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14、嘘発見器

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「…ろ。おい、…ろ。」


 ゆさゆさと揺らされる感覚に意識が浮上する。身体は岩のように重くシーツに沈み、瞼もくっついているかの様に持ち上がらない。

 誰かが僕を揺さぶって声をかけている。


「起きろー。飯にするぞ。」


 聞き慣れないけど、聞き覚えがある声だ。誰だろう。あぁ、馬で運んでくれた人か。


 なんとか片の前腕を持ち上げると、大きな手に掴まれ勢いよく引っ張られる。急な事に驚いて目を開くと、なぜかまたお姫様抱っこ状態で運ばれていた。


「…え?」

 

「よく寝てる所悪いな。飯の時間だ。」


「…。」


 食事を貰える事はわかったが、2度も抱えられている事が納得いかない。どうも会ったばかりの人間の距離感ではない。


 運ばれた場所は食卓ではなく、仕事部屋のような所の応接セットのソファーだった。ローテーブルの花瓶や水晶のような置物が隅に寄せられ、代わりに湯気を立てる食事が並んでいる。

 具沢山のスープを見ていると、不意にお腹が鳴る。


「よし、食おう!」


 呆気に取られながらも、対面に座った男のペースに呑まれ真似をして食べ始める。


 うん。美味しい。

 よく煮込まれた肉の甘みとトマトスープの酸味がたまらない。パンもフカフカで甘味がある。

 手が止まらない。


「うまいだろ。この街の名物スープだ。」


 返事をしようとしたが、口が肉でいっぱいなのでウンウンと頷きで答える。


「そーだろそーだろ。腹いっぱい食え。」


 目の前の男、デルリカさんは満面の笑みでスープの肉を頬張っている。

 馬に乗っている時も、街についた後も、無理やり話を聞こうとしてこない。なんだか不思議な人だ。



 互いの皿が空になるまで、僕は無言で、デルリカさんは笑顔を絶やさず食べ続けた。


「さて、色々話を聞きたい所だが、知らないおっさんにこんな所に連れてこられて、更に詰め寄られたら、話せるものも話せないよな。ってことで、自己紹介をしよう。

 俺はデルリカ・アヴェニール。一応貴族だが現役の冒険者兼、冒険者教会サルファイト支部の統括もしている。と言っても普段はただの暇してるおっさんだ。

 こいつはアメーラ。美しい毛並みが自慢の相棒だ。

 俺たちはお前がいた街道周辺の盗賊の調査をしていた。お前の事と、何があったのかを聞かせてくれないか。」


 貴族!母国を出たと言っても、貴族の情報網は侮れない。できれば関わりたくないが、もう遅い。自分の事は誤魔化さなくては。ステータスカードを見られでもしたら、一発で家名がバレてしまう。どう誤魔化せば不信感を抱かないか。



「あ〜。なぁ、俺何歳に見える?」


「…え?」


 どうやって言い訳するかを考えていると、突表紙のない質問をされた。


 何だ。この質問にどんな意図がある。


「いや、貴族だって言ったら顔が暗くなったから。貴族なのは事実だが、礼儀だの言葉遣いだの気にしなくて良いぞ。この街の奴らも気にしてないから。それに、話したくない事は黙ってればいい。」


『アレン、この人は大丈夫。少しなら話しても平気よ。』


 よく喋るデルリカさんに警戒していると、今日初めてルクシエが話しかけてきた。

 ルクシエにそう言われると、何故か安心できる。少し話をしてみようか。


「…32。」


「ん?」


「32歳、ぐらいですか。」

 

「ふっあはは。

 そうか、32歳か。いつもの事ながら、随分と若く見られた。聞いて驚け、俺は46歳だ。」


「ええ?!」


「ははははは。」


「信じられない。」


「皆そう言う。でも嘘ではない。」


『嘘じゃないわ。』


「…なるほど。」


 デルリカさんは目尻の涙を拭いながら大笑いしている。初見でこの人の年齢を当てられる人は、いないのではないだろうか。46歳にしてはあまりにも若く、お茶目な人だと思う。

 警戒するのもバカバカしくなってしまった。


「…僕は、アレン、と名乗っています。サルファイト皇国の生まれではありません。

 国端の街にいる時に、盗賊に攫われました。囚われていた洞窟から逃げ出して、街道で男2人に襲われました。そのあとはよく覚えていません。気がついたら、貴方がいました。」


「うん。アレンね。

 探りを入れたりはしないから大丈夫。

 盗賊のことをもっと詳しく聞きたい。その洞窟はどこにあるかわかるか。盗賊の人数は。覚えていることを教えてくれ。」


 どうやら、訳ありで本名を名乗れないのを理解してくれたようだ。


 どこからか地図が引っ張り出され、食器を寄せてテーブルに広げられる。サルファイト皇国の詳細な地図で、デルリカさんが指しているのが現在地と遭遇地点。今いるのは中央都市に隣接するテレイト領の端、らしい。遭遇した街道とはかなり離れており、馬を飛ばして数時間で到着したことに、むしろ驚いている。


 洞窟の場所を思い出そうにも、その時は色々ありすぎて方角なんぞ気にしていない。地図を睨んでも思い出せることではない。

 そうだ、ルクシエなら何か覚えていないだろうか。


「なぁ、ルクシエ。」

 

『地図は読めないけど、方角はわかるわ。

 私たちが洞窟から出た時、ちょうど昼頃だったけど、影は背中側にできていたわ。その後街道では男共が夕陽を背に歩いてきた。』


「ん。正確には覚えてないので、大体なら。

 僕たちの遭遇地点から一本道を東へ、山の南側に洞窟の出口がありました。」


 指で街道をなぞって行くと、条件に当てはまる山は3つ程だった。これなら問題なく見つかるだろう。


『洞窟にいた盗賊は20より多かったわ。まあ、全員生きてないけど。』


「…洞窟にいたのは20人以上です。」


「20以上!そんなにいたのか。討伐にはかなり人が要るな…。」


「あ、洞窟にいた人たちは、死んでいます。脱出のために毒を…。」


 そう告げると、デルリカさんは驚いた表情になり、何故か机の上にある水晶の置物に目を向けた。


「そ、そうか。お手柄だ。

 それなら調査と首の回収と、残党の討伐ぐらいか。」


 ブツブツと今後の計画を立てながら、指折り何かを数えている。


「…あの、何故そんなに、僕の言うことを信用してくれるんですか。身元も分からない子どもだし。言っていて、かなり荒唐無稽な話だと思いますが。」


「ん?ああ。気を悪くしないでくれ。

 嘘に反応する聖具を使っている。」


 丸い水晶が地図の上に置かれた。


「何か適当な嘘を言ってみろ。」


「私は女です。」


 すると突然、水晶の中に黒い雲のようなものが現れた。


「俺はアレンに危害を加えるつもりはない。」


 水晶が再び透明に戻った。


「どうだ?

 勝手に使って悪かったな。」


「すごい。これで僕の話に嘘がないか判断していたのですね。驚きはしましたが、不快ではありません。」



 その後すぐに、デルリカさんは地図を持って部屋を出て行った。終わったら迎えにきてくれるらしく、それまで自由に過ごせとお茶セットとお菓子を置いていった。


 久々のお茶は、レモングラスやペパーミントがメインのハーブティーだった。爽やかな香りに心が落ち着く。


お読みいただきありがとうございます。


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