表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

QUEST 3

 最初の村まで、あとちょっとってとこまできた時、冷たい一陣の風が撫でて行った。

「な、なんか急に風が冷たくなったような気がしねえか?」

 しかも風は周囲の木々をざわめかせるほどに吹いてきて、首筋の汗が一気に冷やされて俺は思わず身震いした。

「これはまずいなぁ。雷雨になるかも」 

 サージュは風向きを確かめると、顔をしかめて空を仰いだ。俺たちの目指す村の方角から、鍋を焦がしてしまった時の煙のような雲が空を次第に覆ってくるのが見えた。

「うわ、ヤバそう! 早めにどこか雨宿りできそうなとこを見つけないとな。サージュ、地図で何か分からないか?」 

 そうしている間にも、遠くから雷鳴らしい音が少しずつ近づいてきていた。

「ちょっと待って…… 早速探索魔法の出番だね、っと」 

 なんてサージュは地図を広げて、左手の人差し指を今いるだろう場所に置いて短い呪文を唱えた。

 淡い緑の光が指先から出て、それを地図の現在地の周辺へと円を描くようになぞっていくのを俺はいつものように不思議な気持ちで見ていた。 

 俺には魔力はさっぱりない。だけど、それを補うために剣一筋で修行していたら、いつの間にか街で1番の剣の使い手になっていた。

 でもそれはあくまでも街の中だけの話。国中には、そういった名うての剣士が掃いて捨てるほどいるって、旅の芸人が教えてくれたっけ。だからもしそういうヤツらと戦う時に絶対負けねえように、人並み以上の鍛錬を重ねてきたんだ。

 「あ、この近くに小さいけど雨宿りできそうな洞窟があるよ」 

 サージュが指差したのは、森の絵が描かれている、そのさらに奥。

「よっしゃ! なら急ごうぜ!」 

 俺たちは吹き付けてきた湿った風に背中を押されるように、洞窟へと急いだ。   

 でもすぐに雨雲に追いつかれ、たたきつけるようなでかい粒の雨が急に降ってきて俺だけすでにずぶぬれだ。 

 サージュはというと、自分だけ全く濡れずに涼しい顔をしている。 魔法でバリア張ってんだな。自分だけにしかかけられないなんて、ほんとに賢者なのかよって疑いたくなるようなみみっちいレベルの魔法だぜ。 

 そうしているうちに、雷雲はあっという間に俺たちの頭上に来てしまった。そして激しい稲光とともに耳をつんざくような轟音がして俺たちは思わず目をつぶった。そして目を開けた時、思いがけないものが、そこにいた。 

 それは、『サンダーボルトクラウド』という、好戦的なモンスター。

ひと抱えの雲なんだけどふわふわとしてつかみどころがない。普段は隠れている目が開く時、人間なんて一瞬で黒焦げになるほどのエネルギーを放出するので超危険級モンスターとして、俺たちの間では避けるのがベストだとされているヤツなんだ。

 逃げ切れたヤツがいたなんて話は聞いた事がないけど。 

 思いがけない強敵の出現に、背中を一筋の汗が流れていく。 

 咄嗟に柄に手をかけたもののこいつには現状では剣での攻撃は通じない。

「……サージュ、どうする?」 

 俺は呻くように相棒に声をかけた。

「こいつは厄介だね……。 でも時間稼ぎしてくれたら何かいい案が思い浮かぶかも」 

 遠まわしに、俺に囮になれって言ってるな。こうなったら、『賢者様』のお知恵に頼るっきゃない。

「よっし、俺がなんとかヤツの注意をひきつけておくから、とっとと考えろよ」

「へいへい。ま、黒焦げにならないように気をつけてね」 

 ……こいつ、人の気も知らないで! うーっ、こうなったらもうヤケだっ! 俺は濡れた前髪を振り払うと、サージュから離れるために剣を抜いて走り出した。

「こっちだ! ほれほれ電気はこれが好きなんだろっ!」 

 剣をわざと高く掲げてモンスターの気を引けるようにブンブンと振った。 

 すかさずモンスターは、俺を追ってきた。 

 かなり距離を置いたつもりなのに、あっという間に俺の頭上まで来て、一瞬動きを止めるとすぐさま目を開いた。 

 俺はタイミングを見極めてめいっぱい飛び退いたが、足元がぬかるんでたのでバランスを崩して片膝をついてしまった。やべ! すぐに剣を地面に突き立てて体勢を立て直そうとした時、それと同時に目も眩む光とともにものすごい量の電流が、さっきまで俺のいた場所を黒く焦がしていた。ついでに人が5人くらいはすっぽり入れる穴まで空いている。 

 思わず息を飲んだ。そして次の瞬間、もうすでに俺の真上にヤツがいて、すーっと目を開こうとしていた。 

 だめだ! もう間に合わない!

 おそらく来るであろう想像したくない状況を思って俺は目をぎゅっとつぶった。 

 電気って痛いんだろうか。それとも熱いんだろうか。どっちも勘弁して欲しいんだけどどうせ死んじまうんだから関係ないや。サージュ、死んだら化けてでてやるうっ! 

 ……あれ?そんな事思う時間あったっけ? そうっと目を開けてみる。ヤツがいない。……まさかサージュの方に!? 相棒の方に目を向けると、まる焦げにはなっていないし、モンスターの姿もなかった。 少しほっとしつつも、体勢を立て直して空をくまなく見渡す。 

 すると雷雲からの稲妻を受けているヤツの姿が見えた。あいつ、ああやって電気を溜め込んでいるんだ。でもはがゆい事に俺たちにはヤツが電気を補充するのを妨害する手段はない。今度来たら、またさっきのように攻撃してくるだろう。そうなったら絶対逃げ切れない。 

 ……どうする? 焦りにも似た気持ちに支配されかかった時、サージュが手招きした。なんかいい考えが出たんだ! 

 息を切らせて駆け寄ると、お疲れー、ってにこやかに俺を迎えた。

「ねぇスフィーダ。またさっきみたいにあいつの気を引いてくれない?」

「冗談じゃねぇ! さっきマジでヤバかったんだぞ!」 

 俺は思わずサージュに詰め寄った。

「まぁまぁ。今度はほんと大丈夫だから。とりあえずもっかいだけ……ね」 

 軽く言い放つサージュに睨みをきかせつつ、俺はしぶしぶまた囮になった。 さっきと同じようにヤツの気を引くと、またこっち音も立てず飛んできた。

 げげっ、なんかひとまわりデカくなってないかぁ?! 

 ヤツがまた目を開こうとした時、ヤツの上にサージュが何かを投げたのが見えた。 そしてサージュがロッドをかざして呪文を唱えると、一瞬で辺り一面真っ白な霧に覆われた! 

 その霧もすぐに消えて、残ったのは地面に落ちた一抱えの氷の塊。

「スフィーダ! 早くその氷を砕いてっ! そいつはさっきのモンスターなんだ」 

 その声にすぐに反応した俺は、返事する間もなく両手で構えたソードを思いっきり叩き付けた。その威力に答えるかのように即座に氷の塊は細かく砕けて、降りしきる雨にあっという間に解かされて地面に消えた。 

 よっしゃあ! やったぜ! 

 俺はいつものようにソードを空高く、回転をかけて思いっきり舞い上げ、タイミングよく柄を掴んで一振りすると背中の鞘に収めた。

 うしっ、決まったぜ! 

 このスタイルは、バトルに勝利した時には欠かせない、俺の楽しみの『カッコつけ』だ。

「おみごと! やったね」 

 サージュに走り寄っていくと、満面の笑みで俺を迎えた。

「一時はどうなるかと焦ったけどな。 それにしても、おまえ、氷系の魔法って苦手だったよな? さっきのはすごかったじゃん」 

 そういうとサージュはちょっと得意気になった。

「いやあ、道具屋の福引で、氷魔法を詰めたビンが当たってたのを思い出してね。それに増幅魔法をかけたらイケるかなーって思ったんだ。このあたりで増幅魔法は僕の右に出る者はいなかったからね」

「賢者様なら、姑息な技ナシのハイレベルな魔法でガツンと決めて欲しいとこなんだけどなぁ」 

 嫌味エキスたっぷりの率直な意見をサージュに浴びせても、顔色ひとつ変えない。

「あれ? 僕の機転がなかったら、今頃は黒焦げ死体一丁上がりっ! ……だったはずだよ。スフィーダ」

 ……こうなったら、俺たちの漫才……もとい言い合いはエンドレスなので、ここらでスパッと仕切りなおそう。そんな暇はないはずだから。  

 気がつくと雨雲ははるか彼方に去っていって、頭上にはもう青空が広がっていた。最初に目指す村は、あの虹の向こう。もうすぐだ。


感想、お待ちしてます♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ