お客様0人目(3)
「と、いうわけであの先生むかついたから何かしといて。……あまりやりすぎはしないでね。」
「オッケー」
学校内でかなりの力を持っている友達に昨日の事を言い、ちょっーとだけお仕置き的な意地悪的な事をしておいてもらうことに。
「これでよし!」
満足し教室へ戻る。
例の友達が教室の前で待っていた。
「おっ? どうしたん?」
「あっ! …バイトの調子はどう? 辛かったら辞めてもいいんだよ? …僕なんかのために…」
「ファミレスバイトは辞めた。」
「え!?」
「だからファミレスのバイトは辞めた。」
「え!? なんで? …もしかしてバレちゃったの?」
「ああー…」
バレたにはバレたのだがバレてたというの方が正しいのか。
店長は初めから分かっていたので。
「…まあ、バレたもそうだしちょっと色々あったので…」
説明するのが面倒臭いうえに余計な心配をかけられたくないので詳細を言うのはやめた。
「そうなんだ… でも少しよかった。ここ最近死にそうな顔してたから心配で… じゃあこれでまたバイト探しからだね。」
嬉しそうに言いやがる。
よほど自分にバイトをさせたくないらしい。
「あー…」
少しムカついたから困らせてやることに。
「ちょっとこっち来て。」
手招きをし、人気の少ない廊下の角へ連れていく。
「はい。」
友達に封筒を渡す。
「え、え? ん?」
渡された封筒を見て困った顔をする友達。
『その顔が見たかった。』
心の中でニヤニヤと笑いながら友達の困った顔を眺める。
「とりあえず今回分。次は…まだ未定だけどなるべく早く用意できるようにする。」
封筒の中にはファミレスのバイトで稼いだ2万円が入れてある。
1万円は何かの時用・次の足し用に抜いておいたがこれで少しは友達の家も助かると思う。
『使わせていただきます。』
「じゃ、そゆことで。」
返されたり何か言われたりすると面倒なので、封筒を渡し友達の反応を見て少し楽しんだあとすぐにその場を立ち去る。
『友達には有無を言わせず封筒を持って帰ってもらう。
返してきたら家に届けてやろう。』と思っていたがその後友達は何かを言ってくるようなことは無かった。
「さーて、次のバイトは…」
次の稼ぎ先を探すためにバイト誌をペラペラとめくる。
「……」
どれもこれも厳しそう。
年齢、資格、時間…などなど。
学生生活と両立させて上手い具合にやれそうなものが見つからない。
『困った…』
次を見つけなければ友達にお金を渡すことができなくなる。
しかしいい仕事がない。
「……ふぅ…」
バイト誌をいくら見つめても無いものは無い。
なんだか目や肩も疲れてきた。
「散歩でもしよっと。」
なので自分の足で探してみるとこにした。
「あっ、」
自分の家から1㎞程離れた所にバイト募集中の張り紙を目にする。
内容は…荷物の仕分け?
どうやら配達用に集められる荷物を配達先ごとに仕分けていく作業らしい。
"未経験歓迎 年齢不問 即雇用"
………
『…なんか少ーし怪しい気がしないでもないけど働けてお金が貰えるならなんでもいいか…』
ゴゥン、ゴゥン、ゴゥン…
ピッ、ピッ、ピッ…
ベルトコンベアから次々と流れてくる荷物を配送先ごとに分かれている次のベルトコンベアに流す。
流しながら荷物に付いているバーコードを機械で読み取り流れた荷物の数を集計していく。
単調な作業だが途切れることのない作業はそれなりに疲れる。
放課後から3時間働けることになり今日で5日目。
時給は600円でその日に現金で貰えるのでありがたい。
「ふぅー」
今日のバイトも終わりロッカールームで帰りの準備をする。
"ガチャッ"
帰宅の準備をしていると工場長がロッカールームに入ってくる。
「お疲れ様、これ今日の分。」
「ありがとうございます。」
現金1800円が入った封筒を受け取る。
………
……………
『ん?』
いつもならお金を渡したらすぐに部屋を出ていく工場長が今日はなぜかいつまでもいる。
…強い視線も感じる。
「…えーと?」
「…君、金欲しいんだろ?」
「…は、い…?」
「もっと稼げる方法を教えてやる。」
そう言い工場長が自分のすぐそばによってくる。
"サワッサワッ"
「!、?」
臀部に嫌な感覚が走る。
「金やるから少し付き合え。…いいこと、教えてやる。」
「!!?」
突然のことに軽くパニックになるがこれだけははっきり分かった。
『危ない』と。
「お、お疲れ様です!」
工場長を押し退け、脱兎のごとく逃げ出す。
気がつくと家にいた。
「…自分ってこんなに早く走れたんだ…」
自分の能力に少し感心した。
しかしあそこにももう行けなくなってしまった。
「またか…」
数日後。
「はぁー…」
働き口がない。
手持ちにあるお金はファミレスで稼いだものの残りの1万円と荷物の仕分け作業で稼いだ8000円、合わせて18000円。
次に渡す分位にならなるがそれ以降は無くなってしまう。『何か探さなくちゃ…』
そう思いながら家の周りをブラブラと歩き回る。
"ガシャンッ!! パリンッ!"
突然大きな音がする。
何かと思い音のした方を見るとおばさん…お姉さん?らしき人が困った顔をしている。
お姉さん?の足元にはビールケースが倒れビール瓶が地面に散乱している。
「ハァー、まったく…」
どうやらビール瓶の入ったケースを落としたらしい。
お姉さん?の後ろには建物があり、小さくスナックの看板が出ていた。
『お店で出すやつかな?』
………。
「あっ!!」
"パリンッ"
拾い上げたビール瓶が割れ、地面に落ち、砕ける。
「ハァ~…」
物凄く面倒臭そうな顔をしている。
…………。
「痛っ!!」 "パリンッ"
割れたビール瓶(の角?)で指を切ったらしい。
また地面に落とし砕け割れる。
「……ハァ~~…」
割れて散らばったビール瓶とビールまみれになった地面を忌々しそうに見てため息をする。
…………。
………………。
「……あの、…お手伝いしますね。」
なんか見ていられなくなり動いてしまう。
「え? あ、ああ…?」
突然声をかけられ少し驚いたような表情をしていたが気にせず片付けをする。
まずは割れたビンを片付ける。
「…このバケツお借りしてもいいですか?」
丁度近くにバケツが置いてあった。
「……ああ、いいよ。」
お借りすることに。
割れたビール瓶の破片をバケツの中に入れていく。
落としたケースにはビール瓶20本入っており、すべて割れたりヒビが入ったりしていた。
「これってすべて処分しても?」
「…ああ、いいよ。もうお客には出せないからね。」
許しをもらったので全てバケツに入れていく。
ビン半分位を入れたところでバケツが一杯になる。
「水道お借りします。」
外にあった蛇口を借りて、割れたビンを軽く洗う。
「新聞紙ってありますか?」
「…ああ。」
新聞紙を持ってきてもらい新聞紙ゴミ袋をつくる。
「…器用なもんだね。」
「へへへ」
誉められた。
軽く水を払い、ビンを数重に重ねた新聞紙ゴミ袋の中へ入れていく。
バケツの中の物が全て入れたら地面に落ちている残りの割れたビンをまたバケツに入れ、水で洗い、新聞紙ゴミ袋の中へ入れる。
………。
割れたビンはほとんど片付いた。
残りは地面に流れたビール。
このままにしておくと臭いそうなので水を撒いて流してしまうことに。
本当はあまりよくないのかもしれないが(環境的に)ほかにいい方法が思い付かなかったのでそうするとこに。
「水撒いて地面きれいにしますね。」
外にある蛇口でバケツに水を入れ、撒く。
のを何度か繰り返しようやく臭いがなくなり、ビールらしき液体もパッと見、分からなくなった。
「こんな感じていいかな? ビンの処分だけお願いできますか?」
「ああ、分かった。…本当に助かったよ。ありがとう。」
「いえ、お気になさらず。ただの気まぐれですので。」
「…そうかい。それでも何かお礼しないとね。少し待っといで。」
「あっ、別に…」
言いたいことを言い終わる前に店内に入って行ってしまう。
…………。
「あっ!!」 "パリンッ"
店内から何か割れる音がした。
…………。
「あの、大丈夫ですか?」
気になり店内へ顔を出す。
床には割れた灰皿と散らばったタバコの吸殻。
…それ以外にも店内がなかなか汚い。
使ったであろうグラスや小皿がテーブルやカウンターの上にそのままに。
そのテーブルやカウンターも飲みこぼしや食べこぼしで汚れている。
高そうなガラスの電飾もくすんでいる。
「…少しお掃除…お片付けしてもいいですか?」
せっかく良さげなお店なのに汚れのせいでそれを下げているように感じ、思わずそう言ってしまう。
「…えっ、いや、……助かるよ。」
やっていいって。
まずは割れた灰皿。
さっき割れたビンを入れた袋と一緒に入れる。
床に散らばったタバコの灰は箒と掃除機で大体きれいにする。
次にグラスや小皿。
…と、その前にシンクに溜まっている洗い物を洗うことに。
一応普段も洗ってはいるらしくシミやくすみはほとんど付いていない。
洗剤とお湯で洗っていき、ふきんで水を拭き取り、少し乾かすために洗い場の横のシンクの上に置いておく。
その次はテーブルとカウンター。
飲みこぼし、食べこぼしはティッシュとキッチンペーパーで拭き取り、その後に台拭き用に用意してもらったふきんできれいに拭く。
汚れがこびりついているところは洗剤をほんの少したらし、ちょっとしてから拭き取りきれいにしていく。
床(絨毯)は掃除機をかける。
シミになっているところはお湯をで暖めたタオルをシミの上におく。
少しした後、タオルをポンポン叩いてシミ取る。
取れないのは薬品とか使わないとなので諦める。
ガラス電飾も暖めたタオルで拭いていく。
本当はガラスクリーナとか使うときれいになるのだけど温タオルだけでもかなりきれいになった。
「よし、終わり。」
来たときよりも大分きれいになった。
2週間とはいえファミレスのバッシングがとても役に立った。
「…本当に… すまなかったね。とても助かったよ。ありがとう。」
「いえ、いえ、別に。」
キレイ好き?潔癖症?の自分にとっても"きれいにする"といことは結構楽しいし気持ちがいい。
「お礼しなくちゃね。」
「あっ、そういうのが目的でやったわけではないので大丈夫です。」
「いや、ここまでしてもらって何もしないのは私も後味が悪い。」
そういいカウンターの下をゴソゴソする女性。
そして一封の封筒を出してくる。
「少ないけどこれはお礼だ。貰ってくれ。」
自分に差し出してくる。
…多分現金が入っている。
「あー…」
確かにお金は欲しい。
お金は欲しいがお礼が欲しいわけではない。
今回やったことは言うなればただの気まぐれの暇潰し。
それでお金をもらのは何か違う。
………。
ここで1つ案が浮かぶ。
"これって商売になるんじゃないか?"と。
「あのー…」
「なんだい?」
「お姉さん?ってお掃除とか苦手じゃないですか?」
「…ああ。」
「正直やりたくないとか思っていませんか?」
「…ああ。」
「でしたら掃除婦(夫)を雇いませんか?」
「…ああ、…あ?」
「自分を雇ってください。」
「あ?」
「雇ってくれってあんたを? 掃除夫?として?」
「はい。」
「なんでまた…」
「お金を稼ぎたいからです。仕事をしたいからです。」
「…それなら別に行きな。こんな寂れた店の掃除なんて… あんたにはもっと他のいい働き先があるよ。」
………。
他の場所…
「…全部駄目でした…」
全部駄目だった。
コンビニもファミレスも荷物の仕分けも…
何の資格も持っていないから。
許可が無いから。
中学生だから。
無知無能の子供だから…
『やっぱり事情を話した方がいいか…』
これ以上色んな人に迷惑をかける訳にはいかない。
隠さず騙さず偽らずしっかりと事実を伝え、その上で仕事をさせてもらえるのであれば雇っていただきたい。
「実は…」
……………
「つまりあんたは友達の生活費を稼ぐために金を稼ぎたいと。」
「はい。」
「他の所がことごとくダメだったからうちで雇ってもらいたいと。」
「はい。」
「…で、あんたは中学生だと。」
「…はい。」
「友達のために? 中学生で? 働く? ……はぁー…とんだバカだね、あんたは。」
「……」
実際に自分でも馬鹿なことやってると思っているので返す言葉もない。
「いいかい? 世の中ってのはそんなに甘くないんだよ。あんたみたいなバカはこき使われて弄ばれて喰われて終わりだよ。」
…その通りだと思う。
自分みたいのはいいカモで、いいように使うだけ使われて必要なくなれば問題や責任を押し付けて捨てられるだけ。
「だけどね…私はそういうバカは嫌いじゃないよ。バカだからね。………そうだね…あんたはこのままだと本当に社会の影に喰われかねない。…だから私が面倒をみてやる。」
「…えっ、それって…」
「いいかい? 沢山は払えないよ。それでもよければ明日から来な。」
「…はい! ありがとうございます!」
ようやく事情を事実を知っても雇ってもらえた。
スナック"TONYA"
(仮)時給700円 16~19時 業務内容:開店準備・掃除
「明日から頑張ろ。」
「…まったく、変なお客様だよ。」
お客様0人目:働きたい中学生