40話 その12
私が入口を抜けて歩いていくと、直ぐに会場内は大きな拍手に包まれました。私はまったりと歩きながら、アルスティナの特別観覧席を見てみます。
……そういえば、クラウディアさんとはあれ以来お会いしていませんね。あとで応援のためにも控え室に行ってみましょう。
そんなことを考えていると、またアヴィさんの声が聞こえてきました。
「――主様!! 我と主様は永遠の愛で、運命で結ばれています!! 今日も抱き合って寝ましょうね!!」
……むう、大きな声は出さないでください。ダメって言ったのにひどいです。……まったく、アヴィさんは優しいのにいけない子です。
私はそんな感じで少しムッとしていていたのですけど、オーストレイニアの観覧席に目を移すとアムネシアさんとヴェロニカさんがいて、偶然アムネシアさんと目が合いました。そのままじっと見つめているとアムネシアさんは首を傾げてきたので、私は「違います」と言って首を横に振っておくのです。
ただ、そんなことをしていると劇場に上がってしまったので、私はしっかりと集中して中央に向かって歩いていきます。アルバートさんは私のことを見ているのですけど、優しく微笑んできています。……たしか、アヴィさんは笑顔を取り繕っているとお話していましたね。やっぱりそんな感じには見えませんけど、どうなんでしょう。
私は不思議に思いつつも、印の上に立ってみました。すると、直ぐにアルバートさんが話し掛けてきます。
「ユノ、君とは実際に会って話がしたかったんです」
「……そうなんですか」
私が少し小さくそう答えてみると、アルバートさんはそのまま微笑みつつ話を続けました。
「自己紹介がまだでしたね。僕はアルバート=アレクサンドロス・ヴァレンシアと言います。気兼ねなくアルバートと呼んで構いませんよ」
「……えと、分かりました。アルバートさん」
「君のことはよく耳にしますが、噂と違って素敵な方のようですね」
「……そんなことはありません」
「いえ、こうして少し話しただけで分かりますよ。僕も次期ヴァレンシアの皇帝という立場ですから、人を見る目は養われています」
「……そうですか」
……えぇと、もう少ししっかりと養ってください。かなり間違っています。
私がそんなことを考えていると、アルバートさんは静かに私のことを見つめてから一度近付いてきます。無言で歩いてくるので、なにか怒らせてしまったのかと勘違いしてしまったのですけど、特にそういうわけではなかったようです。
「こうして見てみると、たしかにユノはオフィリアとグラシアと似ていますね。親戚というのは聞いていますが、かなり血も近いんですか?」
「んと、秘密ですけど、かなり近いです」
「ふふっ、中々面白いですよ」
「そうですか?」
「はい、素敵な返答です」
……んと、面白かったみたいで良かったです。……アルバートさんも聞いていたお話と違って優しい方みたいですね。……いえ、よく考えてみれば、たしか剣術大会の時にシュベールの王女様……エレンさんのことは『エレン王女』と呼んでいました。ですが、仲が良さそうだったアルフさんのことは『アルフ』と呼び捨てでしたし、今もオフィリアさんとグラシアさんのことは呼び捨てです。つまり、アルバートさんはオフィリアさんとグラシアさんともお友達なのかもしれません。……そんな方が優しくないわけありませんね。
そのことに気付いた私は、少し安心したので早速話し掛けてみました。
「アルバートさんはオフィリアさんとグラシアさんといつお会いしたんですか?」
「……二人と初めてお会いしたのは、たしか十五の時なので……半年ほど前ですね。まあ、学院のことで色々と話すことができたからですが……。それでも、お会いできて本当に良かったですよ」
「そうなんですね」
「……その様子だと、二人からはなにも聞いていませんね?」
「はい、お二人はなにもお話してくれませんでした」
私のそんな言葉を聞いてアルバートさんは少し考え出すと、一度アドラスの特別観覧席の方を見てから口にします。
「ユノ、今から僕が言うことは秘密にしてくれませんか?」
「……? いいですよ」
「……実はですね、僕は……オフィリアのことが好きなんです」
「アルバートさん、私もオフィリアさんのことが好きです」
「……そうではなく、心の底から愛しているということですよ」
「……えと、恋愛の好きということですか?」
「そうなりますね」
……んと、そうだったんですね。恋愛の好きと普通の好きの違いはよく分かりませんけど、オフィリアさんは優しいので好きになるのもなんとなく分かる気がします。……でも、グラシアさんだって優しいです。
「あの、アルバートさん? グラシアさんのことはどうなんですか?」
そんなことを聞いてみると、アルバートさんは少し黙ってしまいました。その間じっと私のことを見つめてくるのですけど、私が頷いたりしているとようやく口を開いてくれます。
「ふふっ、ユノは中々変わっていますね」
「……変わっていません」
そんなことを言われて私が少しムッとしていると、アルバートさんは僅かに肩をすくめました。
「グラシアのことは……、いや、グラシアは……。一度も、笑ってくれないんですよね……」
「そうですか? 私には笑ってくれました」
「……そうなんですか。……まあ、立ち話はこれくらいにして、始めましょうか」
そう言って優しく微笑んできたので、私も「頑張ります」と言っておきました。それを聞いてアルバートさんは一度小さく頷くと、印の上まで歩いていきます。
「ユノ、手加減はしませんよ。全力できてください」
「えと、アルバートさんは手加減してください。私は全力でいきます」
「……困りましたね。僕もそうしたいのは山々ですが、手を抜いて君に勝てるほど、強くはありません」
「……そうですか。でも優しくしてくださいね」
私がそう言うと、アルバートさんはなぜかまた少し肩をすくめてしまいました。ただ、そんな私たちに先生は確認してきます。
「……双方、準備はよろしいですね?」
アルバートさんも私もまったく準備はしていなかったのですけど、まったりお話していたからなのか、突然そんなことを言ってくるのです。仕方がないので剣を構えると、私はもう一度集中することにしました。
……んと、アルバートさんのせいで集中力が切れてしまいましたけど、またしっかりと集中し直しましょう。……そうしないと、きっと負けてしまいます。
私がアルバートさんのことをじっと見つめると、アルバートさんも真剣な表情になって剣を構えてきます。そして僅かな沈黙が流れ、先生が口を開きました。
「……では、第五試合、――開始です!」




