三 決意
ロランさんの後を追うように山を歩き続けてようやく出口が!!!
と何度思ったことか……
進んでも進んでも見えてくるのは草、木、茂み、岩。
途中、下手なことをしたら切り落とされる……と思ってロランさんに「いつ出口につきますか?」と聞いたところ、返ってきた返事は「安心して。」の一言のみ。
その言葉を信じてずっと歩いているけどかれこれ歩き続けてはや3時間ほど経過しているかのように思える。
いくら歩いても変わらぬ景色、鳴り止まぬ鳥の囀り、大自然を吹き抜ける風、もしかして……
「ロランさん……すみません。」
「何だ。」
「えっと……大変聞きにくいことなのですが……もしかして迷子なのですか?」
「そうだ。」
そう力強く断言した彼女の瞳はじっと私の目元を捉えていた。
あ……これ指摘したらなんか怖いことにあうやつだ……
私の中の危険シグナルがブザーを鳴り響かせている。
どうかどうか……お許しをロラン様……
そんなことを思い内心でビクビク震えていると
突然ロランさんは槍を手に取り私の首横に向かって突き刺した。
耳元でぶしゃっ!!と聞き覚えのある音が届く。
硬直している私を横目にさっと槍を引き抜くと、槍の先にはかなり大きめの牙を生やした鳥類が突き刺さっていた。
「こうなりたくなければ、ついてこい。」
そんな言葉を言いつつ、ロランさんは再度歩き始めた。
あぁ……怖かった……恐怖を感じると動けなくなるというのは本当だったんだ……
硬直していた肉体に喝をいれ、ロランさんの後を再び追いかけていった。
あれからさらに3時間ほどの時が経ちようやく人間が住んでいるであろう町らしきものが見えてきた。
山の上から大凡の景色が見えただけで、町の全貌まではわからないが、数々の建造物やそれを囲う大きな塀を見れば私が昔住んでいたような村に似た面影を感じなくもない。
多分発展した人間の町なのだろう。
「見えたな。もうすぐだ。」
「そ……そうですね。」
ようやく見えてきた。もうすぐこの張り詰めたような空気とはおさらばできる。
しかし、数時間歩きっぱなしだったのだ。
私の足は町が見えたことによりホッとした気分と、今までの疲労が溜まった結果、体重のバランスを取る限界を迎えその場に倒れ込んだ。
亞人は本来、普通の人間よりも体の作りが丈夫で体力も多い為ちょっとやそっとなことでは疲れたりしないのに、どうしてこの人間はここまで息を切らさずに歩き続けるのか……
「すまない。疲れたのか。」
「ロランさんは、先に行ってください……ここまで来れば私一人でも向かえます……」
足は疲労で倒れ込んでも、ロランさんが立ち去るまではずっと気に触れないように思考を続けなければいけない。
ロランさんと別れる為にも私が必死に考えだしたベストアンサー。その回答はというと
「休んでいろ。」
と、ロランさんは呟いた。
はぁ……これでやっと気を張り続かなくてすむ……
そう思ったのも束の間、ロランさんは、私の体を軽く持ち上げ片手でお尻部分を抱えるようにして歩き始めた。
えっ!?変態!!
そんな言葉が口元からこぼれ落ちそうなのを必死に抑え込んで、堪える。
でも危なかった……尻尾を防寒着の中に隠すようにする為常に上側に立たせた状態にしていて。
きっと、下に垂れるように尻尾を出していたら亞人だとバレていたに違いない。
それに、これ以上歩かずに安全に町まで近づけると考えればちょっとは良いこともあるか。
ゆらゆらと普段感じないような揺れを感じながらそっとその感覚を楽しんだ。
町の入り口まで辿り着くと甲冑を身に纏った兵士がお出迎えをしてくれた。
ふと周りを見ると上から見下ろした時より遥かに高くとても登ることはできないような高さの壁が町全体を囲っているようになっている。
これで人間は襲撃から身を守っているのか。
そう私は感心している。
「ロラン様、申し上げにくいのですが、見ない顔の……その子は?」
「ツレだ。」
兵士たちは考えらように少し黙りこくった後に納得したように周りの兵士に声をかけた
「ロラン様のお仲間だそうだ。門を開けろ。決して無礼な振る舞いはするな。」
そう言うと周りの兵士はざわざわとどよめきながらも大きな門が開き始めた。
町に入るとまず、繁華街のようなものがあり、人通りの多い道を私は歩いていった。
店ではいろんな人間が並べられた商品を吟味し売り捌いており、ぶつぶつと「ここの物は安いね。」だったり、「時代が変わったからね。」「やっぱり戦いが落ち着いてから変わったわよね。」など、さまざまな人間が話しているのが聞こえてきた。
軽く周囲を観察する。
幾つかの建築中の建物があり、色々な場所で、私と同じ亞人が皆、笑みを浮かべながら肩に荷物を運びながら木材を組み立てていた。現場監督のような人間が椅子に腰掛け本を見つめながら、時折亞人に対して言葉をかけながら建築を続けているようだ。
なるほど……ここの町では亞人と人間が共存しているのか。と少しホッとした。
繁華街では、多くの建物が壁となり、繁華街の様子しか見えなかったが、建築中の建物はまだ完成しておらず、木材の隙間から奥の様子を伺うことができた。
奥では、土の上で食物を育てているようで亞人が汗水を流しながら、ぜぇぜぇと土を耕したり苗を植えたりしていた。
自立している亞人もいるんだなぁ……と感心の気持ちで一杯になっま。
繁華街を通り抜け、ロランさんは私を抱えたままとある店に入っていった。
店に入ると、姿を着飾った人間が出てきてロランさんが、外にある椅子とテーブルを指差すとすぐにそこに通された。
あれ……もしかして正体バレてた……
もしかして……ここで色々と問いただされた挙句、私がちぎってつねられるのでは……
うぅ……逃げ出そうとしても足が重くて体が動かない……
まさかこの人間。この機会を伺ってやがったのか、この外道め。
そっと、ロランは私を椅子に座らせると、向かいの椅子へと腰をかけた。
「こちら、メニューになります。」
すると、先ほどの着飾った人間が何やら薄い本のようなものを差し出してきた。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください。」
そういって一礼をするとその人間はそそくさと店の中へと入っていった。
その本を恐る恐る捲ると中には今まで見たことのないような食欲を煽る綺麗な食材の写真が貼り付けられていた。
「好きに食べて良いぞ。」
そうロランは呟いた。
まさか……最後の晩餐ってことなのか。最後ぐらいは良いもの食べさせてやろうと言う図らいだな。さては。
そう思ったけど、今はすごくお腹が空いている。
まぁ、後のことは良いや。
「決まったか?」
私がコクンと頷くとロランは挙手をし、先ほどの人間が顔を出した。
「ご注文お伺いいたします。」
「どれが食べたい。」とロラン様が言うので、ひとしきりに私は食べたい写真を指差した。
人間は驚いたような顔を一瞬見せながらも何やら呪文のようなものを唱えてから、早足で店中へと戻っていった。
「成長期か。」
とそう呟いたロラン様はそっと店の外の風景を見つめていた。
数分の沈黙が続いた後、先ほどの写真に写っていたものが次々にテーブルへと運ばれてきた。
「ここは天国なの!?」
運ばれてきた料理に次々と食らいついて行く。服に多少溢れたり顔に汚れがついたりしても気にしない。
今はこの腹の獣を大人しくさせよう。
そうやってしゃぶりついていると、ロランは上品にフォークでパスタを啜りつつも、今まで閉ざしていた口を開いた。
「シャルデー、行く場所ある?」
「あ……えっと……」
料理を貪る手を一度止める。
「この町の住民ではなさそう。」
「そう……です。」
「ここに住みたいなら、上に審査を請求する。」
町の風景を見渡しながら、「お願いしますっ!!」と言いそうになった口を押さえ込む。
この一瞬で疲れてお気楽だった思考を冷静にさせてくれた料理に感謝の念が湧いてくる。
よくよく見てみればここは全ての種族に優しいユートピアな町ではない。その証拠に町でしている建築では、すべての場所で建物を建てているのは亞人で、それを椅子に座りながら一人の人間が呑気に雑誌でも読みながら亞人を怒鳴りつけている。
農地で必死に土を鍬で耕したり、種を撒いたりなどの肉体労働をしているのもすべて亞人だ。
私のようなまだ幼く、長い間満足な運動すらしていないうえ、女の亞人でさえ、約3時間ほど歩き続けてようやく息が切れ、更に数時間歩き続けようやく足が動かなくなったのだ。
作業の手際の良さを見るに、労働を数日続けている上、男性の体力がたくさんあるであろう亞人がぜぇぜぇと疲れ果てている様子もみて、8時間は休憩もなしでずっと働き続けているのだろう。
きっと、亞人が作ったであろう食材を人間は市場で売り捌いているのか。
先ほどの会話を思い出すと「物が安い」と言っていたの点もおそらく、今までよりも安い労働力で仕入れた食材を売っているから比例するように安価で物を売り捌くことができ、この町が活性化しているということだろうか。
一見、亞人と人間が共存しているようであるが、この関係は明らかに奴隷と支配者。そんな風に思えてくる。
もし、仮にロランが私の正体に気付かずに申請という物を行ったら詳しい審査が入り、亞人であることがバレた暁には私もあちら側になってしまうと予想できる……
この現状を変えようと意見をしても、今の私はただの見知らぬ人間。
そんな者が何かをしたところで一蹴されて終わりだろう。
そういえば、ここでは多くの人間からロラン様。とロランが呼ばれているのが気になっていたが、今までの振る舞いを見る限りかなりの信頼を得ている人間なのだろう。
ならば……この人間の側で私の地位を押し上げ名声や信頼を得ていけば、もしかしたらこの亞人の悲惨な現状を変えられるかもしれない……
本来、こんな事をする柄ではないが、一人で旅に出たところで、先ほどの森のように危険な人間に囲まれて殺されるのがオチだろう。
かといって、ここで暮らそうと審査を受けたところで正体がバレてしまう可能性も高い。
「あの……」
「何。」
私は必死に思いを振り絞って
「ロランさんの……仲間に加えてください!!」
すると、ロランさんは無表情のまま手に持っていたフォークをテーブルに落とした。
次に、私に目線を合わせつつじっと釣り上げた緋の目でそっと問いかける。
「私が誰か知ってのことか。」
「私の知ってるロランさんは私を助けてくれたカッコいい人間です!!」
周りにワラワラと人間が集まってきた。
「命の保証はできない。」
そう、じっと冷たい眼光で睨みつけてくるロランさんに、怯みそうになるが、
「構いません。」
ここでずっと奴隷のように働く未来よりかはまだ、その方が良いだろう。
「この、勇者ロランについてくると言うのか。」
「はいっ!!」
え………勇者?
私の返事を聞くと、周りに集まっていたギャラリーが何やらどよめき始めた。
「おい……聞いたか。」「あぁ。」「あの冷徹のロランに仲間だって。」「馬鹿、聞こえるだろ。」「あの子大丈夫かな。」「いつも孤高な勇者にな……」
ザワザワ……とさまざまな声が耳に入ってくる。
あれ……もしかしてかなりヤバいことを選んでしまったのでは……
そう脳内を音速でさまざまな考えがよぎるなか視界にそっと手が写り込んできた。
「シャルデー、ついて来い。」
「は……はい!!」
その手をぎゅっと掴み、力強く返事をするしか逃げ場の残されていない私には出来なかった。
今日の朝ごはんはレトルトカレーでした




