四 勇者
勇者ロランに手を引かれ、私はこの街の役場のような場所に連れてこられた。
建物の中へと足を踏み入れると多数の人間が存在しており、こちらに一種目を配ったのちに皆、目を逸らし始めた。
「すまない。パーティの登録をしたい。」
「ロラン様、パーティの登録……でよろしいのですか…?」
「二度言わせないでくれ。」
ロランが受付嬢にその事を伝えると少し困惑したような声色を出した。がすぐに奥の棚から書類を持ってきてロランはと手渡してきた。
「勇者様のパーティ登録となりますと、少しお時間がかかりますので、おかけになって事前にこちらの書類をご記入下さい。」
ロランはそれを受け取ると数あるテーブルの中から一番隅にある空いている席へと腰をかけた。
その後、真横にある椅子に手でジェスチャーをして私を座らせた。
「書いておけ。」
数ページかある書類を手渡されそっと1ページ目を開くと注意書きや説明、法律関係のことが書いてあり記入欄が載っているのは2ページ目以降だった。
書類にはあまり学を受けなかった私が知らない文字が多数印字されていたが、ルビが振られていたので何とかおおよその項目がわかる程度には読み進めることができた。
「記入欄1、名前……2、出身地……3、………」
数々の項目があり、私に分かる範囲の項目は埋め終わった。
しかし、記入欄7、種族………この場所をどうするべきか……
熟考した末、現状を考慮して人と記入することに決めた。
書類を書き終えペンを置くと、書けない部分があると伝えた上でロランに提出をした。
「そうか。」と受け取ったロランはペンを取りちゃちゃっと私のプロフィールを埋めた上で受付嬢へと提出をした。
その後、嬢は書類を確認して歪な顔をした後に、わたし達は嬢から簡単な説明を受けた。
その説明はどうやら書類の1ページ目の事について話しているようだったので、一先ず後で確認すれば良いかと思い、説明を聞き流したのちに役場をあとした。
ちなみに、法律などが記入してある1ページ目に関しては切り取ることができ、そのまま持ち帰ることができた。
外に出るともう夕暮れだった。
ロランは近くに宿があると言い、15分ほど歩き一つの建物を指差した。
そこの店主にカードを見せると笑みを浮かべながら店主に部屋へと通された。
部屋はやや大きめの個室にツインベッドや多少のインテリア、風呂などがついている豪勢な部屋だった。
ロランにここに本当に泊まっていいかと確認し、許可をとった後、私はツインベッドの上へと飛びついた。
布団に飛び込んだわたしはもふもふの快感に埋もれながらむきゅーと幸せな気持ちになった。
こんなふかふかなところで慣れるのは何年ぶりだろうか。
それを見てロランはため息をつき、私を風呂に入るように進めた。
それを聞き入れ私はそっと個室の風呂へと向かった。
服を脱ぎ、大きめの人間が十分寛げるサイズの浴槽で足を伸ばした。
浴室の外から、ロランが
「着替えを用意した。それと今日の服を洗濯しておく。」
と声をかけられた。
肯定で返事をしようとしたが、すぐに帽子がないと耳がバレてしまうのでは……と思った。
これはまずい……なんとかして食い止めなくては……
私は全力で
「やめて!!」と声に出した。
ロランは少し困惑したように、「なぜ。」と聞いてきた。
咄嗟に私は「帽子はお母さんの形見だから……」と一瞬で思いついた嘘を口にした。
ごめんなさいお母さん……まだ生きていると思うのに……
勝手に私の中で親を殺してしまった返事に対して、ロランは少しの沈黙の後、
「帽子だけは置いておく。」
と告げ、風呂前を後にした。
風呂で疲れや汗を落とし、浴槽に落ちた尻尾や耳の毛をしっかりと痕跡が残らないように排水溝に流し入れ、私は風呂から上がった。
腰の周りに尻尾を巻き付けて上から服を着れば流石に尻尾があるとはわからないだろう。
シンプルな無地のパジャマに袖を通し帽子を被って私はベッドルームへと戻っていった。
その後、ロランが浴室へと入っていった。
もうすぐ1日が終わるのか……と思いながらも先程もらった法律などが記入された書類に目を通すことにした。
1、勇者の給料は基本的には出来高制。
日々の活動や、緊急要請クエストの参加、貢献度によって支給額が変化する。また、パーティメンバーの食費や宿泊費なども勇者が賄わないといけない。
2、勇者は緊急要請クエスト発令時、基本的に緊急要請クエストに参加しなければいけない。また、例外を除き5度連続で緊急要請クエストに参加しない場合勇者という職業は解雇となる。
3、勇者は3年に一度の選抜試験で選ばれた者のみがなることができ、勇者となった者は様々な社会的補助を受けることができる。ただし、禁則事項や国に対する反逆行為に思しき行為があった場合勇者の資格を解雇し、さらに厳重な処罰が必要と判断された場合、禁固刑となる。
4、勇者パーティは勇者が必要とあれば、出身、身分、種族を問わず国に協力の意思があるのなら申請することができる。
ただし、重大な違反行為が確認できた場合、人間であるならば処罰を、他の種族であるならば人権の剥奪を行う。
うわ…結構すごいことが書いてある。
人間怖過ぎ……
そんな事を考えていると、風呂からロランが出てきたようで寝巻きの姿で首にはタオルを巻いている。
あれ……てかロランと2人きりで寝るのって不味くないか……
もしかして、そんな事とかがされてしまうのでは……
ここは危険が訪れるかもしれない森とは違い一定の安全が確保されている街中。
あわあわと考えを巡らせていると、
「勇者の法律か……何か気になることでもあるのか……」
とロランが腰を屈めながら耳元で声をかけてきた。
「あ‥その……勇者って聞いたので戦いの前線に行くのかと思ってたけど違うんですか!?」
耳元から感じた声に甲高い声を上げながら咄嗟に思いついた質問を尋ねた。
「あぁ……知らないのか。戦争はもう終わった4年前に。」
「ど……どんな結果だったんですか……」
ある程度予想はついているが、唾を飲み込んで問いかける。
「結果として、魔王軍と人類の痛み分け、亜人の完敗だ。」
やはりそうか、私が捕えられる前から戦争は起こっていた。
魔王軍、人類、亜人軍による三すくみの戦争。
私のいた時代では亞人の長が人間と協定を結ぶというところで話が止まっていたと思っていたが、その協定は却下されたのか……
「確かに戦時中は勇者が前線に出て戦う必要があった。しかし、戦いは終わり勇者の扱いに困った国は公務員とすることにした。それだけだ。」
なるほど……勇者がこんなにも人々の生活の一部になっていた理由は戦争が終わっていたのか……
と、適当に出した疑問が解決しただけで、本質的な問題は解決してない。
恐る恐るベッドに指を刺し、わたしは
「私があのベッドで寝てロランさんが、そちらのベッドで寝るんですか……?」
と聞くと、少し間が空いた後、ロランが「一緒に寝るか?」
と答えてきた。
嘘でしょ、やっぱりそういう事だったのか……
この外道勇者、力で私が逆らえないと思いそんな事をするために私を連れ込んだのか!!
と心の中で思いつつ口には出せないので仕方なく肯定の意思を示しベッドをくっつけ一緒に布団に入ることになった。
明かりを消して数分後、すぐにスヤスヤと寝息が聞こえてきた。
そういえば、昨日はロランは眠りながら敵を警戒して最低限の意識を割いていたんだよね。
きっと、朝居眠りで長い時間動き続けていて疲れていたんだろう……
それですぐ寝てしまったのか……なるほど、今日の平和は保たれた。
そう思い、今までのことを整理しようと考え事をしていると後ろから力強い感触を受けた。
うっ……コヤツ急に本性を表しやがったな!!
そう思って振り向いたものの顔を目を瞑っており、先ほどと変わらず寝息も立てている。
あ……これ寝相だ……でも流石に異性に抱きつかれるのは……と少しパニックになっていたが、おや……何やら背中に感触があるぞ、小さいながらも少し弾力のあるそれは……
胸だ!!ロランのやつ小さめだが胸があるぞ!!
コヤツ……さては女か!!
なるほど、今までの態度もやや頷けるかもしれない。
ロランは人間の女子を見つけて保護のつもりで今まで接して来たんだ。
多少近すぎるような距離感があった理由も納得がいく。
なんだ……変態かと思っていたけど、ただの同性だったのか……疑問がスッキリ解消されたのでわたしは眠ろうとした。
のだが、強力な力で抱きつかれてなかなか寝付くことができなかった。
閉められて気を失ったのか眠気で気を失ったのかその日はわからなかった。
最近、杏仁豆腐食べました




