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11 流れる時の声

「……ありがとうございます。こんな私をそんな風に大切に想ってくれて」

「綾音ちゃん……」


本音をゆうと頭の中がぐちゃぐちゃで混乱していて冷静を装うのが精一杯だった。

だけど……


私は意をけして自分の気持ちをありのままに伝える事を決意した。

快音さんとの関係が壊れてしまうのが怖かったけど、このまま何も言わずに逃げたら自分自身が絶対に後悔すると思うから。


「正直驚きましたけど凄く嬉しいです。私にとって快音さんは生きる光を与えてくれた人。私も、快音さんのそばにいる時が1番自分らしくいられる気がします」

「……うん」

「ただ。今まで誰かとお付き合いした事もないですし、人を好きになった事がないのでこの気持ちが恋なのか尊敬なのかよくわかりません」


快音さんの顔を見るのが怖い……。

こんなこと言われたらきっと悲しむよね。

でもこれが私の本心だから、本当の気持ちを伝えない方がきっと悲しい事だから。

快音さんの過去がどうとかそんな事関係なくそれが1番だと思ったんだ。


「だから……」

「それでもいい。」

「え?」


驚いて快音さんの方を見ると快音さんはまっすぐ真剣な顔で私を見つめていた。


「今はまだそれでもいいから、付き合ってくれないかな?俺が支えるし、俺……こんな気持ち初めてでさ」


言葉と同時にあの時と同じように、だけど優しく大切なものを包むように抱きしめられる。

温かくて心地よい……

落ち着いていた胸の鼓動がまた静かに高鳴る。


これが人を好きになるって事なのかな?


快音さんの胸に顔を埋めながらゆっくりと頷く。

きっと相手が快音さんだったから、こんな風に素直になれたんだね……。


ゆっくりと離れると快音さんはそれはそれは嬉しそうに微笑んでいた。

まるで初恋をした男の子みたいな顔で。


「ありがとう。じゃあさ、これからは綾音ってよんでもいいかな?」

「え?……はい」

「じゃあ俺の事もできたら快音って呼んでね」


それはとても些細な事だけど、2人の距離はこの時確かに大きく近づいた。

とてもゆっくりだけと確実に。


その日から2人の付き合いが始まった。

もちろん、立場上公にはできないしお互い忙しいので中々会う事はできないけど前以上に連絡を取りあうようになったし初めは慣れなかったけどお互い呼び捨てで呼び合うようにもなった。


沙良には付き合いだした事は結局話さなかった。

反対されるのが怖かったし、今は他の人がどう思うかは関係なく私自身が見ている快音さんを……いや快音を信じたいと思ったから。


ゆり姉と葵にも黙っておくつもりだったんだけど葵の強引さに負けて快音が話してしまいその流れでゆり姉にもバレてしまった。


ゆり姉は心配もしていたが2人が幸せなら応援すると言ってくれた。

まぁ今後の事を考えると話しといて正解かもしれない。


話は変わってレッスンも順調にすすみ、遂に2人のデュエットが正式に決まった。

本当はまだまだ不安だらけなんだけど快音とならきっと上手くいく気がして前向きに頑張ろうと思えた。


そして、2人が付き合う事になってから2週間後の週末、デュエット曲の打ち合わせが始まった。


「と、今決まっているのはこんな感じになります」

「ではなるべく早めにスケジュールを合わせて練習に入りましょう」


「はい、お願いします」

「お願いします!」


プロデューサーの話が終わってゆり姉とスケジュールを決めていく。

2人の初めてのデュエット曲は、2ヶ月後に元々発売予定だった快音のCDにカップリングする形で発表する事になった。


それまでに練習をして音取りやジャケットの撮影などやる事がたくさんあって大忙しだ。

こういった経験のない私の為にゆり姉や快音が色々サポートしてくれる事になりとても心強かった。


打ち合わせが終わると別の仕事でたまたま来ていた葵がちらっと顔をのぞかせた。


「お疲れ様♪どう?初のデュエットはうまくいきそう?」

「まぁな、時間が少ないし色々大変だけどきっと最高の歌になると思うよ」


快音が同意を求めるようにこちらに視線を送って笑っているので、それに答えるように頷き、力強く答えた。


「そうですね!」

「ふふ、仲良しさんだね♪」

「バーカ」


3人で顔を見合わせて笑う。

とても穏やかで居心地のいい空間。

それまでの事がまるで嘘のように全てが順調でまるで春に流れる川のように時が進んでいた。

この時がずっと続けばいいななんて思ったりして。


だけど現実はそう甘くはない。

それから毎日厳しい練習が続いた。

お金を出してCDを買って貰うわけだから生半可な物ではいけない。

快音はともかく私は素人だし何度もダメだしされて慣れない長時間の声出し。

喉は痛いしだんだん疲れも溜まっていく。


ある日練習が終わって飲み物を片手に一息ついていると、いつも使っている小物がいれてあるポーチが無くなっている事に気がついた。


どこかで落としたのかな?

でも練習前は確かにあったはず。

どこいったんだろう。


心当たりを探してみるが中々見つからない。

まぁ安物だからいいんだけど。

そういえば最近、持ち物がよく無くなる気がする。

今までそんな事なかったんだけどな……。


「どうした?大丈夫?」

「ん?平気!なんでもないよ」

「そっか。俺これから別の仕事があるんだ」

「忙しそうだね、無理はダメだよ」


快音もきっと練習で疲れているだろう……

体を壊さないといいけど。


「ありがとう、俺は慣れてるから平気だよ」

「じゃあ先に帰るね」

「うん、お疲れ様」


明日も朝から練習だしもうあきらめよう……

そう思いしかたなく探すのをやめて寮に帰ろうと廊下にでるとふとトイレに行きたくなり、快音とわかれて女子トイレに向かった。


「あれ……?」


女子トイレに入ると入口の近くにはゴミ箱があって、そこには無くなった私のポーチが捨ててあった……

しかも何かで切られボロボロになって。


「酷い……誰がこんな……」


それだけじゃなく以前に無くなったものも一緒に捨てられていた。

なぜ?一体誰がこんなことを?


昔、イジメられていた自分の姿がチラつく。


そういえばどっかで聞いた事がある。

こうゆう売れるか売れないかの世界では新人が気に入られて先に成功すると妬まれてイジメや嫌がらせの標的にされる事があるって。


もしかして新人の私がすぐCDを出すことになったから?

でもそれだけでこんな酷い事を?

今は何も分からないけどこのくらいはよくある事かもしれないし騒ぎになるのは良くないよね。


なにより快音に迷惑をかけたくない。

私は、ゴミ箱に捨てられていた荷物を急いで回収して寮に帰った。


きっとほっとけば時間が解決してくれる……

その時はただそう思っていた。

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