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序章 その15

 それから私は、丸一日ほど寝ていたようです。


「……ぅん。……いたた」


 同じ姿勢で硬い地面に寝ていたので体中が痛いです。ただ、幸いにも魔力はかなり回復しています。これだけあればイルニア山岳までは飛んでいけそうです。

 私たちを襲ってきた方々をパンドラさんがどうしたのかは分かりませんが、もう一度襲ってくるかもしれませんし、急いで帰りましょう。




 私は帝都の中心街からできる限り離れたところまで行き、監視魔法具の無いところで転移魔法を発動しました。もちろん、一気にイルニア山岳まで転移するのは厳しいので、大体百回ほどに分けて飛びました。とは言っても、二分ほどで着いてしまいましたけどね。

 ……さて、結界魔法があるのでここからはまた徒歩です。転移魔法の多用でかなり体に負荷がかかってしまいましたし、正直山登りはしたくありません。ですが、きついですけど頑張りましょう……。

 私はそう気持ちを強く持って気合いを沢山入れてから、イルニア山岳に足を踏み入れました。







 私は丸一日かけて、何とか師匠の家の前に辿り着きました。……ですが、残念なことに無事にとはいかず、一度崖から滑り落ちて死にかけました。当たりどころが良く致命傷にならずに済んだのが不幸中の幸いです。そこで半日ほど気絶していたため時間がかかってしまったのです。

 ……はあ。私のことももう少し優しく扱って欲しいです。今回の襲撃だって過去に戻ってなければ死んでいたでしょうし、通信魔法具だって渡していただけたら緊急の時はもちろん、お仕事の連絡だって楽じゃないですか。……まあ正直、私のことなんて師匠たちからしたらどうでもいいのかもしれませんね。別に死んでいいという感じ何でしょうか? ……いえ、そんな卑屈ひくつな考えはやめましょう。リタさんと比較するからであって私単体で見ればかなり優しく……されています、よね? ……多分。

 そうこう考えていましたが、時間の無駄なのでとりあえず家の中に入りました。

 リタさんに見つかると抱き付かれそうなので、その前に土まみれで汚れた体を洗うことにします。二日もお風呂に入ってませんからね。




 その後、私は少しお風呂でゆっくりしてから師匠の元に行きました。

 師匠の部屋の前に着くと、一応身だしなみを整えてからドアを叩きます。


「ユノです。……戻りました」


 それに対して返事はありませんが、どうせ無視しているだけなのでドアを開けて中に入ります。

 案の定、中には師匠とパンドラさんがいました。


「…………」


 変な沈黙が流れます。

 仕方ありません。私から切り出しましょう。


「……二週間を過ぎてしまってごめんなさい」

「…………」


 相変わらずお二人は無言のままです。

 ……とっても気まずいですね。でもこれは話し始めていいんですよね? 多分ですけど……。

 私はやや緊張しながら、お二人にお話を始めました。


「……えと、襲撃されたことですけど、一からお話しますね。……私たちが帝都に着いてからは最終日以外は何も不審な点はありませんでした。最終日は帝都中心にある展望台から――」


 そんな感じで、私は今回の襲撃に関することを全てお話しました。


「――なるほど。事情は分かった。お前たちを襲った者の名前は『ナブー』と『エア』で間違いないな?」

「そう呼んでいました」

「そいつらのことは調べておこう。……使用を禁止していた時を遡る魔法を使ったことだが――」


 空気が途端に重くなります。


「本来は厳しく罰を与えるところだが……。今回はリタを守るために使った訳だ。それに学院入学の日も近い……」


 言いつけを破ったのに罰が無いなんて初めてです。良かった……。


「――だから、これで済まそう」


 ……?

 一瞬でした。私の胸の辺りに光が現れたと思った時には既にそれが弾けてました。同時に私の体の魔力が暴走します。


「……っが……!」


 ――苦しい、痛い……。

 全身が張り裂けていき、内蔵が次々に壊死えししていくのが分かります。何もかもが熱く――、骨が、神経が溶けていきます。全身に鋭い痛みが走り、頭が割れるようで――。




 常軌を逸したその拷問は数分間続き、やっとのことで終わりました。そして体も瞬時に治ります。


「……っぅ……はぁ……はぁ……」

「ふっ……愉快だな」

「ホント♪ 丸まって苦しんでるところがかなり面白かったわ♪」


 お二人は私のことを見ながら笑っています。

 ――頭がおかしいです。完全に狂ってます。こんなのは生物に対してやることではありません。本当に同じ人間なんですか……?


「ユノ、あなた良かったじゃない。ホントは死なないようにして一週間は今のを続けるはずだったのよ♪」

「……そういう事だ。感謝するといい」


 何を言ってるのか理解できません。本当に常軌を逸しています。


「感謝で思い出したわ。オリビア♪ 私が集めてあげた情報は?」

「ああ、そうだったな。……ユノ、お前のためにパンドラに集めさせた情報だ」


 そう言って、私にファイルを投げつけてきます。私には避けたり掴んだりする力が残ってなかったので、ファイルはそのまま私の顔に激突しました。


「……っ」


 ……痛いです。どうしてこんなに乱暴なんでしょうか。


「ユノ。私に感謝するのよ?」

「……はい」


 私は落ちたファイルを拾って中身を確認します。中には生徒の個人情報が大量に入っていました。どうやら今年学院に入学する全新入生の個人情報のようです。

 これはわざわざ学院に侵入して取ってきたのでしょうね。ですが拷問された後なので、全く嬉しくありませんし感謝する気にもなれません。……とは言え、お礼を言わないとまた何をされるか分からないので、しっかりと言っておきます。


「パンドラさん、ありがとうございます。しっかり参考にします」

「もう用は無いよ。部屋から出て行って?」


 ……勿論そのつもりだったので言われなくても出ていきますよ。

 私は嫌な気持ちを抑えて「……分かりました」と、静かに返事をしておきました。そして、直ぐに部屋を出ました。

 ……はぁ、昔から何度もこういった理不尽を経験しているとはいえ、最悪な心地です。リタさんのところで癒されましょうか。

 そう考えた私は、とぼとぼとリタさんの部屋に向かいました。




 そしてリタさんの部屋の前に着くと、中に向かって声を掛けてみます。


「リタさん? 入りますね」


 そう言ってドアを開けてみます。


「お姉ちゃん!? 帰って来たんだ! 良かった~!」


 案の定ですが、リタさんは私を見るなり直ぐに抱き付いてきました。沈みきった心が何とか気力を取り戻していきます。

 ……はぁ~、癒されます。可愛い過ぎです。リタさん大好きです。


「リタさん」

「なーに?」

「ふふっ、とっても可愛いです」

「えへへ」


 それから私は、しばらくリタさんとじゃれ合っていました。







 その日の夜、私は嫌でしたがパンドラさんの部屋に向かいました。


「パンドラさん。少しお話がしたいので入っていいですか?」


 部屋の扉越しにそう声を掛けてみます。


「入ってきたら殺すわ♪」

「……なら、扉越しでいいので要件を聞いてください」

「あなたの声を聞きたくないの。消えて?」

「…………」


 仕方ありません。今日はやめておきます。学院が始まるまでに幾つか話し合わなければいけないことがあるので、また明日にでも聞いてみましょう。




 そして次の日の夜、再び私はパンドラさんの部屋の前に来ました。


「パンドラさん。学院の事で幾つかお話がしたいです。お願いできませんか?」

「ええ。無理♪」


 学院が始まるまであと四日なので、そろそろしっかり話し合わないと間に合わなくなります。


「どうしても無理ですか?」


 それに対する返事はありませんでした。これ以上は怒らせるだけでしょうから、また明日にします。




 そしてまた次の日の夜、また私はパンドラさんの部屋の前に来ました。


「パンドラさん。お仕事の事で大事なお話があるので少し――」

「汚い声を聞かせないでくれる?」


 ……毎日何なんですか。非常に不愉快です。

 でも、ここで引き下がると本当にお仕事に間に合わなくなるので、無理やりにでも聞いてもらうしかありません。


「……師匠は学院で私が集めた情――」

「殺すわよ?」


 一切躊躇うことなく、そんな冷酷な言葉が返ってきました。

 ……なんで私だとこうなんですか。物騒すぎですし、もういいです。明日にかけましょう……。

 私はそう諦めて部屋に戻り寝ました。

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