13、デルリカ・アヴェニール
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東の空が紫色に染まる頃、遥か前方には街が見えてきた。
どこの街だろう。
盗賊の死体を前に呆然自失の僕を、見知らぬ男が抱えて馬に乗り運んでくれている。状況を語らない僕に、無理やり聞き出すようなことはせず優しい。何故そこまでするのか分からないが、正直有り難かった。人の命を奪った事に対する精神的重圧に、今にも押し潰されそうだった。ルクシエも何も言わないし、されるがまま馬に揺られ、背中から包み込まれる温もりで少し眠ることができた。
眠ったことで落ち着きを取り戻し、冷静に状況を確認する事ができそうだ。
街道を進む馬の足取りは軽やかで、周囲の薄暗さをものともしない。それを可能にしているのは、男の乗馬術だろうか、それとも聖具や聖霊術だろうか。男の顔を振り返って観察するが、特にこちらを気に留めた様子はない。いや、気を遣って好きにさせてくれているのだろうか。
男にしては手触りの良さそうな水縹色の長髪を風に靡かせ、呉須色の切れ長の目は常に周囲を警戒している。年齢は30歳ぐらいだろうか。手綱を握る手は節が太く古傷だらけで、歴戦の猛者とでも言えばいいのだろうか。若く整った容姿で力強く腕の立ちそうな、本当に強い人なら、女性が放って置かないだろう。
ぽつぽつと街道沿いに建物が現れ、進むにつれて密度が増していく。しばらくして空も明るくなり、街の塀と門が見えてきた。
どうやら街を囲む塀はあるものの、家が外に溢れているらしい。その塀も、実家のあるグラディリスの王都とは比べものにならない粗末なものだった。いや、王都と比べれば当然か。故郷のものが特別すごかった可能性が高い。
手綱を引いて常歩で近づいて行くと、門番が1人槍を持って出て、大声で告げた。
「おはようございます。身分証をご提示ください。」
「おはよう。俺だ。」
「デルリカ殿でしたか。失礼しました、お通りください。」
「盗賊の件で詰所に行く。団長を呼んでくれ。」
「承りました。」
そしてそのまま顔パスで街へ入って行く。
僕を抱える男の名は「デルリカ」と言うらしい。思い返せば馬に乗る前に名乗られたような気もするが、気が動転していてそれどころではなかった。
日の出と共に活動を開始したのか、街はそこそこの人通りと賑やかさで、馬上のデルリカさんはすれ違う人々と挨拶を交わして進んでいく。
門番の態度と言い、民衆の態度と言い、この街で有名な人なのは間違いない。
1時間後。
僕は警備兵の詰所の小さな仮眠室で、眠りそうになっては覚醒するを繰り返していた。
なぜこうなったのか。
我が物顔で詰所に入るデルリカさんに横抱きで運ばれ、問答無用でベッドに寝かされた。わしゃわしゃと髪を乱され、「迎えに来るまで寝ていなさい」と言われたのだった。
慣れない土地で盗賊に攫われて逃げ出し、再び遭遇した盗賊を返り討ちにし、慣れない馬に揺られて数時間。ぐちゃぐちゃな精神を抱え、体も疲労困憊だった。
仮眠室の割にふかふかなベッドが、徐々に意識を吸い取ってゆく。
◇
【居合わせた男改め、デルリカ・アヴェニール】
警備兵の詰所に到着した。
少年は仮眠室に寝かせ、隣の部屋のソファに座り団長の到着を待っている。仮眠室もこの部屋も団長のものだが、勝手知ったるなんとやらだ。
馬に乗る前、少年に色々と話しかけたが、淀んだ瞳で地面を見つめるだけで反応がなかった。移動中にうたた寝した後、俺を振り返って観察しているようだったので好きにさせた。先程頭を撫でた際には、困ったような顔をしていた。この短時間で、少しずつ変化している。良い兆候だ。
あとは、街道で何があったか話してくれれば完璧だ。
…コツコツコツ
ガチャ
自分の部屋に入るのにノックをしないのは当前。迷いなく扉を開けて入ってきたのは、呼び出していた男、この街の自警団団長のスラヴロイドだった。
「おはようございます。アヴェニール卿。」
「ご苦労。その呼び方はやめろと言っている。」
「立場上難しく。」
「相変わらずな男だ。」
やりとりだけ聞けば真面目実直な男だが、その顔はイタズラに成功した少年のように笑っている。40歳間近のこの男は、いつまで経ってもこの調子で、毎度会う度このやり取りをする。それでも許可しないと座らないあたり、立場を弁えている恨めない奴だ。
「盗賊の調査だが、それらしき男の死体があったから、首を持ってきた。人相を見てくれ。
そいつら以外は手がかりが掴めなかった。」
「はい。
…?貴方が倒したわけではないのですね。」
「あぁ。街道で出会した子供を襲って、返り討ちにされたって所か。見つけた時にはもう冷えてた。その子供はショックで何も話せない。とりあえず仮眠室に置いてる。」
背後の仮眠室を指差すと、スラヴロイドは呆れた様に肩をすくめてみせた。
「奴らの持ち物はコレと酒。子供を売り飛ばした帰りに、また襲ったんだろうな。」
机に置くと、金貨と鎖がジャラジャラと音を立てる。
「昼飯を食べさせたら話してみるさ。
少し寝させてくれ。」
「お任せします。」
◇
スラヴロイドに首や荷物を預け、そのままソファで仮眠を取った。
日が高くなり、少年を起こそうと隣の仮眠室へ入ると、小さく丸まって激しく魘されていた。シーツを強く握り、額に大粒の汗を浮かべている。
「おい、大丈夫か?」
慌てて駆け寄り、熱はないか頬と額に触れると、安心したように呼吸が整った。
規則正しい寝息を立てる少年の顔を覗き込んで安堵する。それと同時に、顔の右上半分に広がる火傷に触れて不憫に思った。
出会ってすぐ、血塗れの少年が怪我をしている可能性があったため、急いで全身を確認した。その時気が付いた大火傷だ。いつ負ったのだろう。珍しい髪色に顔の大火傷なんて、普通に生きるのは難しそうだ。
一瞬、首元のステータスカードを見ようという邪な思いが過るが、後で協力を得られなくては困ると押し留めた。代わりに丸まった背中に手を当てる。
よく眠っているのを起こすのは忍びないが、食事を取らねば体が持たない。
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