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交差する深淵  作者: 宇美八潮
入社2年目
7/12

歓迎旅行

話は戻りますが、入社2年目の春の大型連休は火曜日から木曜日までが休日でした。

月曜日と金曜日に休暇を取ると、ほかの休日も含めて最大10連休が取れるという夢のような配置だったんです。

三係ではみんなで話し合った結果、平日だった金曜日をその前の日曜日の振替休日ということにして、日~月曜日を出勤日扱いの社員旅行に充てることにしました。

もともと社員の福利厚生の一環として部署単位の社員旅行枠が年に2日間あったので、本社にも承知してもらっています。

翌日の火曜日からだけでも6連休となるので、旅行先で自由解散のあとは各自帰省するというスケジュールです。

前年度は秋に鬼怒川温泉へ行きましたが、それをこの時期に前倒しとしたのは、飛び石連休の有効活用もそうですが、シュウの歓迎旅行という目的があったからです。


行先は現在の水戸シティからみて東側に位置する海沿いの地域でした。

前年の社員旅行は電車で行きましたけれど、今回は社用車を出して係長が運転をしてくれました。

私も車を出そうかと思ったのですが、終わってから熊谷まで行くのはともかく、そこから鹿嶋へ戻るのが辛そうだと断念しました。

距離もそうなんですけれど、連休の最終日は道路が自動車で大混雑して動かなくなる渋滞になることが多かったんです。


鹿嶋を出ると車は国道51号という道路を北上しました。

この道路は海岸線には沿っているんですけれど、海がなかなか見えないんです。

ようやく右手に海が見え始めると最初の目的地はもう間近です。

大きな白い鳥居をくぐって訪れたのは大洗磯前(おおあらいいそさき)神社でした。

こちらでは大国様などとしても有名な大己貴命おおなむちのみことと、海からやってきたという少彦名命(すくなひこなのみこと)をお(まつ)りしているそうです。

そういえば久しぶりに口にしたお名前だけど、結構憶えているものですね。

(まい)りを終えて、海岸の岩の上に立つことで有名だった「神磯の鳥居」を見たいという話になったのですけれど、実は車のある駐車場とは反対方向なんです。

鳥居を見に行って、また戻ってくるのも億劫だろうし時間も無駄だということで、皆さんには見に行ってもらい、以前に何度か見たことのある私が車を回すことにしました。

鳥居を見終えた皆さんを、二の鳥居の脇で乗せて出発すると、次の目的地、大洗水族館まではもうすぐです。

ここはサメの展示で有名なところで、意外と男の人たちが楽しみにしていましたっけ。


館内では集合時間を決めて各自それぞれに過ごし、お昼はフードコートで好きなものを食べました。

本当は生ビールを飲みたかったのですが、また車の運転があるかもしれないので自粛して夜の楽しみにとっておきました。

昼食後も出発までは時間があるので、大好きな大水槽のところへ戻ってきていました。

ゆったりと泳ぐ大きな魚、底の方でじっとしていて動かない魚、大きな群れを作って思いもよらない方へ向きを変えながら移動する小魚の群れ。

近くで仔細に見るのも良いし、少し離れた椅子に座って、ただぼーっと眺めているだけでも楽しめます。

連休中の日曜日なので子供連れの家族が多く来ていましたね。


「あの群れの先頭って気持ち良さそうだな。」

「俺が群れのみんなを率いてるって感じだもんね。」

そんな声がしたので見てみると中学生ぐらいの男の子二人でした。


「先頭に立たされたらプレッシャーしかなさそうだけど…。」

思わずそんなことを口に出してしまってたのは少し疲れでもたまってたのでしょうか。


「稲村さんの言うとおりだよ。」

「え?」

独り言に相槌を打たれたので驚きました。

見るといつから居たのかシュウでした。


「群れの先頭ってどうやって決まるか知ってる?」

「決め方なんてあるの?」

「うん。まあ決めるというか「先頭になる」んじゃなくて「先頭になっちゃう」って感じ。」

「あ、何だかわかる気がする。」

「ああやって群れを作っていると、襲いに来る魚がいても、どこを狙ったら良いか迷ってるのがわかるらしいんだ。だから比較的安心していられるんだって。」

「へえ。」

「あとは、みんなで集まって大きな口を開けていると、プランクトンとかが口に入りやすくなるみたい。」

「そういうものなの?」

「あれだけの数が居たら逃げ場がなくなるんじゃない?誰かの口には入っちゃう。」

「なるほどね。でもそれならば後ろよりも前に出たほうが口に入りやすそうだから、やっぱり先頭にはなりたいんじゃないの?」

「でもね、食べるのに夢中になっていて群れが向きを変えたときに気付かずにいると自分だけ取り残されちゃう。そうなると今度は取り残された自分が食べられる側になっちゃうかもしれない。だから周囲の動きには敏感だよ。」

「その泳ぐ向きとかってどうやって決まるんだろう。」

「あれはね、どれか一匹が何かを見つけて少し気を取られたりするじゃない。その時にちょっと向きが変わったりすると、周りがそれに気付いて押し寄せてきちゃうんだ。」

「え?そんなものなの?本当に「先頭になっちゃう」なんだ。でも良くそんな機敏に反応できるね。」

「ほら、側線ってあるじゃない。あれで周りの動きを感じ取っているらしいよ。」

「へえ、それは観察の結果?それともそういう研究発表とかあるのかしら。」

「側線は何かで読んだ話。他は信じてもらえるかわからないけれど、俺、魚の気持ちがわかるから。」

「あら。でもそれだと魚料理食べる時に大変じゃない?多分今度の旅行は魚尽くしよ。」

「調理された魚は何も考えないからね。」

「そっか。確かにそのとおりね。じゃぁここで飼われてる魚なら何を考えているかわかるの?」

「海の水で繋がっていないと伝わってこないんだ。それに聞きたいとも思わない。」

「どうして?」

「だって、呑気に何も考えていないのかもしれないし、怒っていたり悲しんでいたりするのかもしれない。いずれにしても、僕には何もできないから。」

「それもそうか。」

「信じてくれたの?それとも話を合わせただけ?」

「宮森君ならそんなこともあるのかな?って何となく思っちゃっただけ。」

「それって…。」

「あ、もう集合時間だよ。出口に向かわなきゃ。」



水族館を出ると海門橋という赤い橋を渡り、平磯海岸にある天然記念物「中生代白亜紀層」というのを見学しました。

ここも以前来たことがありましたけど、車を止める場所があるので今度は私も一緒に降りて、案内看板を見たり海まで下りてみたりしました。

まあ見た目にはただの磯なんですけれどね。


夜はその近くにあるホテルに宿泊です。

お風呂は塩の温泉で体が良く温まりました。

そうして夜は歓迎の宴会です。

5月4日がシュウの誕生日なので、サプライズでお祝いもしましたっけ。



翌2日目は曇りがちの天気だったので、期待していた露天風呂からの日の出は見ることができませんでした。

海からの日の出は鹿嶋でも見ることができますけど、高台の上で、しかも温泉に浸かりながらというのを期待していたので残念でした。


バイキングスタイルの朝食を食べ終えると、出発前には全員でホテル近くの酒列磯前(さかつらいそさき)神社へ歩いてお詣りに行きました。

ここは前日お詣りした大洗磯前神社との関係が深く、同じく少彦名命と、大名持命おおなもちのみことをお祀りしています。

日本の神様の多くがそうなんですけれど、大国様もいろいろなお名前を持っていて、両方の神社でも呼び名が少し違うんですけれどわかりました?

係長がそういう事に詳しくて、そんな話をしてくれていたから多分ちゃんと憶えていたんでしょうね。

このところ昔のことは比較的思い出せるんだけれど、最近の事はすぐ忘れちゃうので困ります。

と、そんな愚痴を聞かされても困りますね。

ちょっと変わった字を書く神社の名にも酒の字が使われていたんですけれど、少彦名命はお酒造りの神様でもあるそうなので、日頃の感謝も込めて皆して良~くご挨拶をしました。


ホテルに戻ってチェックアウトを済ませると、国営ひたち海浜公園へ今が見頃のネモフィラという青い花を見に行きました。

駐車場に車を置いて園内を進むと、通路の向こうに青い花が見えてきます。

私以外は男の人ばかりなので花を見てもどうかしら?と心配だったんですけれど、丘一面が小さな青い花でおおわれている景色は結構目を奪われていたみたいでした。


それからお昼は那珂湊おさかな市場の回転寿司屋さんへ行きました。

大ぶりの新鮮なネタが食欲をそそります。

食事代は会社持ちということもあって、皆さん食べること。

一番若いシュウよりも、おじさん二人組の方がお皿を重ねてました。

回転寿司は食べたお寿司が乗っていたお皿の色と枚数で会計をする仕組みなんです。

一番お皿の枚数が少なかったのは係長だったかも。

今日もお昼の飲み物は、お茶だけで済ませました。

お茶に毛が生えたやつ(おちゃけ(お酒))はこの後のお楽しみにとっておきます。


昼食後にお土産を買って、それから電車の水戸駅まで送ってもらいました。

係長はそのまま車で筑波シティの自宅へ向かい、残る4人は特急電車に乗ります。

特急っていうのは水戸を出ると上野までノンストップで走る早い電車なんです。

車内は真ん中の通路を挟んで左右それぞれに2人掛けの座席があって、全部進行方向を向いて並んでいます。

これは後ろ向きにも変えられるので、向かい合わせにして4人で座りました。

そうして電車に乗る前に買っておいた缶ビールで打ち上げの宴会を開始です。

おさかな市場で西村さんがおつまみを買ってくれていて、途中車内販売でビールを追加購入したりしながらあっという間の1時間でした。

お酒の話ばかりしているみたいですけど、まあ三係ではお酒が好きな人ばかりで、何かというと飲むことが多かったですね。

上野に着くと、そこからはそれぞれの方向の電車に乗り換えました。

そうして連休の後半はみんな自宅でゆっくりと過ごしたんです。

K:僕が良く行った水族館は、この大洗水族館が元になっているんだよね。

M:テレビドラマでは当時の記録映像が上手に使われていましたね。

K:マンボウも出てきて嬉しかった。

M:この回のマンボウなどは現在の水族館で撮影したそうです。後半の話でマンボウの群れが活躍するシーンはCGだそうですが。

K:へえ、そうだったんだ。あとで見返してみようかな。

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