7、人気職の冒険者
明日も更新します
村のメインストリートは朝市で活気づいており、人で溢れていた。教えてもらった道を進んで行くと、それらしき店と、馬車に荷物を積み込む集団がいた。
「すみません。ここはゴンドさんのお店ですか。」
「そうだ。君は誰だ。」
「宿屋のメイリさんから紹介されてきました、アレンと言います。」
「ん。」
馬車の前に立っていた大柄で若い男に声をかけ、メイリさんの手紙を渡すと、何も言わず店の中に入ってしまった。
これは、ここで待っていればいいのか?
5分程周囲の景色を眺めて立っていると、先程の大きな男が40代くらいの細身の男を連れて出てきた。
「お待たせしてすみません。君がアレン君ですね。はじめまして、私はゴンドです。」
「はじめまして、アレンです。よろしくお願いします。」
「今積み込みが終わったので、みんなに紹介しましょう。
おーい集まって。」
ゴンドさんの呼びかけで、積み込み作業をしていた20代ぐらいの男と馬車の周りに立っていた3人の男が集まった。
「今回同行するのは、私とこの4人です。これが私の息子のテオ。交代で御者をします。こっちはいつも護衛を頼んでいる冒険者の〈疾風の牙〉の3人です。」
「シルバーライセンス〈疾風の牙〉のリーダー、ラングだ。この大柄で口数が少ないのがブレンで、このチャラいのがパイカ。よろしくな。」
「宿屋からの紹介でお手伝いに来ました、アレンです。よろしくお願いします。」
ラングは首から下げた銀色の光沢があるカードを見せ、メンバーを簡単に紹介した。
僕が首から下げているのは、洗礼を受けて授かるステータスカードで、くすんだ銀色をしている。一方ラングさんの首には銀のカードが2枚ある。ステータスカードともう一つがライセンスカードだ。どちらも一般的な聖具だ。
このライセンスカードは冒険者という仕事をするための証明で、国や街の出入り、遺跡の探索、危険な魔物の討伐が許され、そのランクはチームの貢献度と信用を表すものとされている。冒険者は、実力で出世できると、平民に大人気の仕事らしい。
貴族の仕事にも関わる事がある職業だが、話に聞いていた程度で、シルバーライセンスがどの階級を示すのかわからない。手伝いの4日間の、時間がある時に話を聞いてみよう。
◇
2頭の馬に引かれた大型の幌馬車は、村から続く街道を進んでいる。御者台にはゴンドさんとテオさんとパイカさんが座り、たくさんの荷物を積んだ後ろの空間に、ラングさんとブレンさん、そして僕が後ろを向いて足を外に投げ出して乗っている。それぞれの精霊は服や荷物に隠れていたり、馬車と並走したり、幌の上にいたりと思い思いの行動をしている。
もし聖霊について聞かれることがあれば、極度の恥ずかしがり屋で、服の中から出てこないという言い訳を考えている。
街道は幅広く整備され、大型の馬車がすれ違っても問題ない。床からお尻に伝わる振動は相変わらず激しいが、初めての国外に、高まる緊張を誤魔化すのにはちょうど良かった。
馬車が村から離れ、視界を遮るものがない草原を進んでいる時、背中から声がかかった。ぶらぶらとさせていた足を止め、遠ざかる村を眺めていた顔を背後に向ける。
「なあ、アランだったよな。改めて、俺はラングだ。俺たちは何度もこの馬車の護衛をしているから慣れた道だが、お前は初めてみたいだし、無理はするなよ。」
「お気遣いありがとうございます。お察しの通り旅慣れていないので、もしかしたら迷惑をかけてしまうかもしれません。」
「誰しも初めはそんなもんだ、気にするな。それより、サルファイト皇国で荷捌きが終わったら別行動だろ。何しに行くのか聞いてもいいか。」
もちろん本当の事を話すはずもなく、これまでの道中で考えてきた話をする。しかし、嘘は言っていない。
「ええ、と言っても大した事はありません。職探しを機に国を出て、新しいものを知りたいと思っただけです。」
「なるほど、若いのに良い感性をしているな。その感じからすると、仕事の当てはないだろう。」
「わかるんですか。」
「ああ。俺に似たものを感じるからな。この勘を信じるなら、お前は冒険者に向いているぞ。」
思わずラングさんの顔を凝視してしまった。自分が冒険者なんて考えたこともない。平凡な能力で、一般常識も知らず、生活能力も無い自分に、危険と隣り合わせな仕事が務まるものか。
「買い被りすぎですよ。第一、まだ僕達は知り合って間もないじゃないですか。」
「そうか?俺の勘はよく当たるぞ。まぁ、なるならないはお前が決めることだし、知っていて損はないから色々と教えてやるよ。」
唐突にラングさんの冒険者講義が始まった。
まず基本として、冒険者になるには各国の認可を受けた育成学校に通わなければならないと言う。必要な知識と技能を習得したのち、試験に合格して晴れて冒険者になれる。大陸を駆け回り、冒険者組合に集まる様々な依頼の対応、危険な魔物の討伐、遺跡の探索、その他多岐に渡る仕事をこなし、その貢献度と信頼度と強さによって階級分けされている。階級は上から〈クリスタル・ゴールド・シルバー・カッパー・アイアン・ウッド〉。ライセンスカードの素材が違うので一目でわかるらしい。つまり〈疾風の牙〉の階級は上から3番目で、数多いる冒険者パーティーの中では頭ひとつ抜けていると見れる。
平民からすれば、身分に関係なく実力を評価され、成功次第で大金を得ることもできる、目覚ましい成果を挙げれば身分も上がる、夢の詰まった仕事のようだ。
「どうだ、興味が湧かないか。」
「面白そうな仕事だとは思いますが、僕には荷が重いですね。」
「んー、向いてると思うけどな。もっと育ってからでも学校には入れるし、気が向いたら考えてみてくれよ。サルファイト皇国には学校は3つあるし。」
「ありがとうございます。」
他にも道中の村や魔物の話をしながら、特に変わり映えしない景色が過ぎるのを見送る。昼を過ぎた頃、草原にまばらに生える木陰で休憩を取ることになった。
「お、アランのそれ、メイリさんのやつだな。」
「はい、とても美味しかったので、頂いてしまいました。」
「良いね。私たちも好物で、村に寄った時は必ず食べにいくんだ。村の隠れた名物なんだよ。」
僕の隣にはラングさんとパイカさんが腰かけて、それぞれ肉と野菜のスープと茶色いパンを食べている。パイカさんは常にニコニコしていて、明るく親しみやすい人だった。パイカさんは色白でしなやかで、力仕事は似合わない見た目だ。
身長が高く筋骨隆々なブレンさん、小柄で筋肉質なラングさんは大きく身体を動かす近距離、パイカさんは後方支援などの遠距離の戦いをするのだろうか。3人が戦う様子を想像してみて、一人納得していた。
◇
再び出発した馬車に揺られ、野営と休憩を繰り返すこと4日。目的の街に到着した。
賑やかな街に到着してすぐ、ゴンドさんを手伝い大通りに露店を広げた。今回の手伝いは露店販売と商品配達。黙々と頼まれた仕事をこなしていると、次の日の昼前には商品がすっかり無くなってしまった。
「ありがとうアレン君。おかげで予定より早く商品が捌けました。」
「いいえ。お役に立てたのなら良かったです。」
「少しで申し訳ありませんが、こちらがお礼です。それと、住み込みのお仕事を探しているのでしたら、知り合いを紹介するので、この街のことを聞いてみてはどうですか。」
お世話になった5人に別れを伝え、紹介してもらった人に街の状況について教えてもらった。求人の心当たりをいくつか教えてもらい、まずはそこを訪ねて回ることに決めた。
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