2話 その1
なにか違和感があって目が覚めました。
「……んぅ~、みゅ……?」
薄ら目を開けてみると、太陽の日差しがとても眩しく照りつけていて、カーテンを貫通してきていました。
……はあ、太陽も元気すぎです。雲はなにしてるんですか。……それにしても、朝ってしんどいですね……。
そんなことを不満に思いながら起き上がろうとしてみると、体になにか巻き付いていました。私は何となくそれをギュッと掴んでみます。
「痛いです、主様!」
……えと、どういうことでしょう。
「アヴィさんはいつ私のベッドに入ってきたんですか?」
「昨日の夜、主様が寝た後です!」
そう言い、アヴィさんは嬉しそうに微笑みました。
……たしか昨日の夜は、アヴィさんに私のベッドに入ってはダメと伝えたはずです。それなのに入ってきてたわけですか。まったく油断も隙もありませんね。……というか、流石に寝た後に入って来られてはどうしようもありません。
とりあえず、私はアヴィさんに聞いておきます。
「あの、狭くなかったですか?」
「全然です! むしろ我は主様に抱き付いていたので、スペースはかなり余っていましたよ!」
「……そうですか。なら別に構いませんけど……」
そう答えると、アヴィさんは「――えっ!?」と驚きました。
「どうしたんですか?」
「いえ! なら今後は主様のベッドに入ってもいいということですね!?」
「……どういうことですか? ダメですよ?」
「今、『なら別に構いません』って言ったじゃないですか!?」
……? 何が言いたいのかよく分からないです。
私はそんなことを言うアヴィさんは無視して、レンさんのベッドの方を見ます。しかし、既にベッドの上にレンさんの姿はありませんでした。とりあえず、時計を見てみると時刻は七時半過ぎです。
……忘れてましたが、朝ごはんを作らなきゃいけないんでした。かなりまずいです。一から作るには時間があまりありません。というか、ちょっと間に合わないかもしれません……。
そう思い、急いで私がベッドから降りた時、ちょうどレンさんが部屋に入ってきます。
「……おはようユノ、アヴィ。ちょうど起こそうと思ってたところだ」
「レンさん、おはようございます。……と、そうではなくて、朝ごはんを急いで作らないと遅刻してしまいます。直ぐに準備を始めますね」
私が急いで動き出そうとすると、レンさんが微笑んできます。
「いや、ちょうど朝ごはんができたから起こしに来たところだ。だからそんなに焦らないでも大丈夫だぞ」
「……え、そうだったんですか? ごめんなさい、私たちが寝ている間に……。とても助かります」
レンさんはなんて気が利くんでしょう。私とアヴィさんが寝ている間に、私たちの分の朝ごはんまで作ってくれるなんて……。
私が感心していると、アヴィさんはありえない発言をします。
「……ほう、レンにしては少しは使えるではないか! 今後もその心持ちで誠心誠意努めるといい!!」
「んーまあ、そうだな。……二人も起きてることだし、ごはんをよそっておくから適当に来てくれ。……ただ、その、ユノは食べに来る前に服は着てくれ、頼むから……」
レンさんはアヴィさんに意味のわからないことを言われても、特に気にする様子はないようです。ですが、若干落ち着きがなく、視線を散らしながら部屋を出ていきました。
……レンさんがやたらと服にこだわってくるのはなぜでしょう。私は誰がどんな服を着ていようと別に気になりませんけど、レンさんは違うようです。私が今着ている下着が似合っていないということなんでしょうか? まあ、よく分かりません……。
そうこう考えましたが、ひとまずそれは置いておき、私は気になったことを聞いてみます。
「……あの、アヴィさん。どうしてレンさんにそんなひどいことを言えるんですか?」
「そんなひどいことって、我はなにかひどいことを言ってましたか!?」
「……えと、心当たりが無いなら大丈夫です」
「分かりました! 気にしないでおきます!」
私は聞くことを諦めます。というか、説明するには時間がかかりそうなので、今から聞き出すのは厳しいと考えました。
「とりあえず、ご飯を食べましょうか」
「そうですね、主様!」
それから直ぐに私とアヴィさんはレンさんの元に向かいましたが、用意してもらった朝ごはんを見て驚いてしまいました。……想像以上で、とても豪華だったのです。
「えっと、これはレンさんがお一人で?」
「……ん? あー、そうだな――って、ユノ、あのな……」
「どうしましたか?」
「さっきも言ったけど、下着のままは……いや、なんでもない気にしないでくれ……」
レンさんがそう言うので、私はとりあえず頷いておきました。また服のお話をしてこようとしたのには驚きですが、それには触れずにごはんのお話を続けます。
「あの、こちらのフルーツやヨーグルトはどうしたんですか? 昨日はたしか買っていませんよね?」
そう言いながらテーブルの上を見てみますが、昨日買っていない食べ物が他にもいくつか並んでいます。
「昨日の夜、散歩してる時にもらったんだ。みんな親切でな」
よくそんな簡単に初対面の方と打ち解けられますね。食べ物を分けてもらえるほどって相当じゃないですか。……とても真似できません。
「……えと、レンさんが貰ったものなのに、私たちが食べても大丈夫ですか?」
「別にいいんじゃないか?」
「……そうですか。ならいただきます」
それにしても凄いですね。パンに野菜にお肉、フルーツにヨーグルトまであります。因みにお肉もレンさんが貰ったもののようです。
私はまずパンを一つ掴んでみました。嬉しいことに、パンは出来立てだったようで、とても温かくて柔らかいです。早速食べてみると、口の中にふわふわな食感ととろけるような甘みが広がり、体が美味しさに包まれてしまいます。……最高ですね。
パン一つをあっという間に食べ終えた私は、一度冷静になってからレンさんに聞いてみました。
「パンはレンさんが焼いたんですか?」
「ああ、少し前にな」
「そうですか、とっても美味しいです!」
「それなら良かった」
そう言い、レンさんは私がごはんを堪能しているのを、嬉しそうに見てきました。
それから私たちは朝ごはんを食べ終わり、制服を着たりと準備をしていました。
朝ごはんを食べている時に聞いたのですが、レンさんは六時に起きてから一度外を散歩し、その後にご飯の準備をしてくれたのだとか。……かなり活動的なようです。
私はふと、昨日のことを思い出したので質問してみます。
「アヴィさんって学力試験は何位でした?」
私がまったく聞いたことのなかった病気のことまで、詳しく知っていましたからね。多分ですけど相当賢いのかなと思ったのです。
「たしか、我は15位でした!」
……あれ? 案外低いですね。もっと上かと思っていました。
「……そうですか、意外と低いですね」
私がそう答えると、アヴィさんは単純に馬鹿にされたと勘違いしたのか私にも聞いてきます。
「主様は何位だったんですか!?」
「えーと、私はその……あれです」
「あれってなんですか!?」
……むう。言いたくないので言わないでおきましょう。
「あれはあれです。もうこのお話は終わりです」
「えぇ!? 主様から言ってきたのに!!」
私はあんまり考えずにアヴィさんに話し掛けていましたが、よく考えてみるとパンドラさんが集めてくれた新入生の個人情報の中に普通に書いてありました。……因みに、レンさんは41位です。新入生は400人なのでかなり上ですね。
しかし、こういったことに関する嬉しい誤算は、学力試験の結果などが他の生徒に知られていないことです。公表されるものと思っていましたが、どうやら違ったようです。これで私が最下位だとか馬鹿にされることが無くなりました。……良かったです。




