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お客様6人目

スナック"TONYA(トーニャ)"の入口はいわゆる親子開き戸と言われる物で両方が開くとまあまあ広い入口になる。

基本的に子の扉が使われることはないが"TONYA(うち)"ではとあるお客様がご来店されたときに子の扉を開く。

そのお客様のあだ名は"(もも)"さん。

とても大きな女性のお客様。





19時を過ぎた頃、入口が開き「こんばんわ~」と1人の女性が顔を見せる。

「こんばんわ! 今、開けますね。」

入口の子の扉のロックを外し開く。

「どうぞ。」

「ありがとね。毎回ごめんね。」


そう言い店内に入り、ソファー席に腰かける女性。

ソファー席は2人掛け用の物を使用する。

1人掛け用はお尻がはまってしまい動けなくなるそう。

お尻がとても大きい。

というか、身体全体が大きい。

身長は165㎝。

体重は140㎏。

そんな彼女こそ"(もも)"さん。

"TONYA"で一番"大きい"お客様。




「いらっしゃい。ビールで?」

「ビールで。」

「はいよ。」

"カッ コッ コポコポ…"

手馴れた手付きでビールをグラスに注ぐママ。

「運びます。」

注がれたビールを"百"さんの前へと運ぶ。

「ありがと。」

運ばれたグラスを掴み。

"ゴッグッ グッグッグッ…"

「プァー おいしい!」

一息でビールを飲み干す。

飲み干した後に数秒目を閉じ、身体を小刻み震わせ

「ハァーーーー…」

と大きく息を吐く。

そうすると"百"さんの身体は"グニャー"と力が抜け、まるで溶けたかのようにソファーと一体化する。

これでようやく"百"さんが"TONYA"を楽しむ準備が完了する。




「ママ、私のボトルってまだある?」

「ん~…あと200mlってとこだね。」

「じゃあ、新しいの入れようかな。ん~…"黒霧島"入れといて。大きいの ! 」

「はいよ。」

"黒霧島"1800mlに"百"さんの名前が書かれる。

「前の物はどうします? 今から呑まれますか?」

200ml程残っている"百"さんの"二階堂"(1800ml)を出し尋ねる。

「そうだね。全部グラスに注いじゃって ! 」

「はーい。」

"トットットッ"

"百"さんは焼酎を好んで呑む。

呑む際はほとんど割りものを入れずストレートで呑む。

たまにロック(氷)で呑むこともあるそうなのだかメチャクチャ暑い日とかで無い限りはストレートで呑む。

「はい、どうぞ。」

「ありがとうね。」

"ウッコックッグッ…"

「ふぁーー! 」

グラスに注いだ "二階堂"を半分ほど飲み、

「あ~~…」

と、身体を小刻みに震わせる。

これが "百"さんのお酒の呑み方。

身体を小刻みに震わせるのは癖でもあるしお酒が身体の隅々まで巡るように微振動をさせてるらしい。

『原理はよく分からない。』




"百"さんが来店して2時間程経つとお客さんが徐々に減り、気がつくと"エロジジイ"さんと女性客だけになっていた。

そんな"エロジジイ"さんも「今夜は"ミカニヤ"ちゃんの新作でマス書かなきゃいけねえから帰るわ。」といつもよりも早く帰っていく。

お店には"ママ"と"アオ"さんと"百"さんだけになった。

(あと自分)


こうなった場合"TONYA"では"女子会"と称した"愚痴会"が始まる。

お店を一旦閉めてしまい、"百"さんのいるテーブル席へ皆集まり好き勝手呑む。

1ヶ月に1回あるかないかのちょっとだけレアな会。

いつもとは少し違った皆の一面が見られるので自分的には楽しい。

でも、皆の呑むペースが上がるので少し心配にはなる会。



「ねー聞いてよ、ママ? 」

「あっ? なんだい?」

"グビグビ…"

"ウッゴックック…"

"百"さんと"ママ"が2人してお酒を飲みながら会話をしだす。

「あのねー、ここ最近会社の奴がさー」

"ゴックゴック…"

「私の身体にメッチャ触れてくるの。 あんまりにも頻回だったからそれとなく注意したの。それとなーくね。そしたらあいつどうしたと思う? 「お前がデブで人の倍以上体積があるから当たっちまうんだろうが!? お前が気を付けろデブ! 」って突き飛ばしてくるの。しかも胸を! 分かる、分かるよ。私は人の倍、横に大きいから距離感つかめなくて当たっちゃうのは。よくあることだし。でもね、あいつはピンポイントで私の胸やお尻を触ってくるんだよ? 確信犯じゃん! なのに俺は悪くない、お前が注意しろって! 一切悪びれる様子も見せずに! ひどくない? あんまりムカついたから一発はたいちゃった!」

"グッグッグッ"

「あぁそりゃ酷いね。そんな奴はぶっ飛ばてタマ潰してやればいいよ!」

"ゴッグッゴッグッ"

「だよねー! いやーママは分かってるなー!」

"ギュッゴッギュッゴッ"

「にしてもその男も馬鹿だねー! あんたなんかどこ触っても胸と一緒なんだから腕ぐらいしておけば殴られずにすんだのに。」

「ねー本当。私はどこもかしこも脂肪贅肉だからねーって、ママひどくない!?」

「………………」

「「ギャッハッハッハッハッ!!!」」

"グビグビグビ! "

"ゴックククグッ! "





いやー困った。

ママと"百"さんが楽しそうなのは結構なのだかペースが早い。

こうなると手が付けられない。

()()()()()()()()()()


「ほんと、2人とも仕方がないんだから。」

"サスニギ、サスニギ… コクックックッ"

「本当ですね。3人とも潰れないように注意してないと… あと"アオ"さんはあんまり自分の手をこねくりまわさないでください。くすぐったいです。」

「……ごめんね。ここに可愛い手があったからさ。」

"サスニギ、サスニギ… クックックッ"

「…やめないんかい! 全く大人達が…」





「だからねー私に恋人は難しいと思うんだー。欲しいけど。」

「いやー、そんなことはないんじゃないか? ほら世の中には"デブ専"ってのもあるそうだし。」

「そうだよ。"百"ちゃんの魅力的だよ。言葉には表せないぐらい。」

1時間程好き勝手呑むとだんだんと3人とも落ち着き始めいつもの3人に戻り始めていた。

呑んでものまれないそこのところは凄く感心できる3人。

酔えば酔うほど醒めていく。

滅茶苦茶な量のお酒を飲んでいるはずなのに…

『"エロジジイ"さんではこうはいかないだろうな…』


「ねっ、キミもそう思うよね。"百"ちゃんは魅力的だって。」

「えっ、あっ、うん。はい。"百"さんはとっても魅力的だと思いますよ。」

「えー本当? 例えば? 私140kgのデブだよ?」

「えっと…」

『"アオ"さんめ、自分が具体的に言えないからふってきたな…』

「多少()()()()ですけど、とても包容力があって精神的にも、…物理的にも…全てを包み込んでくれそうな感じが凄く魅力的です。あと"百"さん普通に優しくて結構色んな所を見てくれてますよね? ふとしたときの心遣いに助けられることまあまあありますし。」

「えー、普通に評価してくれる感じ? すっごく嬉しい! でもふくよかはもう通り越してデブだよ。デブ。すっごいんだからね。お腹触ってみて。 」

ペロンと服をめくりお腹を出す"百"さん。

「うぃ!??」

まさかの展開に。

流石に女性のお腹を触るのはちょっと(はば)かられる。

ためらってオドオドしていると

「うう…そうだよね。デブなんか触りたくないよね… うっうっ…」

っと"百"さんが泣くふりをする。

「あー泣かした。キミは悪い子だね。そんなキミはお姉さんがお仕置きをしてあげようか?」

そこに"アオ"さんが悪ノリをする。

…いや、"アオ"さんは何かと理由を付けて自分を弄りたいだけなのかもしれない。

助けを求めるように"ママ"の方を見るが

「いいんじゃないか? 本人がいいって言っているし、別に胸を触る訳じゃないんだから。まあ、胸と同じものを触るんだけどね。」

『うん、駄目だ。今日の大人達は。』

酔ってないけど酔っている。

"ママ"も最後の一言がなければいいのに…


「じゃあ、失礼して…」

「うん、どうぞ。」

そっと手を伸ばし"百"さんのお腹へ触れる。

触れたとたんに温かく柔らかい物に包まれ、……そして手が消える。

「うぃあふぉ!!??」

とっさに腕を引くと手はしっかりとついていた。

手全体に"百"さんの温もりが残っていた。

自分の手は消えたのではなく見えなくなっただけだった。

"百"さんのお腹にのみ込まれて。


「ふわぁぁぁ…?」

未知の経験をして状況がよく分かっていない自分。

「凄いでしょ?」

そんな自分を見て、してやったりと楽しそうに笑う"百"さん。

そんなやり取りを見てケタケタと笑う"ママ"と"アオ"さん。

「もう少し触ってみない? 今度はもっと長く。」

「えっ、あぁ…」

さっきのあれはなんだったのか理解したい。

あの柔らかさを温もりをもう少し体験したい。

あまりよくないと分かっていながらも好奇心が抑えられず手を伸ばす。


"ペシッ"

伸ばした手を横からはたかられ"百"さんのお腹から遠ざけられる。

「駄目だよ、"百"ちゃん。この子は私のだから。」

"アオ"さんが自分の手をギュッと握る。

「うーん…残念。"アオ"ちゃんにはかなわないか。…でも触りたくなったらいつでも言って、ね。」

そう言い"ニッ"っと笑う"百"さん。


『ああ、この人は自分自身の強みも魅力も分かってるんだ。』

分かっていてああ言うんだ。

分かっているからああするんだ。

分かるからああなんだ。


『女性って魅力的で…()()()。』



お客様6人目:"百"さん(魅惑の女)

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