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23話 その18

「主様、すみません! 少し意地悪をしてしまいました! オル様にパンを作る時には主様の分も一緒に作りますね!!」

「……んと、ホントに作ってくれるんですか?」

「もちろんです!! 我は主様のことが大好きなんですから!!」

「……そうですか。なら楽しみにしてます」

「はい、楽しみにしててください! もはやパンだけならレンの腕も超えていますからね!」


 そうなんですね。レンさんよりも美味しいなんてすごすぎます。アヴィさんのパンは毎日食べていますけど、どれも信じられないくらい美味しいので、たしかにそうなのかもしれません。とっても楽しみです。

 私が満足していると、ラファエルさんが少し緊張しながらオルさんに声を掛けました。


「……その、オル。私も美味しい食べ物をあげるから口にキスをしていいか?」

「それならいいです」

「――本当なのか!?」

「ホントです」

「――あ、う……。信じられない、最高だ……」


 変な喜び方をしているラファエルさんですが、アヴィさんが冷静に言います。


「オル様? ラファエルの持ってくる料理は買ってきたものなので、我が作ったものの方が全てにおいて美味しいですよ! だからキスはしない方がいいです!!」

「分かりました。ならしません」

「――な、……オルタヴィア! お前は今なにをしたのか分かっているのか?」

「黙れ、凡人!! オル様の体は主様の体と変わらないのだ! キスなんて許させるわけないだろう!!」

「――ぐっ、それならオルタヴィア……お前だってキスはするな。卑怯者……」

「ふん、なんとでも言え! 凡人がなにを叫ぼうが興味などない!」


 そんなことを言うと、アヴィさんは私たちにニコニコと微笑んできました。ラファエルさんは怒っているようですけど、まあ無視でいいですね。

 それから私がアヴィさんのことを見つめたタイミングで、闘技場内に先生の声が響きます。


「これより第九試合、アルスティナ帝国、ミハエル・アンチェロッティ。正道オーストレイニア皇国、アルフレッド=ウィリアム・オーストレイニアの試合となります」


 そう聞こえてから数秒後に入口からミハエルさんが顔を出し、大きな拍手が起こりました。私も拍手をしますが、オルさんも拍手をしています。……偉いです。

 そしてある程度のところまで歩いてから、私たちの方に向かって手を振ってきました。私と目が合っているようなので、同じように手を振り返してみます。すると、ミハエルさんはニコニコしながらなにかを言って、中央に向かってしまいました。……遠くて聞こえないのに、わざわざなにを言ったのでしょうか。

 私は少し首を傾げながらも、ミハエルさんを眺めることにします。その後ミハエルさんがゆっくりと歩きながら劇場の中央に着いたところで、ようやくもう一つの入口からアルフさんが姿を現しました。そしてその瞬間、とても大きな拍手と歓声が沸き起こります。それに応えるように、アルフさんも笑顔で観覧席に手を振り、ゆっくりと中央に向かって歩き始めました。

 私はなんとなくラファエルさんの方を見てみたのですが、なぜかミハエルさん以上に緊張しているようなので、声を掛けてみます。


「ラファエルさん、大丈夫ですか?」

「……う、大丈夫だ。私は大丈夫だ」

「ホントですか? 緊張していますよね?」

「き、緊張などしていない! ……く、ミハエルが心配だ……」

「ミハエルさんなら大丈夫です。とりあえずラファエルさんが落ち着いてください」


 そう言ってみたのですけど、ラファエルさんは余計辛そうな顔をしてしまいました。


「ユノはあの皇子の余裕が分からないのか? あれはミハエルに勝てると確信しているから出てくるものだ」

「そうですか? アルフさんは穏やかな方なので、そんなこと考えていないと思いますよ?」

「ゆ、ユノはどっちを応援しているんだ?」

「……そうですね。ミハエルさんでしょうか」


 別にどちらという程でもないんですけどね。それでもどちらかと言えばミハエルさんです。ミハエルさんは私に特に優しい気がします。やっぱり優しくしてもらえるのは嬉しいです。……頑張って欲しいですね。

 そう答える私に対して、ラファエルさんは「そ、そうか。……良かった」と勝手に納得します。そして、そんなタイミングでアルフさんは中央まで辿り着くのでした。

 お二人はなにかをお話しているのですけど、どことなく楽しそうな雰囲気です。お二人とも優しい方なので、気が合うのかもしれません。そして適当に満足したお二人が剣を構えると、観覧席から歓声が上がりました。……よく分かりませんけど、すごいと思います。


「双方、準備はよろしいですね?」


 そんな先生の確認にお二人が頷き、試合の開始が告げられます。


「では、第九試合、――開始です!」


 その言葉が発せられた瞬間、突然アルフさんが結界ギリギリまで吹き飛ばされました。速くてあまりよく見えなかったのですけど、ミハエルさんが一瞬で距離を詰めて剣を振り抜いたみたいです。それをアルフさんは防いだものの、ミハエルさんの剣には極めて精緻せいちに織り込まれた魔力が流れていたようなので、衝撃を抑えきれずに吹き飛ばされてしまったのだと思います。

 なんとか結界内に踏み止まったアルフさんは即座に体勢を立て直そうとしますが、ミハエルさんも容赦なくその隙を狙い、間髪をれずに追い打ちをかけました。ただ、アルフさんはお話に聞いていた通りすごい方で、ろくに剣すら構えていないところからミハエルさんの追撃に間に合わせると、剣を受け流してカウンターを放ちます。それにはミハエルさんも即座に防御に回りますが、剣と剣が触れ合う瞬間、アルフさんの体から莫大な魔力が剣に流れ込みました。もちろん、ミハエルさんも魔力を纏ってしっかり対応したのですけど、流石に魔力量の違いもあって体が後方に弾き飛ばされてしまいます。

 ミハエルさんは吐血しながらも剣を地面に突き刺して威力を抑えると、結界ギリギリでなんとか勢いを止めることができました。数秒前とは完全に逆の構図で、今度はアルフさんがミハエルさんに追撃をしに向かいます。かなり押し込まれてしまったミハエルさんもそれと同時に立ち上がり、自らアルフさんとの距離を詰めにいきました。結局劇場の中央辺りで再び剣が交差するお二人は、お互いに丁寧で華麗な剣戟を繰り広げ、相手に一歩も譲ることなく攻撃を続けます。

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