11、生と死
現在地も近場の街も分からない為、とりあえず森の中の道に沿って歩く事にした。
顔の火傷と慣れない右目の視界を遮るため、当面の間はフードで顔の半分を覆うことにした。前髪は溶けてしまって短くなっている。
街道沿いに生えている植物の話をしながら歩いていると、夕日を背に向かってくる馬車が見える。次第に近付いて来るそれは、小さく年季の入った荷馬車で、馬車の大きさに似合わない大柄の男が2人乗っていた。
念の為さらにフードを下げ、髪と顔を隠す。
「おい子供、随分ボロボロじゃないか。大丈夫か?」
「本当だな。良ければ街まで乗っていくか?」
すれ違う前に馬車が止まり、大声で話しかけられる。
2人ともボロボロで血だらけの僕を心配してくれているようで、1人は御者席から身を乗り出し、もう1人は荷台から降りてきた。
「いえ、然程怪我はしていませんので。ここから街までどのくらい掛かりますか。」
「そうか。俺たちが来た方角へ馬車で2時間くらいかな。歩きだと夜になっちまうぞ。」
「そうそう乗ってけよ。」
近寄ってきた男に質問していると、フードに隠れていたルクシエが顔を出し、男をじっと見つめた。
『だめね。』
「?」
『この男達は危ない。アレンを知ってる。
それに、この時間に商人が街を出るのは普通なの?しかも、わざわざ私たちを乗せて街へ戻るなんて、とんだお人よしよ。』
僕を知っている?生憎この辺に知り合いは居ないし、仕事探しで話した相手とも違う。
それに、ルクシエに指摘された通り、先日手伝いで同行したゴンドさん達は、冒険者が護衛しても夜の馬車の移動は危険だと言っていた。見知らぬ僕たちのためにわざわざ引き返すのは、親切過ぎる気がする。時間と効率を重視する商人らしく無いと言えばそうだ。
『アレン!逃げて!』
大きな警告が頭に響く。
眼前の景色はルクシエの声とは裏腹に、細部に目を向ける余裕があるほどゆっくりと、いやほとんど停止しているように見える。しかし、その内容は穏やかではない。
男がどこからか取り出したナイフが、まもなく自分の首に突き刺さる。そんな所だ。
あぁ、あの盗賊の仲間か?商品の僕が血塗れでこんなところを歩いていて、でも怪我がないと言ったから仲間の異変に気がついて襲ってきた、か?
今から逃げようにも、もうナイフは避けられない。致命傷を負って、街道を走って逃げ切れるのか。いや死ぬのか。それは…嫌だな。
ナイフの鋭い軌道をぼうっと見つめながら、平静な頭は思考の海に呑まれていく。
1人で生きると決めたからには、こんな所で死ぬわけにはいかない。家を出て生きる事を許してくれた両親にも、助けてくれた執事のレイモンドにも、僕が本当に死んだなんて聞かせる分けにはいかない。
精霊のことを解決して、家族に謝って、またみんなで楽しくお茶をしたい。
「だからまだ…死にたくない!」
ピシ…ピシッ
…パリーン
不意に眼前の景色に大きくヒビが入り、ガラスのように大きな音を立てて弾け、砕け散った。その先から強烈な光が溢れ出し、僕を包む。
◇
意識が戻った時、初めに感じたのは濃厚な血の匂い。次は、肩にのしかかっている重量。生暖かいものが全身を覆い、目の前はただ赤い。
ゆっくりと身を引くと、男がドサリと崩れ落ちる音と、ずるりと不快な感覚が腕に伝わった。
吹き上げる鮮血と、自らの髪や服から滴る赤い雫。手には血塗れの剣。地面に転がる男が2人。
身体中に震えが走り、噛み合わせた歯がガチガチと音を立てている。途端に胃の内容物が迫り上がる。最早直立していることもできなくなり、握っていた剣を取り落としてしまった。ズルズルと膝頭に額を押し当て蹲り、吐き気を耐えて自身を強く抱く。
目の前の現実を受け入れられない。受け入れたくない。
人を殺してしまったという現実を。
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