50話 その1
「――起きてください! もう朝ですよ!」
……ん、……なんでしょう。……アヴィさんの声です。
「今日は課外学習なので、そろそろ起きないと大変です!」
「……ぅ、……がんばり……ます」
なんとかそう答えると、体を包むふかふかをなんとか剥がしていきます。
……むう、なんですか。離れてください。……離れないと大変です。
私は困りながら布団をぽすぽす叩いてみたりしたのですけど、そんなことをしている間にアヴィさんによって布団は剥がされました。
「主様、そんな可愛いことをしていても時間は過ぎていくだけです! 起きてください!」
……うぅ、全然目が開きません。……朝は頑張らないといけないので、とっても大変なんです……。
そんなことを思いながらも、どうにかアヴィさんの助けを借りて体を起こしてみます。そして少しぼーっとしながら目を擦ると、アヴィさんのことを見てみました。
「……アヴィさん、おはようございます……」
「はい! おはようございます、主様!」
「……アヴィさんは元気ですね」
「えへへ、可愛い主様を見たら元気いっぱいです!!」
「……そうですか」
……あれ? 三人がいませんね。……いえ、収納魔法に戻っているみたいです。……昨日は一緒に寝たので、そのまま疲れてしまったのかもしれません。
そう納得していると、アヴィさんが私の頭を撫でながら教えてくれます。
「オル様と夜空様とルア様は、さっきまで我と遊んでいたんですよ! でも眠くなってしまったので、そのまま主様の魔法に戻りました!」
「そうなんですね。遊んでくれてありがとうございます」
「至福の時間でした!」
そう言ってニコニコしてくるアヴィさんを見つめたあとは、一応レンさんのことも聞いてみました。ただ、レンさんは朝ごはんを作ってくれたあとに寮を出てしまったみたいで、かなり前にお出かけしてしまったのです。
「えと、アヴィさん。ごはんを食べましょう」
「いえ、それはまたあとでです! もう八時前なので、服を着て出ましょう!」
「……そんな時間なんですね。急がないといけません」
そう言うと、私は早速床に落ちている服を着ようとしました。ただ、既にアヴィさんが服を選んでくれていたので、私はそれを着てみます。そしてアヴィさんに手を握られ、そのまま玄関に向かいました。
「アヴィさん、ごはんは収納魔法に仕舞ってありますか?」
「はい! 出かける準備はできてます!」
「偉いです。……この感じだと、きっとアムネシアさんは寝過ごしていますね」
「――!? 多分大丈夫ですよ!」
「……そうですか?」
「はい、いくらなんでも起きてるはずです! そうじゃなければ我がアムネシアの顔を殴ります!」
「そんなことしたら可愛そうです。もし寝ていたらそのまま連れて行ってあげましょう」
「――流石は主様です! 我にはその発想はありませんでした!」
「んと、頑張ってみました」
どうして褒められたのか分かりませんけど、私は頷くと靴を履いて玄関を出ました。
今日はいつもの待ち合わせ場所にはノエルさんたちの姿はないので、そのまま通り過ぎて門を目指していきます。
「なんだか今日はお出かけする方が多いですね」
「日曜日の朝ですからね!」
「えと、それが原因かもしれません」
「えへへ、主様はポンコツです!」
「……あの、違いますからね」
そんな言葉にアヴィさんがなにも答えてくれないので、私は少しムッとしていました。ただ、そんな感じで適当に歩いていると、視界に馴染みのある方が映りました。
……あれ? シャルルさんですね。……誰かを待っているのでしょうか? 少しくらいならお話しても大丈夫ですよね……。
ベンチに座って本を読んでいるので、なんだか邪魔してしまう気もしますけど、それでも近付いて声を掛けることにしました。
「あの、シャルルさん?」
そう言ってみると、シャルルさんも本から視線を移して私のことを見てくれます。
「ユノさんも朝から散歩ですか?」
「えと、違います。私はこれからお友達と課外学習でお出かけなんです」
「そうですか、それならあまり時間を使ってしまう訳にはいきませんね――」
そう言うと、シャルルさんは本を閉じて私のことをじっと見つめてきました。そして、優しく微笑んでくれます。
「ユノさん、言うのが遅れましたが、優勝おめでとうございます。奮闘される姿はとても素敵でしたよ」
「んと、ありがとうございます。頑張ってみました。……あの、シャルルさんはなんの本を読んでいるんですか?」
「これは……『忘れられた肖像』という本です。ダニエル・バストーニさんが書いた、生涯最後の小説ですね」
「そうなんですか。私、その方の本なら『オリオン湖』と『堅牢な戦争』を読んだことがあります」
「……偶然ですね。私もまったく同じですよ」
「シャルルさん、すごいです。一緒の本を読んでます」
「ふふっ、そうみたいですね」
シャルルさんはそう言うと、私のほっぺに優しく手を当ててきました。
「ユノさん、今日は少しでも話せて良かったです」
「……そうですね。私もお話できて良かったです。次の時はもっとお話しましょうね」
「そうしましょう」
私はそんな言葉に頷くと、少しシャルルさんのことを見つめてからアヴィさんの元に行くのです。アヴィさんはなぜかムキーッとしているので、私はなんとなく撫でてあげます。
「アヴィさん、お待たせしました」
「まったく、主様は……!」
「なんですか?」
「なんでもありません! でも我は不満です!」
「そうですね。アヴィさんは不満です」
ひとまず適当にそう答えると、私はアヴィさんの手を握って歩き出しました。シャルルさんは優しく微笑んでくれているので、私は少しだけ手を振ってみるのです。
「アヴィさんも手を振ってあげてください」
「嫌です! 我は主様のものです!!」
「……どういうことですか」
「そのままの意味です!」
突然ニコニコになったアヴィさんに抱き付かれてしまい、私は首を横に振ったりしながら、まったりと歩くことになりました。……大変です。
そして学院の門を抜けると、少し離れたところにノエルさんたちが見えます。既にセシリアさんとアムネシアさんもいるので、しっかり起きられたみたいです。
「主様が最後ですね! 我が起こさなかったら危なかったです!」
「あの、そんなことありませんよ?」
「なんですかそれ! 流石は主様です! 我が可愛がってあげます!」
「……やめてください。アヴィさんは大人しくしているんです」
「……分かりました。……我はいい子にしています」
急に大人しくなったアヴィさんに頷くと、私は五人の元に向かいました。すると、直ぐにユッカさんが気付いてくれるのです。
「ユノさんとオルタヴィアさんが来たわ」
「ホントだね! ユノ~、こっちだよ~!」
そう言うセシリアさんたちの元に行くと、直ぐにノエルさんとセシリアさんが抱き付いてきました。
「ユノちゃん、おはようございます! 体調は大丈夫ですか?」
「ユノ! 待ってたんだよ? 早く行こ~!」
「……んと、待ってください。私も来たばかりで大変です」
「「――?」」
そんな私の言葉にノエルさんとシエラさん、ユッカさんは首を傾げるのですけど、アムネシアさんはなんとなくな感じでぼーっとしていて、セシリアさんも特に関係なくお話を始めます。