第五場
第五場 同場
本舞台、元と同じ今の佐平次内の道具。ドロドロを打ち上げると明転。佐平次、前場の勢いで七三に駆け出したまま呆然としている。下手に三太立っている。佐平次、ハッとなり振り返る。
佐平次「おりん」
ト、佐平次、がっくしとなる。
三太「もう十年も前か。お前さんが、心から泣いた日で、この人がいなけりゃ、他にはなにも意味がねえと思えて、そしてお前さんが変わった日だ」
佐平次「俺がもし、もう少し早く女房を医者に見せてれば。もっと信心していたら。もう少し稼げていたら。もう少しいゝ暮らしをさせられていたら」
三太「人は死ぬときは死ぬもんさ。若かろうが年だろうが、金を持っていようが持っていまいが、聖人だろうが悪人だろうが、その時が来たら迎えが来るのさ」
佐平次「お前さん、たゞの子供じゃないんだろう。最初はお釈迦様の化身かと思ったが今は閻魔様のほうがしっくりくるぜ」
三太「信心なんてもう残ってねえのに大層な言われようだ。さて佐平次さん、まだ終わらねえぜ」
佐平次「これ以上、何があると言うのだ。お前が言った通り、おりんが亡くなってからの俺にはもう何も残っちゃいないさ」
三太「そんな上っ面の嘘は通らねえよ。女房が残してくれたものが一つあったろうに」
ト、佐平次、思入れ。
佐平次「おすゞ○いや、あいつはもう」
三太「教えてくれよ、佐平次さん。なにがあったのかをさあ」
ト、三太、笑う。
暗転。道具回る
ドロドロにてつなぐ