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10 優しい春音

翌日、待ち合わせ場所はあの河原。

仕事上あまり目立つのはよくないので街中ではなくて人のいないここを選んだ。

とゆうか寮だとまた沙良に見られると気まずいからとゆうのもあるけど。


思ったより早くついてしまったので約束の時間までまだ少しある。

緑が生い茂る斜面に座り絶え間なく続く川の流れを見ていると、頭の中に浮かんでくるのはここで快音さんと初めて出会ったあの日の事。


あの時快音に出会っていなければ、こんなに広くて綺麗な音を奏でる世界を知ることは無かっただろうな……

その分不安もたくさんあるけど自分で選んだ道だから後悔はしたくない。


そんな事を考えていたら後ろから足音が聞こえて振り返るといつの間にか快音さんが立っていた。


「綾音ちゃん!ごめん待たせたかな?」

「いえ、大丈夫です」


なんだかこうやって顔を合わせて話すのはとても久しぶりに感じる。

最近お互い忙しかったしほとんどメールだったからな。


「……あのさ、この前はごめんね。いきなり驚いたよね。俺……色々あって頭真っ白で」

「私は大丈夫ですから気にしないでください。それより大丈夫なんですか?」

「うん、もう平気だよ」


あの時の事、やっぱり色々あったんだね。

でも、今はすっきりした顔をしているしいつのも快音さんで安心した。

あまり詳しく聞くのはやっぱりやめておこう。

それよりせっかくの休み、嫌な事は考えたくない。


「そうですか、何かあったら言ってくださいね。快音さんには色々助けて貰ってますし」

「……ありがとう、じゃあ行こうか」

「はい」


春が近いせいかポカポカと暖かな陽気が2人を包みこんで、自然と2人の間の空気を軽くしてくれていた。

川のせせらぎや子鳥のさえずりがあの時とは違ってとても穏やかで気持ちよく感じる。


しばらく歩いて最初に向かったのは快音が気になってたとゆうCDショップ。

広い売り場にはたくさんのCDが並んでいてそれだけでもわくわくして見てて楽しかったし、視聴サービスで色んな音楽を聞けるのがとても魅力的だった。


それから楽器を取り扱っているお店やマイクやスピーカーなどが売っている家電のお店にも立ち寄った。

どこも生まれて初めていく場所ばかりで、レッスンの疲れや感じていた不安も忘れるくらい充実した時間をすごせた。


お昼ご飯は焼きたてパンの香りにさそわれてオシャレなベーカリーを見つけて入った。

ふわふわの生地に小麦の香りがなんともいえない美味しいパンだった。


食後もいくつか店を回って気がつけばだいぶ日も落ちてどこからともなく昼の終わりをつげる鐘が街中に響いている。

色々歩き回ったから2人ともかなり疲れてしまった。


「もうこんな時間か」

「あっとゆう間ですね」


太陽が沈んでいくこの時間はなぜこんなにも切なく感じるのだろうか。

ふと遠くの街並みを眺めながらぽつりと呟く。


「あ、最後に1箇所行きたいところがあるんだけどいいかな?そんなに遠くないからさ」

「いいですよ。どこですか?」

「俺のお気に入りの場所」


お気に入りの場所?

どこだろう?

よくいくお店とかかな?

そう思いながら後をついて行くと快音さんは15分くらい歩いて近くに水道の施設がある坂道を登っていった。


周りが木々におおわれていて買い物街からそんなに離れてないのにここだけ物語の中の森みたいにガラッと違った雰囲気だ。


坂道を登りきるとそこには大きな噴水があって、近くに遊具がいくつか並ぶ広場があった。時間帯のせいか遊んでいる子供はいないけどおかげで水の音だけがかすかに流れる静かな空間が広がっている。


「え?これって」

「驚いた?この辺だとここだけなんだよ」


そこにあったのは小さな観覧車。

遊園地にあるようなのと比べるとゴンドラが9つだけのかなり小規模なものだけどカラフルでとってもかわいい。

所々錆び付いて色が変わっているし動いていないのを見るとかなり古い物だろうか。

よくみるとそばに同じような色の長椅子と電車の形をしているモニュメントがある。


「ここ、昔は子供向けの遊園地でわりと人気の場所だったんだ。今は使われてないけど観覧車を残して欲しいって声がたくさんあって今もこのままになってるんだよ」

「そうなんですか……」


広場の片隅にひっそりと立っ観覧車。

その先に小さな展望台があってフェンスごしに周囲の建物や線路が広がっている。

そんなに高くない場所だけど遠くの方まで良く見える。

展望台の長椅子に腰掛けると近くを流れる川越しに夕日が沈んでいくのが見えて、古くなった遊具を赤く照らしているのがレトロな感じでとても幻想的だった。


「ここ、小さい頃よく来た場所でさ。ここから見える景色が大好きなんだ。特にこの瞬間がいちばん綺麗に見えるんだよ!」

「とても素敵ですね」

「なんかさ、人も風景も時が経つとどんどん変わってくけどこんな風に古くなっても沢山の人の心に消えずに残っている物もある。それって当たり前に見えるけど本当に凄いことだよな」


そう話しながら、快音さんはどこか満足そうに観覧車を見上げている。

夕日のせいかそれはまるでドラマのワンシーンのようだった。


「俺もこんな風に人の心に残る歌を歌いたい」

「私の心には今も残ってますよ」

「え?」

「初めて行ったライブで聞いた快音さんの歌声が」


それは不思議と出てきた言葉だった。

だって快音さんの歌は私の心にしっかり届いてこんなにも明るい気持ちにさせてくれたのだから。


「……」


快音さんはまっすぐ私を見つめて何か言いたげな顔をしている。

その瞳に何故か胸が高鳴って言葉が詰まる。


「?」

「あのさ、俺」

「……快音さん?」

「俺……綾音ちゃんの事、好きだ。」


その瞬間周りの音が消えたかのように静まり返りとても長いようで短いような沈黙が流れた。

夕日が隠れて昼でもないし夜でもない黄昏時といわれるその不思議な時間を惜しむように。


「え……」

「いきなりごめん。初めは本当に素敵な歌声だなって。こんな人と一緒に歌えたら最高だろうなってそれだけだったんだ」

「……」

「でも最近1人になると綾音ちゃんの事ばっかり考えてるんだ、もっと力になれればって。それにさ綾音ちゃんの前だと本当の自分でいられる気がするんだよ」


それは私にとって本当に嬉しくて温かい言葉だった。

だけど私の頭の中では色んな事がぐるぐると回って自分の気持ちを言葉にする事がなかなかできなかった。

過去の自分、沙良の言葉、快音さんの気持ち。


彼の精一杯の告白を私はどう受け止めるべき?

なんて返事すればいい?


今まで恋愛のれの字すらなかった人生でこんな自分で……わからない、わからないよ。


だけどこの時、私の中である事に気がついたんだ。

快音さんは私の過去を聞いても何も変わらなかった。

こうやって好きだと言ってくれた。


全てを受け入れてくれたんだ。


それなら私も彼の過去に何があっても、その全てを受け入れるべきなんじゃないだろうか?

それに何より私の人生を変えてくれた快音。

彼の横にいるといつも素直に自分らしく生きていこうと思える。


この気持ちが恋なのか人を愛した事がないからはっきりとはわからないけどでも……。






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