序章 その17
さて、残りの質問は二つです。次の質問をしましょう。
「四つ目です。入学試験の時、私の姿で何か問題は起こしていませんか?」
「何も♪」
まあこの質問は正直意味が無いのは分かっていました。あっても無くても答えてくれませんよね。
「五つ目、これが最後です。入学通知書の成績は学力も魔法適正も、魔力量も全て最低レベルでした。どうしてあの成績で平民の私が入学を許可されたんですか?」
「そんなの私は知らないわ。オリビアが何かしたんじゃない?」
「そうなんですか? 師匠」
「いいや? 私は何もしていない。全てパンドラに任せていたよ」
……なんですか、これは。私は普通に答えて欲しいだけです。
「……教えて貰えないんですね?」
「私でもパンドラでも無いとなると答えようが無いな」
師匠は絶対知っているのに、あくまで答えない気ですね。
「……分かりました。とりあえず学院の準備をしてきます」
「そうするといい」
私は内心呆れつつ、師匠の部屋を出て自室に行きました。
○
師匠は私の部屋に制服があると言っていましたがどこでしょうか。部屋を見回した感じはどこにもありません。
「……おかしいですね」
私はそれから三十分ほどかけて、ようやく見つけることができました。……空間魔法で隠されていたのです。本当になんの嫌がらせなんでしょうね。
制服の胸の部分にはアルスティナ帝国の紋章が入っているようです。ちゃんとサイズは合っていました。
早速着替えてみましたが、こういうのを着るのは初めてなので、本当にちゃんと着れているのか心配です。なので、沢山服を持っているリタさんに見てもらうことにします。
私がそう思って部屋を出ようした時、完璧なタイミングでリタさんが入ってきました。
「お姉ちゃん起きてるー?」
「ええ、起きていますよ」
私がそう返事をすると、リタさんは私の方を見て驚きます。
「それ制服? お姉ちゃん可愛い~」
「……あはは。あの、これで合ってます?」
「合ってるって何が?」
「ちゃんと制服を着れているのか分からなくて……」
「そういうことね。なら大丈夫だよ、ちゃんと着れてる。……あ、でもスカートはもうちょっと上げようね」
リタさんは「このくらいまで丈詰めするといいかな?」なんて言いながら結構ぐいぐいとスカートを上げてきます。
「あの、そんなに上げる必要ありますか? やっぱり私の着方が変でした?」
私が心配してそう聞いてみるも、リタさんはそれには特に反応せずに私に言ってきます。
「大体分かったから、スカート脱いでくれる?」
「……やっぱり変だったんですね?」
「いいから、お姉ちゃんは黙って私の言う通りにして」
「……分かりました」
言われた通りスカートを脱ぐと、直ぐにリタさんは私の手から取ってしまいました。よく分かりませんが、こういうことはリタさんに任せます。
そういうわけで、そのまま黙ってリタさんのことを見ていると、いきなりハサミでスカートを切ろうとし始めたので、流石に慌ててリタさんを止めます。
「――あの、リタさん? やめてください、切ったら怒られます。と言うか、何を始めるつもりですか?」
「いいから見ててって」
「ダメです、返してください!」
そう言い、私はリタさんからスカートを取り返しました。そんな私の抵抗に対して、リタさんは露骨に不満を露にします。
「……むう。怒られるって誰に?」
「師匠にです」
「じゃあオリビアにいいって言われたらいいよね?」
「それならいいですけど、一体どういうことなんですか?」
私がそう聞いてみるも、リタさんはまた何も答えることなく、「じゃあ聞いてくるね」と直ぐに部屋を出て行ってしまいました。……まったく、なんなんでしょうか。
それから数分後に、嬉しそうなリタさんが戻ってきました。
「お姉ちゃん! 切っていいって~」
なんでそんなこと許可したんですか、師匠は……。
「え、なんでまた穿いたの? 早く脱いで」
「……もう、分かりましたよ」
私は渋々スカートを脱いでリタさんに渡しました。すると早速、リタさんは慣れた手つきでスカートを綺麗に切っていきます。とりあえずそこからはリタさんに任せて、私は別の作業をすることにしました。
それからさらに数分後です。
「お姉ちゃん! 出来たよ~」
リタさんはそう言いながら、スカートを私に見せてきます。
「……うわ、かなり短くなりましたね」
「そんなことないよ?」
「これ大丈夫なんですか?」
私が不安がっていると、リタさんは少しムッとしてきます。
「お姉ちゃん、そういうのいいから早く穿いてって」
「……分かりました」
そう言い、私が言われるがままにスカートを穿いてみると、リタさんはとても嬉しそうにします。
「いい感じ、似合ってるよ! お姉ちゃんはホント可愛いね~」
「そうですか? 何だかさっきと比べてだいぶ動きやすくなりましたね。これはこれでいいかも」
「……うーん。そうじゃないけど、まあいいや。それよりもこんなに可愛いと絶対モテまくりだよ~」
「えーと? 私のことですか?」
私がそう聞くと、リタさんは「お姉ちゃん以外いないよね……」と少し呆れたように言ってきました。ただ、これには私も反論しておきます。
「……えと、これまでモテたことなんて一度もなかったです。だから、学院に入ったことでモテると言うのはないと思いますよ」
「ホントに? お姉ちゃんが気付いてないだけじゃない?」
「私が知る限り、家族以外から好意を向けられたことはこれまでにないですね」
「えー? オリビアとパンドラは優しいよ? 絶対お姉ちゃんの勘違いだよ」
まあ、師匠やパンドラさんはリタさんには優しいですし、リタさんの前では私に無理難題は言ってこないのでそう思うのも仕方ありませんが……。私だけの時はひどいことばかりです。
ただそんなことを伝えても仕方ないので、私はとりあえずリタさんに合わせることにしました。
「確かにそうですね」
「ね? そうでしょ?」
そう言いながらリタさんは嬉しそうに微笑みます。
なんというかとっても可愛いです。どうしてリタさんはこんなに可愛いのでしょうか。まあ、師匠とパンドラさんが可愛がるのも納得できます。やっぱり可愛いというのは得ですね。同じ両親から生まれたのに、私はどうしてこうなんでしょうか……。
そうこう考えていましたが、程なくして私は大事なお話を始めました。
「……リタさん」
「なーに?」
「……学院からここまで来るのにかなりのお金と時間がかかるので、多分休暇とかでも中々会いに来るのは難しいと思います」
「……え」
私がそんなことを言ったせいで、一気に悲しそうな表情をするリタさんが可愛そうで、胸が痛くなります。
「リタさん、もし会いたくなったらパンドラさんや師匠と一緒に来てください。一人では絶対にやめてくださいね?」
列車の件もありますし、一人では危険ですからね。ただ、そう言ってみるも、リタさんは無言で涙を浮かべています。それでもここは譲れないので、リタさんの頭を撫でながらお願いします。
「約束ですよ?」
「……うん。でも私、お姉ちゃんと全然一緒にいられないね……」
「……そうですね。私もリタさんともっと一緒にいたいですけど、お仕事は頑張らないといけません。……寂しいのは私も同じです。リタさんのこと、大好きですから、また私のこと待っててくれますか?」
私がそう言うと、リタさんは少し私を見つめたあと、涙を拭ってから返事をしました。
「……分かった。私もお姉ちゃんのこと大好きだよ? だから、私も我慢するね」
「いい子ですね、リタさんは」
「……お姉ちゃん、でも今度絶対に会いに行くからね?」
「ええ、楽しみにしてますね」
そう答えると、リタさんは元気を取り戻して私に抱き付いてきます。それからしばらくの間、私はリタさんのことをギュッと抱き締めると、残りの出発の準備をして昼食を取るのでした。