17、二つ名
デルリカさんの家で寝泊まりを始めて、もう30日経とうとしている。
例の盗賊の件は、既に規模を縮小し、残党狩りに移行している。僕が報告してから18日経った頃、洞窟の調査が終わり、別の街で捕らえた盗賊の証言と合わせ、残党は10人も居ない事が判明した。全ての幹部は洞窟で息絶えており、盗賊調査の報告に来ていた冒険者パーティーが、僕の働きを褒めてくれた。
約束していた討伐報酬は、想像の何倍もの金額になっていた。しばらくお金に困ることは無さそうだ。
今日まで何をしていたか。ただ家に置いてもらうだけでは申し訳なかったので、家事を請け負い、読書と体を動かして過ごしていた。
家事と言っても、実家では全て使用人任せで、家出をしてから少しできるようになった程度。そのため初めはデルリカさんに教わりながら、料理は本を見ながら、簡単な事を任されていた。
この家には様々な分野の本があった。それでもそのほとんどが冒険者関連のものらしく、冒険者という仕事の広さを感じられた。内容が専門的すぎて読めないものもあり、それらを除いて8割程は既に読み終わってしまった。
本の中には聖霊術の本もあった。「聖霊とは」という初歩から始まり、大規模な術や複数系統の制御方法など、かなり厚みのある本が複数あった。当然全て読み、ここ数日は庭で術の訓練をしている。
本によると、初めは体内に流れる生命エネルギーを意識し、操る事から始めるらしい。それが自在にできるようになってから、術の習得に進めると言う。早くて3ヶ月、長くて1年で進めると書いてあった。
自在に操る、がどの程度を指すのかわからなかったが、幸運にも僕はそれに該当する事を既に4年間行っていた。
と言う事で、いきなり術の訓練を始めたのだが、そう簡単に事は運ばなかった。そして、その原因は明確だった。
忘れてはならない。僕の聖霊は実体化していないのだ。
本の手引きには、「聖霊と感情をひとつにし、お互いを循環するエネルギーを感じる。聖霊がエネルギーに系統を与え、人がそれを凝縮して術に昇華する。」とあった。
「あー、わからない。
エネルギーは操れているけど、先に進めない。」
『私にはどうにもできないわね。やっぱり無理なんじゃない?』
「いや、4年前に使えてるから、できるはずなんだ。」
『その時はどうやったの。』
「…必死だったから覚えてない。」
『じゃあ、難しく考えない方が成功したりして。』
「うーん。」
「おーう、帰ったぞ。
って、大の字で転がって何してるんだ。」
「あ、おかえりなさい。聖霊術の本を読んで、訓練をしていました。」
「そうか。なら、息抜きに買い物に付き合ってくれ。」
「え、はい。」
立ち上がって服についた草を払う。
このようにデルリカさんは、たまに買い物に連れ出してくれる。別に何かを買ってもらうわけではないが、街の様子を見られて、仕事の情報も得られるので喜んでついていく。
デルリカさんが見慣れない子供を連れているので、初めて見る街の人々からは好奇の目を向けられる。子供がいたのかとか、隠し子かとか、相手の連れ子かとか、デルリカさんは笑って返している。
そんな中、今日は聞きなれない単語が耳に入ってきた。肉屋のおじいさんが言った「流星にも子供が…」だ。文脈的に「流星」はデルリカさんのことだろう。
帰路についても気になって仕方がないので、聞いてみることにした。
「あの、さっき肉屋さんが言ってた<流星>って何ですか。」
「え、ああ、それは俺の事だな。」
「やはりそうなんですね。冒険者名とかですか?」
「まあ、そうとも言えるし、違うとも言える。
俺の冒険者登録は本名だ。周りが勝手に流星と読んでいる。」
「へぇ、そんな事があるんですね。」
「よくある事だ。
冒険者が複数人で組むパーティーは結成時に自分たちで名前をつけるが、活躍する中で勝手に呼ばれた名前の方が有名になって、そっちに改名する事もある。
ソロだと大体勝手に名前をつけられる。その方が覚えやすいし、どんなやつか分かりやすくなるらしい。」
「では、デルリカさんの<流星>はどんな意味ですか。」
「俺の聖霊術を見た奴がつけたらしいぞ。空から星が降ってくるみたいだったって。機会があれば見せてやるよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「そういえば、アレンは今日も聖霊術の練習してたな。どうだ?」
「エネルギー操作はできていると思いますが、術にする事がまだできません。」
「そうか、明日は暇だから見てやろうか。」
「え、あ、でも…」
「気にするな。朝から鍛えてやる。」
デルリカさんの二つ名を知ったところから、何故か聖霊術の訓練を見てもらうことになってしまった。
デルリカさんも聖霊のアメーラも、ルクシエの存在に違和感を抱く事はなく、何とかまだ誤魔化せているようだ。しかし、流石に聖霊術の訓練を見られたら、気がついてしまうのではないかと思う。僕とルクシエに繋がりが無いのがバレてしまう恐怖で、その日はなかなか眠る事ができなかった。
◇
「よし!まずは生命エネルギーをどのくらい操れるか、見せてくれ。」
「わかりました。」
デルリカさんの宣言通り、今日は朝から庭に出ている。
もし、ルクシエの事がバレてしまったら、殺されるか国外逃亡するくらいは覚悟の上だ。凄腕の冒険者から無傷で逃げるのは不可能だと開き直っている。
日課にしているエネルギー操作は、手足の末端までエネルギーを行き渡らせ、体表を薄く覆ったり、指先に作った塊を変形させるものだ。それをそのまま披露する。
「お、おお!?」
「え、何か問題が…?」
「ああ、すまない。…予想以上に精度が高くて驚いてしまった。生命エネルギーを可視化できるのは、冒険者にも滅多にいない。エネルギー操作の段階は十分にクリアできている。」
「へ?」
「よし次だ。エネルギーを術にする過程に問題があるのだろう。やってみてくれ。」
「あ、はい。」
本にあったように、エネルギー循環を意識し、系統の付与と術のイメージを強くする。ただし、本来聖霊が行う系統の付与も、自分で行わなければならない。そして、そこがわからない。
目を閉じてウンウン唸りながらエネルギーを捏ねている。
「なるほど、聖霊との循環がうまくいっていないな。
試しに聖霊に触れた状態でやってみろ。深いつながりを意識して。」
「…はい。」
言われた通り、触れながらやってみるが、特に変化はない。当然だ。ルクシエは聖霊じゃない。
『ねぇ。試しに右目に集中してみたら?
深いつながりが大切なら、その目は実際に私たちを繋げている、これ以上のつながりないと思うの。どうせ可能性は低いのだし、やってみましょう。』
「よし。」
ルクシエに触れていた手はそのまま、閉じた右目に集中する。体を一周したエネルギーが右目に到達し、ルクシエに流れて再び戻ってくる。そんなイメージを続けて30秒程経った頃、急に体が熱くなってきた。今までにない変化に驚くが、体に不快感はない。ルクシエも何かに驚いているようだが、何も言ってこない。
術に昇華するイメージ。具体的なイメージ。僕の系統は風だ。切り裂く風のイメージ。
「風刃!」
ズバッ ギギギガサグシャ
庭の外側は森に囲まれている。木を真っ二つにするイメージで放った【風刃】は、見事に木を上下に分断していた。
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