

 私はアヴィさんの口をムギュっと押さえつけます。すると、アヴィさんは喋ることもないのに無駄にもごもごとし始めます。……やめてください。


「アヴィさんは何も喋らないでください。……それで、ノエルさん。隣の方は誰ですか? ノエルさんのお友達……ですよね?」

「はい、そうです! ……こっちの子はシエラちゃんで――」


 ノエルさんが説明してくれようとしたところで、まさに今名前を呼ばれた方が私の前にグイッと出てきました。……因みにこの方が私を睨んでいた方です。


「貴女、ノエルに近寄らないでくれるかしら」

「……?」


 突然拒絶されてしまいました。

 ……どういうことでしょうか? 私は別に嫌われるようなことをした覚えはありません。そもそも初対面です。ただ、なにか言うべきですよね……?

 私がそうこう考えていると、直ぐにノエルさんが間に入ってくれます。


「シエラちゃん、いきなりなんてこと言うんですか……!」

「ノエル? この女は貴女を騙してるの、貴女のその優しさにつけ込んで利用しようとしてるのよ。これまでにも何度もそういうことがあったでしょ? その度にひどく悲しい思いをしたのを忘れたの?」

「――そ、それはそうですけど……でも、ユノちゃんは違います! これまでの人とは絶対に違いますから!」


 お二人のお話を聞くかぎり、ノエルさんは過去に何度も悪意ある方々に騙され、その度に裏切られてきたようです……。

 私はアヴィさんをポイッと突き飛ばすと、ノエルさんに近付きそっと体を包み込むように抱き締めました。


「私はノエルさんにそんな悲しい思いをさせません。……私も一つ、ノエルさんに秘密を打ち明けますね」


 ピタリと止まったまま動かないノエルさんのことは少し心配になりますが、それには構わず私はノエルさんの耳元で小さく囁きます。


「……私は、戦争で両親を亡くしました。……今生きている家族は、妹一人だけです。その妹と……いつか安全な場所で暮らすことが、私の夢なんです。……これは誰にも知られたくない、私の秘密です。……ノエルさんのこと、信じてます」


 私はそう言うと、ノエルさんから離れます。ノエルさんは突然のことで動揺しているようでした。

 ……どうして、私もこのことをお話したのか分かりませんけど、ノエルさんならきっと言いふらしたりしないと信じています。

 それを見ていたアヴィさんは直ぐに私の腕を引っ張ってきました。


「主様! 何を言ったんですか!? 我にも是非聞かせてください!!」


 無駄に知りたがるアヴィさんには「無理です」ときっぱり断ったのですが、教えて欲しいと喚いてしつこく纏わり付いてきます。アヴィさんなら絶対に誰にも言わないと分かりますが、そう何度も口にしたい内容じゃないのです。それに、言うとしても今は有り得ません。

 私は仕方ないのでアヴィさんをなだめることにします。頭を撫でながら「大人しくしててください」と諭すように言うと、なぜか直ぐに静かになりました。……何とも簡単な子ですね。

 そうこうしていると、ノエルさんがさっきの話を呑み込めたようで、涙を浮かべながら私を見て頷いてきます。きっと、『誰にも言いませんから』ということなんでしょうね。……ただ、泣くほど私のことを気遣ってくれるのは本当に嬉しいんですけど、隣のお友達からしたら私がひどいことを言って泣かせてしまったみたいに映るのです……。

 案の定怒ったシエラさんが私に手を出してきそうになったところで、ノエルさんが待ったをかけてくれました。……危ないです。


「待ってください! ユノちゃんはホントに私のことを信じてくれてるんです! だから、そんなに嫌わないでください……」


 ノエルさんが悲しそうな顔をすると、シエラさんも少し落ち着きを取り戻します。とりあえず、私は自己紹介をしてみることにしました。名前すらちゃんと聞けてなかったので……。


「……お二人とは初対面なので、一応自己紹介をしておきますね。……私はユノです。得意なことは剣戟と魔法で、好きなことは本を読んだり、ベッドの上でごろごろすることです。ノエルさんみたいなキラキラした優しい方とは不釣り合いだと分かっていますが、お話しているうちに自然と仲良くなって……お友達になりました。こんな私でもいいなら、よろしくお願いします」


 私は簡単に自己紹介を済ませます。それに対してノエルさんが「私の方こそユノちゃんには不釣り――」と話し始めたところでシエラさんがそれを止めました。


「ノエル、またそうやって自分を下げるのはやめなさいな。もっと自信を持たなきゃダメよ? ――それで、貴女はユノとか言ったわね。私は貴女のこと絶対に認めないから」


 シエラさんは敵意むき出しで私に当たってきます。まあ特に名乗ってくれなかったのですが、しっかり新入生の名前は頭に入っているので、この方はシエラ・ジラルディエールさんと分かります。


「シエラちゃんもお話すれば、きっとすぐに分かるはずです! だから最初から嫌うのはやめて欲しいです……!」


 ノエルさんはどうしてもお二人に私のことを認めてもらいたいようです。しかし……。


「ノエルはどうしてこんなののことを気に入っちゃったのよ! 大ハズレよ!」


 ……こんなのじゃないです。それに私は大ハズレじゃないですよ? ……多分ですけど。

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