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1話 その5

 寮に着くと、早速私は自分の部屋に向かいました。

 ……328号室、ここですね。

 もらった鍵を使ってドアを開けて中に入ります。……なんだか広そうな予感です。玄関からは廊下しか見えませんが、その廊下が長いのです。右側に扉が一つ、左側に扉が3つ、正面に扉が一つあります。

 私は玄関で靴を脱ぐと、早速左側から見ていくことにしました。因みに、玄関で靴を脱ぐのはアルスティナ帝国を含めてほか数国だけなのですが、師匠の家ではなぜか靴を脱ぎません。そんな生活に慣れているので、一応両方に馴染みがあります。

 とりあえず私は順番に扉を開けていきました。まず手前がトイレです。次は特に何も無い部屋で、三つ目がキッチン兼ダイニングです。……ただ、なぜでしょう。無駄に広いです。数人用と言った感じでしょうか。

 そして、正面の扉の奥には洗面所があり、その更に右手にお風呂場があります。ここまでは良かったのですが、右側の扉を開けた時に問題に気付きます。

 ……えと、なぜベッドが三つも? てっきり私だけの部屋だと思っていましたが……。三つと言うことは、平民三人をごちゃ混ぜにという感じでしょうか? 莫大な資金を持つ学院なので、一人ひとりの部屋がこれだけ大きいのだと勘違いしてましたけど、流石に平民にはそこまで親切では無かったみたいですね。……どのベッドを使うか他の方はこだわったりするのでしょうか? まあ、多分しませんよね。こういうのは早い者勝ちです。好きに選ばせてもらいましょう。

 結局部屋に入ってから正面にあるベッド、つまり真ん中のベッドを使うことに決めました。疲れて戻って来た後、直ぐにベッドに飛び込めるのが決め手となりました。






 それから時間が経ち、ベッドの上でごろごろとしていたら玄関の扉が開く音が聞こえました。誰かが来たみたいです。

 そして直ぐにガチャリと部屋の扉が開きます。


「おっ!? マジか……」


 入ってきたのはレンさんでした。驚いているようなので、少しだけ会釈えしゃくをしてみます。


「どうも……。一緒の部屋のようなので、これからよろしくお願いします」


 私がそう言うと、レンさんは「……あ、ああ。そうだな。――いや、そうなのか? 本当に同じ部屋なのか?」と、まだ動揺しています。

 ……しかしまあ、靴が置いてあるので誰かいるのは分かると思いますが、何を驚いているんですか。……もしかして、自己紹介の時のこともありますし、私のことを変な人だと思っていたりして……。一応誤解を解いておきましょう。


「あの、自己紹介の時に私がフォーデン皇子と揉めていたというお話がありましたけど、あれは本当に事実ではありませんからね。もしフォーデン皇子に確認してみて私と揉めたと言ってきたなら、誰かが私の見た目を変身魔法でよそおって嫌がらせをしたんだと思います」

「いや、それは別に俺としてはどっちでもいいけどさ。今はその話じゃないだろ」


 そうですか、良かったです。私のことを変な人だと思ってるわけではないんですね。

 ただそうなると、それはそれでレンさんの言っていることが分からないので、素直に聞いてみることにします。


「えと、でしたらレンさんはなんのお話をしてるんですか?」

「……いや、逆に何も思わないのか?」


 えと、なんですか? 何も思わないってなんのことを……いえ、そういうことですか。分かりました。


「私の独断で決めてしまったことは謝ります。ごめんなさい。もう一人の方が来てからしっかり決め直しましょう」

「……?」


 レンさんは首を傾げて私を見てきます。

 ……むう、普通に謝るだけでは許してくれないみたいです。雰囲気と違って結構堅い人なんでしょうか? なら、条件を提示して納得してもらいましょう。


「分かりました。では、先にお二人に決めてもらって、私は最後に残ったところにします。これで許してもらえませんか?」

「……??」


 レンさんは依然として不思議そうな顔で私を見つめてきます。

 もう、この方はどうしたら納得してくれるんでしょう。流石にこれ以上は譲歩できませんよ? 私だって……。


「こちらに非があるのは認めます。認めますけど、私もこれ以上は譲歩できませんよ?」

「……さっきからなんの話をしてるんだ?」

「なんの話って、私がベッドを先に決めてしまったことです」


 レンさんは「――いや、明らかに違うだろ!」と急に元気に言ってきます。ただ、そんなレンさんとは違い、私は冷静に質問します。


「ならレンさんは何を驚かれていたんですか?」

「まてまて、その前にこの部屋のもう一人は誰なんだ?」

「恐らく平民三人が同じ部屋だと思うので、もう一人の平民の方ですね」


 私がそう答えると、レンさんは「学院側は正気なのか?」と、深刻そうな顔をします。


「そこまで言うほどでは無いと思いますけど……。三人で使うにしても十分広いですし、キッチンとかも使いやすそうでしたよ?」

「……いや、そうじゃなくてな。普通に男と女で同じ部屋なのかってこと言ってるんだけど」


 ……? さっきから何を言っているんでしょうか?


「なにか問題がありますか?」

「いやいや、何にも気にならないのか?」

「……えぇと? なにか気になることがありますか?」

「ああ、いや、そうか。無いならいいんだ。……別に」


 レンさんはそう言うと、何かを諦めたような顔をします。私は「そうですか」と短く答えておきました。


「……ならとりあえず、他の部屋でも見てくるか」

 レンさんはそう独り言を呟き、寝室から出て行きました。




 それから少しして、再び玄関の扉が開く音が聞こえました。三人目の方がきたようです。そしてその方は、直ぐさま廊下を駆けて部屋に入ってきます。


「……おぉぉ!」


 入ってきて早々、何故だか私のことを見て目を輝かせています。


「あの、なんですか?」

「あ、はい! 我はオルタヴィアです! これからよろしくお願いします! 主様!」


 ……んん? なんでしょうか?


「えと、名前はさっき自己紹介の時に聞きました。……そうじゃなくて、主様っていうのは一体なんですか?」

「主様は主様です! これから我は主様の下僕です!!」


 なにを言っているんでしょうか。意味が分かりません……。


「……あの、質問の答えになっていません。それにそもそも私は貴女の主ではありません」

「いいえ、主様は我の主です!」

「……だから、私は違うって言ってます」

「嫌です! 我を見捨てないでください! ひどいです、主様!」


 よく分かりませんが、オルタヴィアさんは駄々をね始めました。

 ……はあ、これはダメです。まったく話が通じません。でも一応、理由は聞いてみましょうか……。


「……えと、なんで私のことをそう呼びたいんですか?」


 私がそう質問すると、オルタヴィアさんは素直に答えてくれます。


「それはもちろん、主様の自己紹介を見て下僕になりたいと思ったからです! 我はあの輝かしさにひどく感銘を受け心を奪われてしまいました! とてもかっこいいです、主様!」


 感銘を受けるような場面なんて一つもありませんでしたよ? なんというか、引いてしまうほど変な理由です。一人称が我というのもだいぶ変わっていますね。……それに、やっぱり誤解しているようです、まったく……。


「いいですか? 私はフォーデン皇子と揉めてなんていませんからね。それに誰だってあんな風に濡れ衣を着せられたら言い返しますよ」


 私がそう言うも、まったく関係無いようで「今となっては原因なんてどうでもいいです! それに良かったです! 主様と同じ部屋だなんて!」と能天気に喜びます。

 そんな姿を見て、私は説得することを諦めました。


「……はあ、もうなんでもいいですから、静かにしててください」

「分かりました!」


 それにしても随分元気ですね。ただとりあえず三人揃ったので、レンさんにも声を掛けましょうか。

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