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4. ワスレロぉ

俺がデバフを多用して勝利した後、ギルド内は俺が今まで見てきた中で一番賑やかだった。…二日しか来てないけどな。


何よりズルズルと運ばれていった、ラ……?何とかさんが気になるな。というか、今朝から物凄く物忘れが激しい気がする。


この不運体質でついに老化が始まったのか、なんてくだらない事を考えているとネルがこちらに嬉しそうな顔をしてやってくる。


「おめでとうございます、ツカサ様!」


「ああ、ありがとう。ネルさん」


「いつの間にか私の名前を覚えてくださっていたんですね。ありがとうございます、ツカサ様」


「いえ、会話の中で聞いたのでそうかなぁと」


俺の言葉にネルは嬉しそうに微笑む。


「そんなツカサ様は今回決闘に勝利されましたので、冒険者ランクアップですよ!」


「え?」


「え?」


「冒険者ランクがなんで上がるんですか?」


ネルはとても驚いた後、そういえばこの人昨日登録したばかりだったわね、と呟いている。悪かったな。常識知らずのままランク上がって。


「あのですね、ツカサ様。決闘って何かご存知ですか?」


「ああ、知ってるよ。戦いたい相手同士がやる戦闘のことだろ?」


日本にいたころやっていたネトゲのクラン内の決闘を思い出すな。あの時は確か次に倒しに行くボスをどれにするかで揉めてたんだっけ。と、ネルは俺のそんな懐かしそうな顔を見て不思議そうにしながらも、微妙そうな顔で続ける。


「確かに違わなくはないんですけど…。一つだけ追加する情報がございまして、冒険者同士が決闘を行った場合、敗者は資格剥奪になり、勝者は敗者のランクを引き継ぐことができるんですよ。」


マジか。つまり俺はあのチンピラみたいな男のランクと同じランクになれるのか。でもその通りだと…


「…俺、一瞬で決闘申し込まれて資格剥奪されないか?」


「いえ、大丈夫です!決闘は半年に一度しかできないので、ツカサ様は少なくとも半年は決闘を申し込まれませんよ」


「そうなのか。それは良かった」


この体質のせいでまた何か起こるんじゃないかとおもったが、ひとまずは解決したか。だが、半年後にはまた決闘をするかもしれないってことかよ。…帰ったら筋トレしよう。


俺はネルから渡された決闘に関しての書類を書き始めた。



「もしかして、あの人なら…」



とある少女が呟いた一言に、集中していた俺は気づかなかった。


~~~~


「あ、おかえりなさいツカサさん!」


宿に帰ると、リルナが元気いっぱいに出迎えてくれた。なんだかほっこりした気持ちになるな。いや、ここは朝から気になっていたことをそろそろ聞こうと思う。


「ただいま、リルナ。そういえば今気になったんだけど、この宿中に漂ってる花のようないい匂いは何かわかるか?」


リルナはビクッと肩を震わせると、露骨に視線を逸らす。…何かしたな?


「リルナ、一体何をしたんだ?」


「あの、ですね。えっと…」


リルナはとても申しわけなさそうに何かを言おうとした後、無言で奥の扉を指で指した。


俺がその扉に近づくにつれて匂いはどんどん強くなる。俺がその扉に近づくにつれてリルナの目はどんどん死んでいく。


やがて扉の前に着いて扉を開けると、中は花畑になっていた。その場所が室外かと疑いたくなるほど花が咲き乱れているのだが、その咲き乱れている花が問題だ。明らかに毒々しいカラフルな花で、ハエトリグサのような形をしている。…これ、絶対ダメなやつだろ。


「リルナ。これは、何だ?」


「えっと、その…ただの花ですよ?」


「ただの花じゃないから聞いているんだ」


リルナは観念したように話し始めた。


「…これは、ワスレロ草の花なんです。実はこの宿の女将さんが最近忘れっぽくて、そんな時にこの花の花粉が薬になるって知ったんですけど」


なるほど、リルナは女将さんの為にこれを育てたのか。


「でも、薬の状態はとても高いので、栽培して自分で作ることにしたんです」


ここだけ聞けばとてもいい話に聞こえる。だが、いい話ですませてはいけない禍々しい花が目の前にいる。


「それで、種を植えて育てたらこうなりました」


めちゃくちゃ説明省いたな。その過程、何があった。


「ワスレロ草ってどんな植物なんだ?」


「ワスレロ草はその名の通り花粉を吸い込んだ人の記憶を忘れさせる力があるんです。そして、それを少量使うと、記憶力が良くなるんだそうです」


なるほど。この「少量」というのがネックだ。毒も少量なら薬、薬も多量なら毒となる。つまりこの花粉を吸い込み過ぎると逆に物忘れが激しくなるということか。…ん?ちょっと待て。もしかして俺が今日とても忘れっぽかったのって…


「今日俺が色々忘れてたのって、まさかこの花粉症のせい?」


「…………はい」


おい、何してくれてんだ。そのせいで俺はチンピラみたいな男の名前を忘れて喧嘩を売られたのか。…いや、普通にあいつの名前覚えたくなかったからか?今も思い出せん。だが、子どもの失敗だ。この年頃の時俺は失敗ばかりしていた。愛想を尽かされてても仕方がないほどに。だが、そんな俺を叱り導てくれた大人達が俺にはいた。だからこそ、ここは大人の余裕で許してやるべきだ。


「まあ、被害者は俺だけなんだし、特に困ったことは無かったから大丈夫だよ。ところで…」


俺はここに帰ってきてからずっと気になっていた事を口にする。



「みんな、どこ行った?」



そう、いつもうるさくはないが賑やかな空気がシーンとしている。それも当然、この宿には従業員も客もいないのだから。


すると、リルナが気まずそうに伝える。



「ワスレロ草の花粉で、皆昔の自分の家に帰っちゃいました」


「お前本当に何してくれてんの!?」


数時間後、俺はギルドからの依頼を受けて、ワスレロ草の回収と被害者達の保護、そして…首謀者の逮捕をした。


どうやらワスレロ草の栽培は違法だったらしく、リルナは散々説教を受けて、翌朝に目元を赤く腫らして帰ってきた。


そして、決闘での勝利と今回の依頼の功績を合わせて、俺の冒険者ランクがCランクに昇格した。登録から最速の昇格だそうだ。

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