3話 その1
「ユノ、そろそろ起きないと遅刻するぞ」
「主様!! 起きてください!」
……うるさい、ですね。なんなんですか……。
私は睡眠魔法五型を無詠唱で発動します。
「……なん、だ……? 急に眠く……」
「う……主様……?」
直ぐに静かになったので私は再び心地よく眠りました。
〇
「……ぅん~」
布団の柔らかな感触に包まれながら、私は目を覚ましました。
……そろそろ朝ですね。布団が恋しいですけど起きましょう。頑張らなきゃいけませんね。
そんな感じで自分に言い聞かせて布団から離れる覚悟を決めます。それでもかなり苦戦しましたが、やっとのことで目を開け起き上がります。ベッドから降りようとすると、直ぐ近くの床でレンさんとアヴィさんが寝ていました。
……えと? お二人とも奇妙なことをしていますね。起こしてあげた方がいいでしょうか?
そう思いつつ時間を確認したら、既に九時半過ぎでした。
――え、完全に遅刻じゃないですか……。お二人はどうして起こしてくれないんですか? というかなんで床で寝ているんですか……?
色々と思うところはありますが、とりあえず急いでお二人に声を掛けます。
「起きてください! レンさん、アヴィさん!」
そう言いながら二人の体を揺らします。
「……あるじ……さま?」
「早く起きてください! お二人とも、今何時か分かりますか?」
「……ん? 俺寝てたのか……。ユノ……あー、今は七時半過ぎくらいか?」
なに寝ぼけてるんですか。しっかりしてください。
「主様、今は七時半過ぎじゃないんですか?」
アヴィさんまで……。どうしたんでしょう、お二人も揃って。
「お二人とも全然違いますよ。……今は九時半です、完全に遅刻です。授業初日に関わらずですよ」
「……嘘、だろ……?」
「はあ、主様……」
レンさんもアヴィさんも私を見て信じられないと言った感じです。
まったく、なんなんですか? 私も寝ていましたけど、お二人だって寝ていたじゃないですか。私が今起こさなかったらお二人はもっと遅刻していたんです。感謝して欲しいくらいですよ。
私が不満に思っていると、レンさんはなにかを考え始めました。
「……いや、というかちょっと待ってくれ」
「……?」
「俺とアヴィは七時半前にユノのことを起こしに来たんだ。でも、ユノに声を掛けてる時に突然眠気に襲われてな」
「我もです、主様! 突然眠くなりました!」
お二人はそんなことを言ってきます。
――もしかして、ですけど……この状況はまずいかもしれません。
私も過去に何度もこの光景は見たことがあります。どうやら私は寝ぼけて無詠唱で睡眠魔法を使ってしまったようです。一人ならまだしも二人一緒にはまずいですね。記憶魔法で操作するにしても流石に誤魔化すには限度があります、実際に遅刻してしまっているので……。ですが、認めるわけにはいきません。
私は適当に誤魔化すことにします。
「奇妙なこともあるんですね。私は寝ていたのでよく分かりませんけど……」
「んー、思い返せばあの感覚は確実に魔法を受けた感覚だったな」
「……というか、早く支度しないとまずいですね」
お二人は既に着替えているのでいいですけど、私はもちろん着替えていません。ベッドから立ち上がると、私は急いで制服を着ていきます。
ただ、そんな私に対して、既に怪しんでいるお二人は喋り始めます。
「主様! 何か隠しているなら教えてください! 誰にも言いませんから!」
「ああ、俺も絶対に言わないから教えてくれ」
……お二人とも無駄に鋭いですね。なんで原因が私にあると確信しているんですか。ですが、三日目にしてバレそうになっているこの状況……。隠し通すにしても三年はまず無理でしょうね。だったら逆に、という戦法です。寝ぼけている時に限って魔法を無詠唱で使えるということにしてしまいましょう。なんとも奇妙なお話ですが仕方ありません。……誰にも言わないでもらえるかどうか、一か八ですがお二人を信じてみるしかありません。
「――分かりました。お二人のこと信じていいですね?」
私がそう言うと、お二人は真剣な顔で頷きました。
「実はですね、私は寝ぼけている時や意識が曖昧な時に、稀に無詠唱で魔法が使えるようなんです」
それを聞くとお二人は驚いていますが、師匠が言っていたような心配は無さそうでした。
「……マジか、凄いな」
「主様……!! 我は感激です! 流石主様です!」
「……でも、そうなると今後が問題だな。また今日みたいに眠らせられる可能性があるのか」
「……そうですけど。でも、今後は大丈夫です。私普通に起きられるので心配しないでください。だから起こしに来ないで大丈夫ですよ」
私はそう言って、安心するように促します。ただ、アヴィさんは無駄に反論してきました。
「主様! 今日も目覚まし時計がずっと鳴り響いていましたよ! でも主様はまったく起きる気配がなかったです!」
「……まあそれはそれです。それよりもですけど、朝ごはんを用意してもらってました?」
「そういやそうだな、……もう冷めてるな流石に」
……むう、仕方ありません。ここは私が食べ物の時間を戻しましょう。
「お二人とも、ここで少し待っててください」
「主様?」
「どうした?」
私は急いでダイニングに向かいます。案の定、せっかく作ってもらった朝ごはんは冷めきっていたので、時間魔法二型を唱え、料理を二時間ほど戻しました。
……よし、いい感じに美味しそうです。
そうしてお二人を呼んできて急いでごはんを食べることにしました。
「あれ? 全然冷めてないな」
「確かにまったく冷めていないな! ……これは主様が?」
「はい。熱魔法と水魔法、その他にも幾つか使って上手くやりました」
我ながら意味の分からないことを言っていましたが、お二人はあんまり気にしていないようでした。……良かったです。
結局、私たちが教室に着いたのは十時過ぎでした。
教室に入ると異様な眼差しで見られます。そして直ぐにエレナ先生が話し掛けてきます。
「三人とも、この授業の後に話があるので来てください。いいですね?」
私たち三人は無言で頷き、慎ましく席に着きました。
〇
「――今回やった所は今後何度も出てくるのでしっかり覚えておいてください。ではここまでとします」
エレナ先生は授業の終わりを告げると、私たちの方を見てきました。
……多分お説教ですよね。
私はお二人に謝っておきます。
「ごめんなさい、お二人まで巻き込んでしまって……」
「いや気にしなくていい」
「そうです! 我はなんとも思っていません!」
「……そう言ってもらえると助かりますが……」
「それよりもエレナのことは我に任せてください!」
アヴィさんは自信満々にそう言います。それに対して私は、「……そうですね」と適当に返しておきました。
たしかアヴィさんのお話によると、エレナ先生とロレンツォ先生はアヴィさんに頭が上がらないのだとか。果たして本当なのでしょうか……。
私たちがエレナ先生の元に向かうと、エレナ先生は「付いてきなさい」とだけ言い、歩き始めます。私たちは無言のままそれに付いて行きました。そして、教室の隣の資料室に入った所でエレナ先生が話し始めます。
「まずは遅刻の理由を聞きましょう。三人とも、口に出さずにこの紙に書いてください。少しでも示し合わせるような素振りを見せたなら、覚悟しておいてくださいね」
……覚悟とはなにをでしょうか。
少し疑問に思いつつ、私は紙を受け取ります。
さて、なんて書きましょう。私が睡眠魔法で眠らせたなんて書けばかなり問題ですよね。ここは寝坊したとでも書いておきましょう。




