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序章 その11

「お姉ちゃん! 着いたよ!」

「……ん」


 リタさんに揺すられて目を覚ますと、丁度車内アナウンスが聞こえてきます。


『まもなく帝都アルスティナです。今日も魔法急行列車をご利用くださいまして、ありがとうごさいました。お荷物をお忘れになりませんよう、ご注意下さい』


 そのアナウンスと共に列車は緩やかに停止します。

 帝都は終点なので、急いで降りる必要はありません。私が伸びをしたりしていると、リタさんが質問をしてきます。


「お姉ちゃんって帝都に来るのは何回目?」

「いえ、ここに来たのは初めてです」

「やっぱり……そうだったんだ」


 リタさんはそう言いながら、私を見て何度か頷いていました。

 因みに、私が帝都に来たことがないのには、しっかりと理由があります。今まで帝都でのお仕事は一度もなく、他国に行くときも帝都のアルスティナ国際空港を使ったことがないからです。師匠がその分のお金を出してくれないので、私は他国でのお仕事がある度に、転移魔法で不法入国していました。仕方がないとはいえ、褒められたものじゃありませんね。

 私はふと気になったことを聞いてみます。


「リタさんは帝都にいつ来たことがあるんですか?」

「んー? 何か欲しいものがある時とかかな?」

「……えと、そうですか」


 私はリタさんのそんな言葉に驚きながら、列車を降りました。




 列車を降りてまず目に入るのが、やはりその人口の多さです。駅のホームだと言うのに数千人は居ます。

 内装も凝った作りではあるのですが、人の多さ故に全然よく分かりません。強いて言うなら、天井の装飾が綺麗……、これくらいですね。

 駅を出るのにも広さと人混みによって一苦労で、私は少しテンションが下がってしまいました。しかし、駅を出てから外を見て、下がっていたテンションも一気に上がります。あまりの美しさに思わず声を漏らしてしまったほどです。


「――綺麗、ですね……」


 ……これは私の知らなかった世界です。今までもお仕事で色々な都市に行きましたが、ここはそれらと全く異なっていて、技術やお金の掛かり方が比じゃないです。

 美しい街並みや眺めの良さに気を取られていましたが、各建物の壁や角、天井などに小型の監視用の魔法具がかなり沢山備え付けられているようです。

 一応、治安維持の一つなのでしょうね。……ただ、こうも多いと何だか落ち着きませんね。別に捕まるようなことをするわけじゃないので、なにも心配はいりませんけど。……とは言え、普通に歩いている方は監視されていることに気付いていないのでしょうか? それとも慣れてしまっているのでしょうか?

 考えても分からないので、とりあえずリタさんに聞いてみます。


「リタさん? 帝都って確かに綺麗で何もかも規模が大きいですけど、監視魔法具の量が多すぎません?」

「そうかな? うーん……確かに、よく見たらあるけど、別にこれくらい普通なんじゃない? お城もあるし、何かあったらまずいもんね~」

「……そういうものなんですね」


 そう考えると帝都に住んでいる方々は凄いですね。私ならとても住めそうにありません。と言うか疲れるので嫌です。便利は便利なのかもしれませんけど。

 とまあ、そんなことはどうでもいいです。やっと着いたことですし、まったりとやる事をやっていきましょう。


「まずはどこに行くんですか?」

「お腹空いてるし、なにか食べよ?」

「どんなお店があるんですか?」

「何でもあるよ? なにか食べたいのある?」

「そうですね……」


 何でもあるとなると逆に選ぶのが難しいですね。特にこれといって食べたいものが思い浮かびません……。

 私が悩んでいるのに気付いたのか、リタさんが提案してくれます。


「ならとりあえず適当に歩いてみて、美味しそうなのがあったらそこにしよ?」

「いいですね。そうしましょう」


 そんな感じで歩き出すと、直ぐにリタさんが私の手を握ってきました。


「どうかしました?」

「えへへ」


 ……どういう回答ですか。嬉しそうなので構いませんけどね。




 それから少し歩いていると美味しそうなパスタのお店があったので、そこで食べることになりました。その後は、街をゆったり歩きながら幾つものお店を回り、日が落ちてきたので適当なホテルに泊まることになりました。……適当と言ってもかなり高級そうです。

 ホテルの部屋に着くと、私は直ぐにベッドに寝転がります。

 今日だけでも沢山お買い物をしたのですが、お金は大丈夫なのでしょうか? 全部リタさんに任せているので、多分大丈夫だとは思いますが……。


「リタさん、師匠からお金はいくら貰ったんですか?」

「んー? 白金はっきん貨が五百枚くらいかな?」

「――え?」

「お姉ちゃんびっくりしすぎだよ~」


 リタさんは驚く私を見て楽しそうに微笑みます。



 ――白金貨というのは、アルスティナ帝国で発行されている最も価値のある貨幣です。

 貨幣は下から順に銅貨、銀貨、金貨、白金貨となっていて、銅貨は一枚でパンが一つ買えるほどです。銅貨の十倍が銀貨、銀貨の十倍が金貨、金貨の十倍が白金貨となっています。



 ……ちょっとした家が建つ額ですね、白金貨五百枚だなんて。……それに、何だかリタさんも金銭感覚がおかしくなってきてませんか?


「リタさん……」

「なーに?」

「……やっぱりなんでもないです」

「そう? ならいいけど」


 リタさんは不思議そうな顔をして私のことを見てきます。

 ……別に金銭感覚とかは正直どうでもいいんです。私はそんなことよりも、リタさんのこういうちょっとしたことすらも、全然分かってあげられなかったことがショックです。たった一人の家族として、姉として、ちゃんと妹のことを見てあげなきゃいけないのに……。


「ねーえ! ねーってば!」

「……え?」

 いつの間にかリタさんが隣で私の体を揺すってきていました。

「大丈夫? 頭痛いの?」

「あ、いえ。考え事をしてただけです」


 私がそう答えると、リタさんも安心してくれたようで、直ぐに笑顔になってくれます。


「じゃあ、そろそろお風呂に入らない?」

「そうですね、入りましょうか。……今日は色々と回りましたし、ゆっくり浸かりましょう」

「ふふっ、明日はもっと色んなとこ回るよ~?」

「……そうですか。色々なところに行きましょうね」

「うん!」


 それにしてもリタさんの元気には勝てそうにありませんね。一歳の差でこれほど変わるとは驚きです。




 それからお風呂場に行った私は、リタさんからのじゃれ付きに耐えながらも体を洗い終え、湯船に浸かります。


「……はあ、お風呂……さいこ~です」


 ぽかぽかして体が溶けてしまいそうです。やっぱりお風呂は中毒性がありますね。

 私がぽかぽかしていると、リタさんも直ぐに入ってきます。


「ふぅ……きもち~♪」

「ホントですね」


 どうしてこんなに気持ちいいのでしょうか。精神魔法が使われてたりするわけじゃないのに、不思議です。


「お姉ちゃんってさ。昔からお風呂大好きだよね」

「……? 普通の方もお風呂大好きじゃないですか?」

「そうなんだけど、なんかそうじゃなくて……。お姉ちゃんはお風呂の時はね、普通の時よりもずっとずっと幸せそうな顔してるよ?」

「そうですか? 特に意識したことないですけど……」

「絶対そうだよ!」


 そんなリタさんの声を聞きながら、私はお風呂を堪能します。

 ……はぁ、頭がふわふわしてきました。ちょっと眠いかも。

 そんなことを思っていると、直ぐにリタさんが反応してきます。


「お姉ちゃん? 眠いの? 寝るならちゃんとお布団で寝ようね」

「……わか、り……ま……」

「お姉ちゃん、お風呂で寝る癖治さないと――」


 リタさんの言葉を最後まで聞くことなく、私はそのまま眠ってしまいました。

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