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49話 その8

 そうして天剣の練習まで終えた私たちは、頑張ってくれたルアさんのことを撫でながら寝室に向かいます。


「天剣もあとは五型だけですね」

「うん、あと少しかな」

「いい感じです。……ルアさん、今日の練習はどうでしたか?」

「魔力を纏ってみました」

「そうですね。偉いです」

主様マスターと一緒に頑張りました」

「ふふっ、いい子です」


 私がそう言って微笑んでいると、ルアさんもムギュっと抱き付きながら嬉しそうにします。

 そして寝室に着くとレンさんとアヴィさんがなにかをお話していたのですけど、私はとりあえずアムネシアさんを玄関まで見送ることにしました。


「アムネシアさん、今日は本当に一緒に食べないんですか?」

「うん、今日はいいかな」

「そうですか……」

「明日はお出かけだね」

「はい、楽しみです。……あの、アムネシアさん? もし起きてこなかったら私が起こしに行きますね」

「そうなんだ?」

「……? そうです。なので大丈夫です」

「そっか。それなら大丈夫かな」


 そんなことをお話すると、アムネシアさんはルアさんのことを優しく撫でてから帰ってしまいました。……仕方ありませんね。

 私たちが寝室に戻るとまだお二人がお話を続けていたので、ひとまずベッドに座りつつ聞いてみるのです。


「なんのお話ですか?」

「あ、それよりもシンの退学が決まりましたよ!」

「えと、そうなんですね。シンさんは大人しくしていましたか?」

「はい! 我の手にかかれば余裕です! 因みにミハエルはいてもいなくても変わりませんでした!」

「……そうですか。でもミハエルさんは私のことを守ってくれました」

「そこは評価できますね! ただ、主様は会話をすると気が緩んでしまうので注意が必要です! 特にシンみたいなのとは相性も悪かったので、安全に退学にできて良かったです!」

「……その、私もいい感じに頑張りました」

「……主様ぁ、……我の警告も覚えておいてくださいね!?」

「そうですね。……あの、お腹が空きました」


 そんな言葉にお二人は心配そうな顔をするのですけど、ルアさんは私のことをじっと見つめてきています。そしてそんなタイミングで、オルさんと夜空さんも出てきました。


「マスター、私も一緒に食べます」

「……私も食べる?」

「はい、お二人も一緒です」

「まったく、主様は色々といけない子です!」

「そんなことありません」


 私はそう言ってふんっとすると、三人と一緒にダイニングに向かいました。ただ、その直ぐ後をレンさんとアヴィさんも付いてきていたので、結局一緒に食べることになります。


「いただきます」

「主様、今日はレンしか作ってないので可愛そうですね!」

「はい、レンさんには頑張ってもらいました」

「違いますよ! 主様が可愛そうなんです!」

「……? ごはんを食べ終えたら今日作ったお菓子を出しますね」

「食べたいです」

「はい、オルさんの分もあります。夜空さんとルアさんの分もです」

「……良かった。食べれる……」

「……我も食べます」


 真剣な感じでそう言うお二人を撫でると、まったりごはんを食べながらさっきのお話のことを聞いてみました。


「えと、レンさんとアヴィさんはなにをお話していたんですか?」

「あー、ユ――」

「主様のことを話してました!」

「私のことをですか? なにかお話することがありますか?」

「はい! 主様は可愛すぎるのでいくらでもあります!」

「……そうですか」


 なんだかどうでも良さそうなことだったので、私は肩を落とすとそのまま美味しい夜ごはんを食べていくことにしました。




 それから食事やお風呂を済ませ、私たちはベッドに横になってみました。オルさんと夜空さんは布団に包まると直ぐに寝てしまったのですけど、ルアさんは寝ないように頑張っています。


「ルアさん、眠そうですね」

「……ねむいです。でも、主様ますたーといっしょにねます」

「そうですか。私ももうすぐ寝るので、ルアさんも寝て大丈夫ですよ」

「ならねます……」


 そう言い、ルアさんは私に抱き付いたままぐっすりと寝てしまいました。……因みに、ルアさんの反対側からはオルさんが私に抱き付いてきていて、夜空さんは私の上に乗っかったまま寝ています。


「オル様も夜空様もルア様も、主様をこんなに大好きで可愛すぎます……!!」

「ふふっ、そうですね。とっても可愛いです」

「主様も可愛すぎますよ! 我が一番食べたいのは主様です!!」


 私はそんな言葉を無視すると、少し体を動かそうとしてみました。ただ、流石にどうしようもありません。

 ……うぅ、これだとリタさんの魔剣を出しても危ないだけですね。やめておきましょう……。

 そう諦めると、なんとなく今日のことを振り返ってみました。

 えと、お昼前まではオフィリアさんとグラシアさんとお菓子作りをして、たくさんの美味しいお菓子を食べました。午後はミハエルさんと一緒に街をお散歩して、その帰りに……シンさんと出会い、学院から退学させたのです。……シンさんは本当に最低な方ですし、退学になって……いえ、これ以上シンさんのことを考えるのはやめましょう。嫌な気持ちになるだけです。

 私はそう思うと、一度首を横に振ってからまた別のことを考え始めました。

 ……その、ミハエルさんはとても優しい方ですけど、心の奥にどうしてあれほど深い闇があったのでしょうか。……まあ、私がそれを知るのは失礼ですし、知っても私ではきっとなんの役にも立てません。……ミハエルさんはあんなに深い闇を制御できているのに、私はまったくなのです。……師匠にずっと修行をしてもらっても、未だに未熟なままです。まったく成長していません。

 なんだか悲しくなってしまいますけど、私はその気持ちを抑えると寝ることにします。


「……アヴィさん、おやすみなさい」

「はい、主様! 我はどんな時でも主様の味方ですからね! おやすみなさい!」

「そうですか……」


 私はニコニコしながら頭を撫でてくるアヴィさんを見つめ、静かに思います。

 ……アヴィさん、私もアヴィさんの味方ですからね。……この先も一緒にいてください。

 そんな気持ちが伝わったのか、アヴィさんはなにも言わずに一度だけ頷いてきました。私もそれに微笑むと、ゆっくり目を閉じます。


「……アヴィさん。もし私が死んでしまったら、この子たちのことはアヴィさんに任せますね……」

「主様ぁ、そんな悲しいことは言わないでください……。我が必ず死なせませんからね?」

「……ふふっ、アヴィさんは優しいです」

「……主様ぁ。我は真剣です……」


 ……うぅ、もう眠いです。……でも、アヴィさん……ありがとうございます。……アヴィさんの気持ちは、私にはあまりに大きすぎる……不釣り合いなものです。こんな私のことを大切に思ってくれて、……本当に嬉しいです。

 そう思いながら、私はゆっくりと眠りに落ちていきました。その直前、なにかアヴィさんの声が聞こえてきます。


「――様、……はあの日――」


 そんな不思議な言葉と共に、私の意識はなくなりました。

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