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5. 「賢者」ダメ、ゼッタイ。

周辺住民の記憶を奪うというテロリズムを起こした少女を無事確保した俺は、翌朝に冒険者ギルドへと来ていた。


「おはようございます、ツカサ様。今日からこの街の最強冒険者ですね」


ネルが開口一番に言ったその言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。驚くべきことに、あのチンピラみたいな男はこの街で最強の冒険者だったらしい。最強の冒険者でもCランクだったのは、この街が主要な都市から離れているためらしい。


「まあ、決闘で勝ったんだし正当な手段でなったんだから誰も文句は言えないな」


「そうですね。それに、二つ名に「賢者」の文字を入れるなんて。最初はただの頭のおかしい人だと思ってましたよ」


頭がおかしいと思われていたことに少しショックを受けるが、そう思われた理由がわからない。


「なんで「賢者」の文字を入れるとそう思われるんだ?」


「はあぁ、また出ましたよ常識知らずっぷりが。さすがにそれはこの世界に生きる人なら知っているはずです。一体貴方はどこから来たんですか」


異世界から来たんでこの世界の常識知らなくてサーセン、と言ってもいいのだが、こういう場合は大抵頭のおかしい人間とみなされてしまう。なので、これ以上そう思われるのは傷つくので嘘を言う。


「いやあ、実は俺「賢者」を越えるために山ごもり生活で修行してたから、今の常識知らないんですよね」


「どんな山ごもり生活で修行してたらそんな貧相な体になるんですか?…まあ、いいですけどね」


確かに修行していたのに貧相な体つきなのはおかしいな。というか、貧相とか言うな。


「それで、なんで「賢者」の文字が入ると問題なのか、その質問の答えます。あなたはエルハイト教という宗教をご存知ですか?」


俺が首を横にふると、ネルが嫌そうな顔をする。


「まあ、知らないと思いましたけどね…。そのエルハイト教は過去に活躍された「賢者」様を崇拝する宗教なんだそうです」


「「賢者」を崇拝?」


おかしな話もあるものだ。あんなクソガキがそのまま大人になったような美女の何がいいんだか。…もしかして美女だからいいのか?


「それで、こういった二つ名とかに「賢者」と付けることは、崇拝者達からすれば耐えられないんでしょうね。現にそう名前に入れた人々は皆失踪しています」


「何それ怖いんですけど」


ネルは脅すように俺に言ったあと、努めて明るい笑顔をする。


「まあ、ツカサ様は実力者ですし大丈夫ですよ!」


「一昨日登録したばかりなんだが?」


「あれ、もしかして大丈夫じゃない?」


「そこは自信もってくれよ!」


悲痛そうな叫びをあげると、ネルはクスクスと笑う。


「そんなに心配しなくても大丈夫です。失踪された方々は皆理由があったり、大分歳だったそうなので、ただの噂ですよ?」


俺はネルの悪戯にまんまと嵌められたらしい。だが、憤慨することは無い。これがスキンシップだということは理解できている。だからこそ喜びの握手がしたい。相手が泣き叫ぶような万力の握力で。


「そうだ!この依頼、誰もいなくて困ってたんですよ。受けてくれません?」


「露骨に話逸らしたな!?…まあ、いいが」


内容は大量発生したコボルトの群れの討伐。土地勘なんて無いが、それでもわかるほど場所も近場だ。…というか、俺が今まで受けた依頼、どう考えても全部雑魚処理なんだが。


「この依頼、実は難易度の割に報酬がひじょうに高くて…」


「この依頼受けます!」


「いってらっしゃい!」


昨日たまたま聞いた話なのだが、ネルはこの街では有名な美人で、人当たりもよくとてもモテるらしい。だからこそ、この見送りの言葉を喜ぶ人ぎ多いんだとか。


俺は振り返ることなく手を振った。何となくかっこいいと思ったからだ。



五分後、俺は路地裏で謎の集団に誘拐された。



~~~~


「っ!ここは…?」


目を覚ました途端に、直前にあったことを思い出して辺りを警戒する為に見回す。


ここはどうやら室内らしい。薄暗く湿った空気が漂っており、壁は黒っぽいレンガでできている。窓は一つも無く、何となく牢屋の様な空気が感じられた。…なんだかデジャブを感じる。


「ようやくお目覚めなのかい?」


俺はデジャブを感じたせいか見落としていた一つだけの異なる点、扉があるところから響いた声に心底驚く。


慌ててそちらを見ると、そこには女がいた。さらりと流れるような紫髪を短く整え、ボブヘアと呼ばれるような髪型をしている。瞳は髪と同じ紫色で、柔らかな雰囲気がある目付き。美女と言って文句のない程だ。胸元には紫色に輝く宝石を飾っている。だが、問題は服装だ。


彼女は聖職者のような服装をしていた。たとえ異世界でもここまでの人は一人を除いていなかった。正直言って痛い。非常に痛い。シャーロットのような残念さを垣間見た。


「なんだか心外な視線を向けられている気がするね」


彼女は不満そうな顔をすると、不意に微笑む。俺にはその微笑がなんだか気持ち悪く思えた。美女の微笑みにそんな思いを抱くなんて、俺はどうかしてしまったのだろうか。


「まあ、名前も名乗っていないわけだし仕方ないか」


嘆息した彼女は己の名を名乗る。


「ボクの名前はルピナス。ただのルピナスさ」


「いや、その前にこの拘束を解いて欲しい」


俺は自分の姿を見て言う。俺の体は椅子に縄でぐるぐる巻きにされていた。


「…」


「…」


何とも言えない空気が辺りを満たした。

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