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序章 その6

「何をですか?」

「お前が採取した魔石のことだ」


 ……なるほど。そういえばまだ用途を聞いてなかったですね。


「たしかに忘れてましたけど。……何に使うんですか?」

「何、大したことでは無いよ。お前の学費にするだけだ」

「学費、ですか」


 ……むう。何でしょう? 引っかかりますね。えーと? 魔石を、私が採取し、学費に? ――そういう事ですか。


「――師匠。魔石採取を私にやらせる前から、私を学院に入学させることは決めていたんですね?」

「そういうことになるね」

「――なら、なんでわざわざ三ヶ月もの間、鉱山の資料を作らせたりしたんですか? 消却するのは元から決まっていましたよね?」

「何となくお前の仕事を増やそうと思ってな。ただそれだけだ」


 ――そんな理由で? ふざけないでください。

 文句を散々言いたい気持ちはありますが、どうせさっきみたいに返されて終わりなので、今回ばかりは我慢です、仕方ないです。落ち着くんですよ、私。

 自分自身にそう言い聞かせ、何とか気持ちを落ち着かせた後に「師匠、お仕事のお話はこれで終わりですか?」と聞いてみますが、どうやらまだ続くようです。


「お前がそのまま学院に行っても本人確認の時点で偽装工作がバレてしまう」


 そういえば、これには思い当たる節があります。


「固有魔法のことですね?」

「そうだ。だからこれを付けておけ」


 そう言い、師匠は私にペンダントを渡してきました。


「それは私が魔法で作ったものだ。付けていれば固有魔法を偽る事が出来る。いかなる魔法具や教師連中でも見抜くことは叶わないだろう。……だが、学長だけは分からん。気を付けておけ」

「……分かりました」


 とりあえず、私はペンダントを着けてから尋ねます。


「師匠はこれが偽装系の魔法具と見抜くのにどれくらい時間が掛かりますか?」


 師匠は一瞬私を見てから答えました。


「ふむ。ほぼ一瞬と言ったところだな」


 予想以上に早いですね。ただ、そんな性能では困ります。


「師匠ほど早いかは別としても、学長さんに違和感を持たれた時点でほぼ終わりなんですから、もう少し性能を上げてください」

「そこはお前が上手く立ち回れ」


 そうあしらわれてしまいました。この感じだとお願いしても聞いてもらえないでしょうから、諦めるしかないです。

 しかし、結構困りますね。何か対策を考えなきゃまずそうです。

 それから私は何も言わずに師匠が何か言うのを待っていましたが、師匠は無言のままでした。困った私は自分から切り出すことにします。


「師匠、お仕事のお話は他にないですか?」

「ああ、入学までの三週間は自由にするといい」


 ……ふぅ、長かったですが、ようやくお話が終わりました。ただ、三週間自由ですか、なかなかいいですね。やりたいことは沢山あります。まずは妹のことを聞いてみましょう。


「リタさんはもう寝ていますか?」

「今日お前が帰ってくることは言っていないからな。恐らく寝ているだろう。会うのはまた明日にしておけ」

「そうですね。起こしてしまっても悪いので。……なら私もお風呂に入って寝るとしましょう。流石に昨日から入れてないですし、山登りまでしましたからね。べとべとしてて気持ち悪いです」


 一応、山登りをして大変だったこととかを、それとなく入れてみましたが、師匠は無視したままで返事は返ってきませんでした。……私のことなんだと思ってるんでしょう。


「で、では失礼します」


 そう言い、私は部屋を出ます。

 扉を閉じると、どっと疲れが現れました。緊張から解放されて一気に気が緩んだからでしょう。加えて休みの無いお仕事に、長い列車に山登りもありましたからね。

 はぁ……本当に疲れました。早くお風呂に入って寝たいので、こんなところで休むのは惜しいですよね。まずは、私の部屋に戻りましょうか。

 そうして、私は自室に荷物を置き、着替えを持ってお風呂場に行きました。







 体を洗い終え、髪を洗い流しているときです。ふと鏡を見て思いました。

 私の髪は白色で稀有けうなことが原因し、街を歩くとよく視線が集まります。だから普段街を歩くときはフードを深く被り髪を隠しているんです。……しかし、学院内でフードをするというわけにはいかないと思うので、これも注目を集める原因になりそうです。

 今のところ確定している、学院での私の像というのは、

『一学年に数人しか居ない平民』

『学年最下位の学力』

『ほぼ全ての魔法適正が最低ランク』

 ……これは流石に悪い意味で目立ちそうですね。

 それに、パンドラさんが私の変装をして入学試験を受けたというのが怖すぎます。

 なにもやらかしてないといいんですけど……。そもそもですが、私自身も学校に通ったことなんてないですし、不安な要素しかないじゃないですか。と言っても、こうなってしまった以上仕方ないです。また明日以降に対策を考えましょう。

 そして私は面倒事から目をつぶり、湯船に浸かりました。


「んぅ~~っ」


 とっても暖かくて気持ちよくて……幸せです。

 疲れた体を優しく包み込んでくれます。

 ……なんだか、眠くなってきました。まぶたが重いです……。




 そのまま私はいつの間にか寝てしまったようです。幸い直ぐに目が覚めたので、もう一度寝てしまう前にと急いで湯船から上がりました。それから何とか身体を拭き、服を着て、重い体を引きずりながらも自室へ戻り、溜まった疲れを癒すように深い眠りについたのでした。

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