14 真実のプレリュード
それから数時間がたって目を覚ますと、薬が切れたのか体がだいぶ動かせるようになっていた。
それに沢山泣いたおかげか意外と気持ちは落ち着いていて携帯で現在地を調べて乱れた服を軽く直してから人目につかない道を歩いて寮に帰った。
部屋に入るとすぐにビリビリに破かれた服をゴミ箱に放り投げてシャワーを浴びて軽く傷の手当をすした。
切れた頬に絆創膏を貼りながらふと鏡をみるとそこには傷だらけでやつれた顔をした自分が映っていた。
そんな姿から目を背けて布団に潜り込む。
寝られない、寝られるわけがない……
目を閉じると嫌でもさっきの光景がうかんでくる。
もう触られていないのに、時々体を触れられているような感覚がする。
結局朝まで一睡も出来ずにただただ震えていた。
♪〜
翌朝、とても動く気になれずベットで蹲っていると床に放り出した鞄の中で携帯の着信音が鳴った。
重い体を起こして画面を確認すると着信相手は沙良。
今は誰とも話したくないけど……
無視するのもよくないよね。
「……もしもし」
『……。』
「沙良?」
『だから言ったのに。快音はやめておけって』
「え……?」
突然耳元で響いた聞いた事もない狂気を感じる恐ろしい声に思考が停止する。
沙良……だよね?
『大人しく手を引いていればここまで苦しまなくてすんだのに、あんたってバカよね』
「何言ってるの?どうしたの?」
『まだわからないの?私があんたを襲わせたのよ。金で雇った奴らにね』
「……!?」
次々と流れていく信じられない告白がまるで頭を殴られているかのようにたたきつけられていく。
どうゆう事?
どうして沙良が?
いくら考えても理解がおいつかない。
『あんたの荷物を捨てたのもネットに番号さらして嫌がらせさせたのも全部ね』
「どうして?なんでこんな酷いこと……」
『全部あんたがいけないのよ。私から大事な物を奪おうとするから』
沙良の大事な物?
私が奪った?
一体何の話をしているの?
「……」
『これが最後の警告よ。時間をあげるからよく考えて、快音と別れて事務所から出ていきなさい』
「警……告……?」
『もしこれ以上たてつくようなら快音と付き合ってる事もあんたの過去も全部バラすから。そうしたら2人とも居場所なくなるし困るでしょ?』
頭に冷たいものが広がっていく。
どうして?
2人が付き合ってる事も過去の事も話してないのに……。
なぜ沙良が知っているの?
「「お前の秘密をしっている」」
「「出ていかないならバラしてやる」」
以前送られてきたメールの文面が脳裏に浮かぶ。
あのアドレス……
沙良だったんだ。
「どうして……知ってるの……?」
『調べたに決まってるでしょ。じゃあそうゆう事だから、ちゃんと考えてよね』
ブッ……ツーツーツー
そこで一方的に切られた電話。
私はしばらく携帯を耳に当てたまま固まっていた。
私を襲わせたのも嫌がらせをさせたのも全部……
沙良が犯人……?
私の前では優しくて、いつもアドバイスしてくれたり声をかけてくれたのに……
ねぇ……どうして?
私が何をしたとゆうの?
大切な物って快音の事なの?
二人の間に一体何が……
わからない……
何もわからないよ。
それに何よりあんなに恐ろしい目に遭わされて、次はいつ何をされるかわからない。
胸がわしずかみにされているみたいに締め付けられて息がくるしい……。
「はぁ……はぁ……」
私……これからどうすればいいんだろう?
このままここにいたら何をされるかわからないし、快音やゆり姉にも迷惑がかかってしまう。
事務所を辞めるにも行く所なんてないし、せっかく2人で頑張ったデュエットが全て無駄になって結局たくさんの人に迷惑をかけることになってしまうだろう。
こんな事なら初めから歌の世界になんてこなければよかったのかな……?
いっそあの時に……
そんな事を考えていたらいつの間にか部屋を飛び出して寮の屋上に来ていた。空は雲っていて今にも雨が降り出しそう。
まるで私の心みたい……
ねぇ……どうして?神様がいるのならなぜ私にばかりこんなに悲しみを与えるの?
もう充分だよ……
「はぁ……はぁ……」
軽く過呼吸になりながら手すりにすがる。
後から後から流れ落ちる涙は止まる気配をみせない。
音楽の世界で生きようと決めたあの日から、もう絶対に逃げたりしないって、前を向いて一生懸命生きようって思って来たけど……
もう限界だよ。
私がここで死んだら快音はきっと悲しむよね……
でも、それ以上にあなたから夢を奪いたくない。
ごめんなさい。
手すりを掴んだ手に思いっきり力を込め飛び降りようと体を前にのりだしたまさにその時。
「綾音ちゃん!」
誰かの声と同時に手首を強くつかまれ後ろに倒れ込む。一瞬何が起きたかわからなかったけど後ろから息を切らす誰かの声が聞こえて我に返って振り返った。
まさか……快音……?
初めて2人が出会った時、必死になって私を救ってくれた快音の姿が一瞬頭に浮かんだけどそこに居たのは……
「え……葵?」
「はぁ……はぁ……何してんだよ!」
私を止めたのは快音ではなく葵だった。
葵は額にたくさんの汗をかきながら掴んだ手首を離さず、今まで見た事のない真剣な顔で私を凝視している。
「綾音ちゃんが死んだら悲しむ人が沢山いるんだよ!俺だって悲しいよ!」
「……葵」
「何があったか知らないけど、どうして相談してくれないんだよ!?僕ら友達だろ?」
友達……その一言に抑えていた感情が溢れ出す。
こんなに想ってくれる仲間がいるのに、私はまた逃げようとしてしまった……
こんな自分の心の弱さが情けなくて、その行動に大きく後悔する。
「つっ……ごめん……ごめんね。でももう……どうしらたいいかわからなくて……ううぅ……」
私はしばらく泣き続け声にならない声をあげ続けた。
葵はそんな私を見て何も言わず側泣き止むまで側で支え続けてくれた。
そして気持ちがだいぶ落ち着いてきた頃、気がつけば葵にここ数日間の出来事を全て話していた。
まるで壊れたギターが無理やり音を出すように、沢山泣いて枯れた声を絞り出して。




