その日の朝
話は1年進み、入社3年目の春のことになります。
入社3年目は第三係への配属がありませんでした。
業務は落ち着いているので現在のメンバーでも何とか回っていましたし、ゼロメートル地帯に多くの人が住む愛知や福岡、それから新潟などでのシティ建設前倒しが決まったために、うちの会社にまで人材が回って来なくなったというのも理由だったようです。
その年の4月1日は確か土曜日だったので、入社式と記念パーティーは週明けの3日に行われました。
昼間は良い天気だったのに鹿嶋に戻って恒例になった宴会をしていると雷雨が来てびっくりしたのを覚えています。
そんな雷雨で始まった新年度は災害の多い一年でした。
4月には四国の南方沖を震源として大きな地震があり、津波も発生したため少なくない被害が起きてしまいました。
当時警戒されていた大地震ほどの規模ではなかったといいますが、ここの被災地域でも復興事業としてシティ建設を前倒しで行うことが決まりました。
そういえば、その頃からシュウが毎朝海に寄ってくるようになりました。
それまでも週に1~2度くらいは出勤前に海へ行っていたのが、このころは毎朝の日課になっていました。
そんなある朝のこと、その日は目が覚めた時から何だか変な感じがしていました。
事務所に出勤したときには、普段だと周囲に居る海鳥が見当たらないことにも気付きました。
何だか変だなと思いながらも仕事の支度をしていると、普段よりも早い時間にシュウが出勤してきました。
「あ、稲村さん。もう来てたんだ。」
「おはよう。どうしたの?顔色悪いわよ。そんな状態で海に行ってたの?」
「そんなことよりも地震、だと思う?大きいのが来るかもしれない。」
「なに?海で魚でも騒いでたの?」
「そう。ここに居たら危ないかもしれない。」
「なら、お城に行っておく?」
「その方がいい。いや、それでも大丈夫かな。心配だ。それにみんなにも知らせないと。」
あれ?半分くらいは冗談のつもりだったんだけど、と思いました。
「ちょっと落ち着いて。だいたい地震予知なんて出来ないってことになってるじゃない。」
「予知じゃないんだ、魚たちが。それにあいつらも。」
「大丈夫?確かに今朝は変な感じがするけれど、君だって十分に変だよ。」
「変でも良いから、海から離れないと。」
「こないだの津波でナーバスになってるんじゃないの?」
「そう、その津波だよ。あれで本気になっちゃったんだ。今度はもっと大きいな被害が出るかもしれない。」
「ちょっと何言ってるのかわからないんだけど、津波にしても地震が来てからの話でしょ。一体いつ来るの?」
「それは…。」
「ほら。」
「でも、多分それほど先じゃない。そんな余裕のある話じゃないはずなんだ。」
「とりあえず、係長も来たみたいだから相談してみようよ。」
車の到着する音が聞こえたのでシュウとふたりで駐車場に向かいました。
「おはようございます。どうしたんです?朝から二人してお出迎えとは。」
「係長、おはようございます。今朝は変な感じがしません?いつもだったら海鳥が居るのに。」
「そういえば見えませんね。」
「宮森君が言うには海でも魚が騒いでいて、大きな地震が来るんじゃないかって。」
「地震?そういえば最近多いですよね。」
「来るんです、…多分。大きいのが。」
「それは怖いですね。」
「それで、お城で仕事した方が良いんじゃないかって。」
「なるほど。じゃあ、今日はお城の設備の動作確認でもしますか?」
「竜宮に詰めてるふたりにも念のために上がってもらった方が良いと思うんです。」
「僕たちだけなら構わないけれど、二人の作業まで止める必要があると思いますか?」
「地震が来てからじゃ間に合わないかもしれません。」
「そうなんですけどね、海鳥だけじゃなくて他にも何か根拠がありませんかね。」
「それじゃあ、女のカンです。」
「「え?」」
「ちょっと、何で宮森君までそんな目で見るかな。」
「まあ、そこまで言うんなら、うん、じゃあ今日の仕事は全員お城でしましょう。竜宮のみんなは…、う~ん、適当に理由をつけて呼んでみますよ。」
「ありがとうございます。」
「でも、引っ張っても昼くらいまでですよ。それまでに動きがなければ元の仕事に戻ってもらいます。」
K:このあと、本当に地震と津波が来ちゃうんだよね。
M:そうですね。
K:ドラマで見た時も恐ろしかった。なんだか読むのが怖いな。
M:苦手でしたら飛ばしますか?
K:ううん。ちゃんと読むよ。