入社の動機
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私が「新海洋都市開発」という会社を見つけたのは「オススメ公共事業」という求人アプリでした。
アプリというのはアプリケーションの略称で、スマホで利用できる様々な機能が用意されていました。
スマホは今のアイ・端末の普及前に使われていた携帯電話「スマートフォン」の略称です。(注1)
電話と言ってはいるけれど、実際には通話で使うことはほとんど無く、アプリを使ってメッセージのやりとりをしたりニュースを見たり、アイ・端末と同じように使っていましたね。
「オススメ公共事業」はスマホで動くアプリのひとつでした。
ちょっと話がそれてしまいましたけれど、この求人アプリはシティ建設に携わる人材を募集するために用意されたものでした。
できるだけ多くの人に参加してもらうことを目的としていましたので、募集分野が多岐にわたり、何かしら自分に合うものが見つかるという話を聞いたんです。
ですけれど、この会社が気になった理由というのは、シティの建設に直接は関わらない仕事だという点でした。
ちょっとアマノジャクだったなとは思いますけれど、実は仕事の内容は割とどうでも良かったんです。
そして、募集条件にスキューバダイビング経験者とあったのが選ぶ決め手になりました。
私が生まれ育ったのはここ熊谷シティ、その頃は熊谷市といいましたけれど、その近くでした。
歴史で習ったりして聞いたことがあるかもしれませんが、もう少し大きな行政単位では埼玉県という所に含まれていました。
藩ですか?それはもう少し昔の話ですね。
ええと、それで埼玉県というのは現在の首都の北側の地域なんですけれど、その頃は良く「海なし県」とからかわれていました。
今は東京湾が随分と北まで入り込んで来ていますけど、その頃は首都のあたりが北端だったんです。
だからでしょうかね、小さい時から海に憧れていました。
海面上昇が続いて、現在では元の埼玉県の一部も海になったところがあるそうですね。
そうなるだろうという予想は聞いていましたけれど、まさか現実になるとは思いませんでしたよ。
だけどせっかく近くに海ができても、もう気軽に遊びに行くところではなくなってしまったのが残念です。
貴方のようなお仕事でもない限り、シティから出る(注2)こと自体が無くなりましたものね。
それに以前の街や田畑が水に沈んだ所を海だと言うのはいまだに抵抗がありますし。
私が小さい頃は親に連れられて海を見に行ったり、水族館へ行ったりしていました。
水族館は海や川の魚などの色々な生物を飼育して展示する施設です。
食べるための養殖とは違いますからね。
やがて高校に進学するとスキューバダイビングを始めました。
空気の入ったタンクを背負って海に入るレジャーです。
海のない土地なのに何故だか家の近所にダイビングショップがあったんです。
このお店が無ければ始めてはいなかったでしょうね。
そうしてお店に入り浸っているうちに、そこでアルバイトを始めました。
当時は店のオーナーから「学校を卒業したら、うちに就職しちゃうか?」なんてよく言われました。
冗談だろうとは思いながらも「それも良いかなあ」なんて私も半分くらいは本気で考えていましたね。
でもね、気候変動の時代が避けられないということになると、次第に海はレジャーで行くようなところではない雰囲気になってしまいました。
私が大学生になる頃には、オーナーも今後の商売を考え直さないといけないと考え始めていましたっけ。
大学生の頃によく行ったのは逗子の周辺でした。
ただ海を見るというだけでしたら首都でも良かったのですが、そのあたりは港ばかりだったので、海に入って楽しむにはもう少し足を延ばさないとだめだったんです。
熊谷から電車で行くのにはその辺りが一番便利で行きやすい海でした。
そうはいっても乗ってる時間だけで3時間とかかかったんですけれど。
自動車を使えば大洗の方、水戸シティの近くなんですけれど、そういった辺りにも行けたんですけどね。
さっきも言いましたけれど、車は自動運転ではなかったんです。
だから自分で運転しないといけません。
そのためには運転免許を取得している必要があって、その免許は18歳にならないと取ることができなかったんです。
注1)ホログラム搭載のブレスレット型が登場する前のアイ・端末は、それまでのスマホと同じ形状だった。一般的なスマホは手のひらに乗るサイズの薄い長方形をした機器。
注2)この当時は原則として住人がシティの外に出ることはなく、シティ間の連絡は通信で済ませていた。移動が必要な場合は気象条件の良い時に専用のヴィークルを使って行われた。その後災害の激甚化で道路の損壊が進み、シティ間の往来はしばらく途絶えることになる。
K:スキューバダイビングってのをすれば、リアル・マンボウと一緒に泳いだりできるんだよね。
M:現在レジャーとしては行われていません。海洋調査や特殊な漁業で利用されているだけです。
K:まんぼさんは夢がないなあ。