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22 玲と曖

「落ち着いて綾音!大丈夫だから」

「……本当?」


その言葉になんとか落ち着きをとり戻した私はようやくゆり姉の言葉に耳を傾けた。

どうか…どうか悪い結果ではありませんように。

私は祈る想いで次の言葉を待った。


「とりあえず命に別状はないって先生が言ってたから安心して」

「……よかった」


私はほっと胸を撫で下ろしたけどゆり姉が難しそうな顔をしていたので再び不安に襲われ顔を曇らせた。


「ただね、随分無理をしていたみたいで傷口が感染症を起こしたみたいなの。今も高熱が続いていてまだ意識が戻らないのよ」

「そんな…」


快音……そんな状態でステージに立ってたの?

どうして?

すぐに病院に行っていればこんな事にはならなかった……

いや、それよりも元はと言えば快音を巻き込んでしまった私のせい。


そう思うと自然と涙が溢れて止まらなかった。


「葵から聞いたわ。どうして私には何も言ってくれなかったの?」

「うっ……ごめんなさい」


寂しそうな顔で問いかけるゆり姉。

誰にも迷惑かけないように相談しなかったのに、結局こんなに心配させて……


やっぱり私はバカだ…


「とにかく今はゆっくり休んで。何かあったらすぐ教えるから」

「……うん」


そう言うとゆり姉は他のスタッフに連絡をとる為、病室を出ていった。

1人取り残された私は夢の映像が頭から離れず、目を閉じても不安がつのり眠る事ができなかった。


今すぐに……快音に会いたい。


私は音を立てないようにベットから抜け出しそっと扉をあける。

ゆり姉がいないのを確認して音をたてないように、こっそり快音の病室へ向かった。

1つ上の階。

406号室の前。

看護師の話だとここに快音がいるらしい。


トントン……


一応ノックをしたが返答はなくゆっくりと扉をあける。

個室のようで他に人はいなくてベットの上に快音が寝ているのが見えた。


「はぁ……はぁ……」

「快音!」


顔が赤くてかなり辛そう……

どうしてもっと早く気づいてあげられなかったんだろう…


ベットの横にあった古い丸椅子に座り快音の手を優しく握る。

手のひらからも凄い熱を感じる。

今はただ、傍で祈る事しか出来ないけど私はずっと傍にいるよ……


「綾……音……」

「私はここにいるよ。快音……」


熱にうなされて私の名前を呼ぶ快音。

こんな時だけど初めて快音と出会った時の事が頭の中に浮かんできて胸が締め付けられるように苦しくなった。


川に飛び込んだ私を快音が助けてくれて、しばらく熱で寝込んでたっけ……

いつもいつも私を助けてくれた快音。

なのに……私には何もできないの?

初めは人を好きになるなんて事よくわからなかったし、こんな私が恋をするなんてありえないって思ってた。


でもいつの間にか快音は私の中でこんなにも大きな存在になっていたんだ…


無力でごめんね……ごめんね、快音。


「快音……?」


その時一瞬だけ快音の手に力が入った。

まるで優しく手を握り返したみたいに……

驚いて顔をあげるとさっきまで閉じていた快音の目がゆっくりと開くところだった。


「……綾……音?」

「快音!よかった。意識が戻ったんだね」


私は嬉しさと驚きでつい大声を出してしまい周囲を気にしながら口を抑えた。


「そっか……俺あの後、舞台裏で倒れたのか。心配かけてごめんな」

「ううん。私のせいで怪我させたのに……早く気づいてあげられなくてごめん」

「綾音のせいじゃないだろ」


快音のいつもの優しい笑顔に力が抜けて止まっていた涙が再び溢れ始める。


「綾音?泣いてんの?」

「…っごめん。私…夢でね、快音を見てもしもこのまま会えなくなっちゃったらって思ったら…どうしようって……」

「そんなわけないよ。俺は大丈夫。綾音を置いて行ったりしないから」


声を押し殺して泣き続ける私の頭に手を乗せて弱々しく撫でてくれる快音。

私、いつの間にこんな泣き虫になったんだろ?

今までは感情とゆう物をあまり出していなかったような気がする。


本気で笑ったり泣いたり。

普通に感情が出せるようになったのもやっぱり快音のおかげだね。


「でも不思議だな。俺も夢を見たよ」

「え?」

「一番初めに綾音に会った時歌ってた歌あったじゃん?その歌が真っ暗な場所でずっと流れてる夢」


それはまるで私が見ていた夢と同じ。

快音の歌声が先の見えない空間にずっと響いていた。

今でもはっきり覚えているよ。


「その歌のおかげでこんな所で立ち止まってなんかいられないって、勇気を貰った気がする。なんか…ありがとう」

「本当、不思議だね。私が見た夢もそんな感じだったよ?」


ふふっと2人で顔を見合わせて笑うと快音は私の手をさっきよりも少し強い力で握り、私もそれに応えるかのように空いている方の手で快音の手を包んだ。


「にしてもさ、この状況って初めて会った時とは逆で変な感じじゃないか?」

「確かにそうだね」


静かな病室に2人の笑い声が響く。


「そういえば言ってなかったけどさ、曖って芸名本当は俺が考えたんだ」

「え?」


突然の話題に頭がついていかない。

曖はゆり姉がこんなのどう?って提案してくれたんだけど、それは本当は快音が考えたって事?


「俺の玲は数字の0の事で、0は全ての始まり。色々悩んでた時期もあったから歌手として0から頑張ろうってつけた名前なんだ」

「そうなんだ」

「んで曖は英語でラブ、ラブはテニスでは0じゃん?だから同じように一緒に0から頑張ろうって意味をこめてつけた」


そんな風に想ってくれてたんだ……

少し照れくさそうにそう話す快音がいつになく逞しく、そして愛おしく感じる。


「素敵だね。快音、いつも本当にありがと」

「改まって言われると照れるな」


熱のせいか、照れているのか顔を赤くして気まずそうに目をそらす快音。

窓の外に登り始めた朝日が2人を優しく照らし幻想的な雰囲気を演出している。


「あのさ、これからもずっと俺の傍にいてくれないかな?すぐには無理かもしれないけど俺と結婚してくれない?」

「……!」


聞き間違いじゃないよね?

結婚しよう……快音がそう言ってくれた。

いつかそうなれたらいいなって心のどこかで思ってた。


嬉しくて言葉を失うってこうゆう事なのかな?

それはまるで夢の中にいるかのようにやけにゆっくりとした時が流れ、暖かくて優しい音楽が聞こえて来るような幸せな瞬間だった。

答えはとっくに決まってる。


私は……


「うん!快音、愛してるよ」

「綾音……俺も愛してる!」


さっきと違って嬉しい涙が溢れ出す。

人は涙の数だけ強くなるってゆうけど私も少しは強くなれたのかな?


この先どんなに辛い事があっても分厚い壁が立ちふさがっても、二人一緒なら何だって乗り越えていけるよね。


きっと…いや絶対に。


私の愛しい人。

これからもずっと二人で一緒に歩いていこうね。


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