12、無気力な僕と居合わせた男
今日から8月31日まで、毎日更新にチャレンジします。
更新時間は18時~22時を予定しています。
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辺りはすっかり暗くなり、木の葉が擦れる音が静寂を破る。
貴族といえど、人の命を軽く見ているわけではない。ただ、命を預かる立場にいるだけ。たかが10歳の子どもの前で人が死ぬ事は滅多になく、もちろん直接命を奪う事も無い。真っ当な育ちだからこそ、受ける衝撃は計り知れない。
それまで静かだった首元がゴソゴソと動き出した。
『無事なのアレン。』
「…」
『起きてるなら答えなさいよ。なんで黙っているの。』
「…」
『もう、いいわ。
あら、貴方が倒したのかしら。意外とやるわね。見れなかったのが残念。』
ルクシエも意識が飛んでいたのだろうか。首元から這い出て地面に降り、周囲の状況を見回して言った。
『…どうしてそんなに悲しみ?絶望?しているの。大男を2人も返り討ちにしたんだから、喜んでもいいくらいよ。』
「…」
「火球!
おい!生きているのか!?」
突如近くから男の声がした。
馬車の男達は既に事切れており、新たな盗賊か通りかかった人か。しかし、ルクシエも近づいてくる物音に気が付いた様子は無かった。
屈んだままゆっくりと目線を上げて、眼だけで声のした方を確認する。
そこに居たのは、今にも飛びかかろうという低い姿勢でこちらを睨む大きなトラの聖霊と、眼光鋭い長髪の逞しい男だった。
男の片手は背中に背負った大剣の柄を握り、もう片手は掌を上に向けて火の玉を浮かべているいる。シンプルだが清潔感のある格好と、使い込まれ手入れの行き届いた装備を見るに、とりあえず盗賊ではなさそうだった。
理不尽に襲って来る様子は無いので、再び目線を下げて額を膝に付ける。
今は誰かと話す気分ではない。
『ちょっと、どうするの。』
「…」
「子どもがなぜ、こんな状態で…。」
【その場に居合わせた男】
最近、街道や街道沿いの森で盗賊の被害が増えている。それも悪質な、荷を攫うだけでなく女子供は奴隷に、男は惨殺死体となって見つかる。数多の冒険者が依頼を受けたが中々痕跡が掴めず、ついに俺が駆り出された。この俺が盗賊ごときに後れを取るとは思えないが、用心するに越したことはない。怪しい商人の目撃情報を元に、街道沿いの森の中を気配を消して走っていると、相棒のアメ―ラが立ち止まった。
アメ―ラはトラの聖霊で鼻や耳が利く。
「何だ。」
「新鮮な血の匂い。」
低く唸るような声で告げたアメ―ラは、身を低くし音を消して進んでいく。
数分後、人間の鈍い鼻でも分かる程濃密な血の匂いが漂ってきた。暗闇の森に漂う血の匂い。まだ魔物が集まっていないのが奇跡だった。
木の陰から街道を窺うと、小さな荷馬車が1台と、赤黒い水溜まりの中心に3つの塊があった。
「人か。」
恐らく盗賊に襲われて、無残に切り刻まれたのだろう。また被害が出てしまったようだ。
そう考えながら街道に足を踏み出し、注意深く近づいていく。
「一人生きてる。」
「!?火球!
おい!生きているのか!?」
慌てて魔法で火を灯し、声をかけると、一番小さな塊が微かに動いた。
よく見えるよう光球をかざすと、全身が真っ赤に染まった子どもが、小さな身体をさらに小さくし、こちらを窺ってすぐに顔を伏せる。泣き声を上げる事も、取り乱す様子もない。
「子どもがなぜ、こんな状態で…襲われたのか!怪我はないか!」
何も言わず蹲っている子どもに慌てて駆け寄り肩に手を置くと、子どもはビクッと震え、再びゆっくりと顔を上げてこちらを見た。
目が合った瞬間、言葉を失う。
俺は、この子を知っている。
◇
急いで子どもの身体を確認すると、血塗れの割りに切り傷ひとつ無く、被っていた血は地面に転がる男達の物らしかった。荷馬車の荷はほぼ空箱で、金貨の入った布袋と酒、奴隷に付ける首輪や鎖が積まれていた。
状況的に考えて、アジトに戻る盗賊に出会ってしまい、返り討ちにしたって所か。この子は何を聞いても話さないし、襲われたショックか、人を殺したショックか、心を開いてもらうのには時間が掛かりそうだ。
嵩張る酒はその場で零し、金貨や首輪、鎖と男2人の首を持ち帰るため、馬車から外した馬に括りつける。馬車は悪用されないよう壊し、街道の血を魔法で洗い流す。ついでに少年も頭から水をかけて血を洗い流し、自分の上着で包み込む。そのまま抱えて馬に跨り、近場の街を目指す事にした。
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