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交差する深淵  作者: 宇美八潮
プロローグ
1/12

嵐の日の訪問者

「2000年代初頭、気候変動の時代が始まる。

先人達は防災都市「シティ」を建設して激甚化する自然災害に備えた。

一方で、迫りくる海に(あらが)うように海中都市建設の計画も進められていた。

それが未知の存在との遭遇につながるとも知らずに。

これは歴史に埋もれた知られざる事実の記録である。」


…というナレーションで始まる架空の人気テレビドラマ「深淵」の原作本の体で。

「僕たちとアイのはなし」から、まさかのスピンオフです。

ヒット作を生みだす腕は無いので、導入部分だけを書いてみました。

なお作中で描かれる技術、制度、災害などは裏付けの無い「でっちあげ」ですのでご承知ください。


※災害の話題が出てきます。津波等を描写する回はタイトルにも注記します。ご注意ください。


毎日2回、7時半頃と19時半頃の掲載を予定しています。

後書きはケイとまんぼ、それにアイコも加わっての読後感です。

「いらっしゃい。よく来てくれました。私がヤスコです。」

「ご連絡を差し上げたK出版のイツキです。今日はよろしくお願いします。」

「この天気だというのに大丈夫でした?「外」は大変だったのでしょう。」

「いえ、嵐(注1)の予報があったのでこちら(熊谷シティ)へは一昨日のうちに。」

「ああ、そうでしたか。でもそれなら連絡をもらえれば、今日まで待っててもらわなくても大丈夫でしたのに。」

「一応仕事も持ってきましたので、ホテルではそれを。」

「あらあら、ごめんなさい。つい自分の都合ばかり考えちゃいますね。一人で居ると手持ち無沙汰なものですから。」

「それは済みませんでした。特に急ぎの仕事でもなかったので、早めにお邪魔すれば良かったですね。」

「いえいえ、こちらこそ気を使わせちゃいましたね。それで、お時間の方は大丈夫なんですよね。」

「はい。ヤスコさんのご都合次第ですが、今週いっぱいくらいはこちらに居る予定ですので。」

「そう。なら、まずはお茶でもいかがかしら。一服してから始めましょう。」



    ◇



それにしても時代は変わりましたね。

今はこんな嵐の日でもシティの中では安心して居られますもの。

私が子供の頃は台風が来ると、それは怖かったものです。

台風だけじゃありませんでした。

爆弾低気圧とか局地的豪雨、あと線状降水帯なんていうのもありました。

そういうのが来て大雨が降るたびに、どこかで土砂崩れとか川の氾濫とか起きて。

テレビのニュースですとか情報番組とか、そういうので一日中災害の映像が流れていました。

今来ているこの嵐なんかよりもずっと小さくて威力も影響も低かったんでしょうけどね。

だけどシティなんてまだできる前でしたから。

その頃の私たちは皆「外」に住んでいたんです。

そう考えれば、少しは怖さをわかってもらえるでしょうか。


最初のシティが筑波にできて、それから首都や他の地域にも広がって行きました。

高潮の被害が多くなって来たのはその頃からだったでしょうか。

台風が来た時だけじゃなくて、春や秋の大潮なんかでは随分と被害が出ていました。

海面上昇の影響もあったので、それまで対策していた想定を超えるところが出てきてしまったんですね。

「海中都市」構想はもちろんですけれど、シティ建設が海沿いの地域で優先されたのもそういう理由でした。

最初のうちはね、どこそこで何世帯が浸水っていう感じで事細かに報道されていたんです。

でも次第に浸水の被害が大きくなってくると概算で済まされるようになってしまいました。

もっとも、そうなる頃には各地のシティが完成しはじめたので、もうかなりの人が浸水危険地域からシティに移っていましたね。

ですから正確な把握は難しかったのかもしれませんし、そうする必要も少なくなっていたのかもしれません。

そうして水が引くまでの日数がどんどんと長くなってゆき、やがて浸水したまま回復の見込みがたたない面積も増えてゆきました。

シティの整備が終わり全員がそこへ住むようになると、高潮被害の報道自体が無くなってしまいました。

もしもシティの建設と人々の移住がもう少しでも遅れていたならば、被害はもっと深刻なことになっていたんでしょうけどね。


海面上昇は現在も続いているものの、こうして当面の不安は少なくなりました。

だけど地震は嫌ですね。

今も時々大きいのが来ますでしょう。

シティが安全だというのは理解しているつもりなんですけど、いまだに房総沖地震を思い出しちゃうのかしら、慣れることはできずにいます。

確か学者さんの説明では、海面上昇で地盤にかかる海水の重量が変化したことで地震が起きやすくなっている、でしたっけ?

それに温暖化で台風や低気圧が発達しやすくなったものだから気圧の変化が大きくなり地震や噴火を促している、とか言っていましたよね。

富士山噴火の時の解説で聞いたのだったかしら。

最近の事だから、この時のことは若い貴方でも知っていますでしょう?

少し前から予兆があったので多くの人が事前に避難していましたが、御殿場側の山裾で大噴火が起きた時は大騒ぎでしたもの。

更に山体崩壊で見慣れた姿の富士山が外輪山の一角みたいになっちゃったのはショックでしたね。


そこまで大きな規模のものは少ないけれど、このところ特に火山活動が活発になりましたね。

大抵の地域でどこかしらの山から噴煙の上がっているのが見えるだなんて、小さいころには想像もできませんでした。

九州の桜島とか年に何度も小噴火を起こしている山もありましたが、他の山は少し噴煙が出たというだけで以前は大ニュースになったものです。

地震もそうですけれど、地殻変動の影響は各地で関連しているってことですし、大雨が増えて染み込んだ雨水がマグマと接触して起きる水蒸気爆発も発生しやすくなったという話でしたね。

平地は海に沈んで狭くなるし、山は土砂災害や火山の影響を避けなくちゃならない。

だけども、どうしても多くのシティは火山から十分な距離をとることはできませんよね。

幸いなことに火山からは少し離れているこの辺りでさえも、風向きによっては浅間山や草津白根山なんかの火山灰が降って来ますし、富士山噴火の時もこの辺りまで火山灰が届いていたそうです。


まあ、こうしたことは現在も続いていますから今更の話だったでしょうか。

ともかく、さっきも言ったけれど、まだ50年くらい前の私たちはそんな外の世界で生活していたんです。

そうしてこの数十年の間だけでも、災害の威力っていうのかしら、どんどん強くなってきていると感じます。


気候変動の時代なんて言われていますけど、いったいいつから始まったのでしょうね。

シティができ始めた頃かもしれないし、実はもっとずっと前の私が生まれた頃にはとっくに始まっていたのかもしれませんね。



    ◇



「あらあら、ゆっくりお茶でもとか言いながら、すっかり余計な話で長くなってしまいましたね。」

「いえいえ、そんなことはありません。」

「でも、こんな話は学校の授業とかでも習っているのでしょう?」

「そうですね。でも、それを実際に体験したご本人から伺うというのは貴重な機会です。」

「それなら良いんですが。さて、それじゃあ改めてお話を始めましょうか。」

「はい。よろしくお願いします。」



注1)嵐:この時代は自然災害が規模の拡大を続けており、台風が強力になったばかりでなく、通常の低気圧でも強いものは従来の台風以上の被害をもたらすようになっていた。このため一般向けの気象情報ではこれらを区別せず「嵐」として警戒を呼び掛けていた。気候変動の時代の終息とともに使われなくなった用語である。

K:この部分はテレビドラマでやらなかったね。

M:皆さん歴史の授業で習っていることですからね。省略したのでしょう。

K:この頃の台風は物凄い威力だったって話だよね。火山とか高潮とか、どのくらい本当の事なんだろう。

M:災害に関しては比較的史実に基づいているようです。

K:うわぁ、僕生まれたのが今の時代で良かったよ。房総沖地震っていうのは首都大地震とは別のものだよね。

M:ええ、首都大地震はこの時から200年ほど後のことで、それを最後に気候変動の時代が終息に向かったと言われていますね。

K:アイコさんはこの頃の事憶えてる?

A:物語の舞台は稼働前の事なので私も知識としてしか知りませんが、首都大地震や富士山噴火はよく憶えています。

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