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お客様0人目(2)

「うーん…」

お金に困っている友達のためにバイトを探し始めたが求人雑誌に載っているものはどれも"高校生以上"ばかり。

"年齢不問"と書いてあるものは"運転免許必須"とか"資格取得者"とか自分には無いものばかり要求してくる。

「うーん… しょうがない……… 年齢詐称するか。」



「身分証のコピーを提出してくれる?」

学校から一番近いコンビニに面接に行き、順調に話が進んでいたが最後という最後でつまずいた。

「えっと…持ってないです。高校受験失敗して今は浪人中なので。」

設定はそういうことにした。

浪人中空いた時間にバイトしたいと。

「学生証が無いのは分かったけど保険証とかはあるよね? お親御さんに借りてきてね。」

『…しまった。保険証という身分証明書があった…』

怪我や病気をあまりしない上に保険証は親が持っていた。

そのため完全にその存在を忘れていた。

「身分証無いです」で履歴書のみでやり過ごそうとしていたが計画が甘かった。

『しくじった。』

「じゃあ、書類を揃えてくるのでまた後日伺わせてもらいますね。お忙しいなかありがとうございました。失礼します。」

そういい席を立ち、店員が持っている履歴書を一瞬で奪い取り、逃げるように店を出る。

多少、嘘が書いてある履歴書だか本当の個人情報も書いてあるためしっかりと回収しておく。

家に電話なんてされたら計画が潰れてしまう。

『あそこのコンビニへはもう行けないな…』

多分怪しまれたのであそこのコンビニへは近づかないようにすることに。

「顔を覚えられてなきゃいいけど…」



3日後…

家から一番近いコンビニへ面接へ。

「夜間ね。」

「え?」

「だから()()()()()。」

「えーと…具体的な時間は…?」

「20時から5時。」

「……」

法律上は確か18歳未満は22時までしか働けないはず…

「明日から来れる?」

…バレてる?

もしかしたら中学生だってことがバレてて明らかに無理な時間を言ってきてる?

「自分まだ15歳なんですけど…」

「ん? 大丈夫だよね? 浪人生なんでしょ?」

『あっ…これ駄目なやつだ。ブラックってやつだ…』

「…すみません、やっぱりバイトの話しは無かったことで。」

「え!!?」

「ごめんなさい!」

「え!!!?」

履歴書を持って走って逃げ帰る。

ここのコンビニにももう行けなくなった。

『こわっ…』



2日後…

「じゃあ、明日からお願いね。」

3件目のバイトの面接はいつも混んでることで有名なファミレス。

偽造保険証コピーも用意し今回はなんとか採用までいけた。

『よし! これでようやくスタートラインに立てた。』

バイト先が決まり明日から働けることに。

主にレジ打ちやテーブルの片付け。

フロアと呼ばれる仕事。

時給800円×2時間半(16:00~18:30) 平日

時給850円×5時間(12:30~17:30) 休日

初めはとりあえず平・休日合わせて週3日位からということになった。

馴れたら増やしていってもいいとの事。

しっかり働いてしっかり稼ごうと思った。


それから2週間後…

『物凄く疲れる…』

疲れで若干やつれ始めてきた。

バイトへ行くのが嫌になりつつある。


仕事自体はそこまで大変ではない。

むしろ良い仕事仲間に恵まれて楽しいぐらい。

しかし学校関係者がとても多く来る。

学校から近いためか毎日教師が2人は来るし(客として)、生徒もかなりの頻度で来店してくる。

2週間で7日・計22時間ほど出勤したのだがほとんどの時間に自分の学校の先生か生徒が店内にいる状態。

自分だとばれないように細心の注意をはらいながら仕事を行う。

…物凄く疲れる。

マスクをし伊達メガネをかけ厚底の靴を履き少し声を変えてしゃべる。

…物凄く疲れる。

店内で行きたい場所(片付けたいテーブル)があっても隣の席に学校関係者がいると行きたくても行けない。

…物凄く疲れる。

疲れる。

疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる疲れる…

「大丈夫か? 少し顔色が悪いぞ?」

店長に声をかけられハッと我に帰る。

「あっ、すいません。少しボーとしてました。大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」

『そうだ、自分は働きに来てるんだ。しっかりしなきゃ。』

「…そうか? 無理するなよ?」

「はい!」

空元気な返事がでた。


日曜日 16:40

あと一時間もしないうちに今日のバイトは終わる。

『あと、少し。もう少し頑張れば…』

「あれ? 君って…」

空いたテーブルを片付けている時に声をかけられる。

自分の学校の先生だった。

若めの男の先生。

幸いなのか担当学年が違い、授業も受けていない先生だったため即バレることはなかった。

しかし

「うーん…違っていたらごめんね。君ってうちの学校の生徒じゃなかったけ? 卒業生だっけ? なんだか見たことある気がして。」

しつこい。

「すみません、仕事があるので…」

なんとかその場から去ろうとするが

「待って、待って…もうすぐ思い出しそうだから。え~と…」

肩を掴んできてその場から去らせないようしてくる。

「え~…マスクとってくれれば分かる気がする。マスク…取ってくれる?」

「!!?」

まさかうちの学校の生徒"かもしれない"ってだけでここまで言ってくるとは…

まさか自分だとバレてる?

「マスク~…取ってよ~? 顔~…見せてよ~。」

物凄く気持ち悪い言い方。

しつこいしうざいしきもい…

殴りたくなる。

バイト中じゃなければ殴り飛ばしてたところ。

しかし今はバイト中。

手は出せない。

「すみません、迷惑になりますので…」

「いいよ、ちょっとだけ。ちょっ…」

「申し訳ございません、お客様! うちの店員が何かございましたか!?」

急に店長が大きな声を出して自分達の間に入ってくる。

「何か粗相でも!? それでしたら本当に申し訳ありませんでした! 私共の教育不足です!」

「えっ…いや、そういう…訳でもないです。」

いきなり大声を出して現れた店長に驚いたのかたじたじの先生。

「えっ!? そういう訳ではない!? でしたらいかがなさいました!? ()()の私が御対応させて頂きますね!」

やけに店長を強調して言う店長。

そして「きみはもう下がりなさい。」と小声で言われる。

「…失礼します…」


バックヤードへ下がると店員の皆が心配そうに自分を見てきた。

「大丈夫?」と優しく声をかけてくれた。

「元気出せ。」と励ましてくれた。

…自分のせいで皆に迷惑をかけた。

店長にも店員にもお客にも…

とても申し訳なく思った。

自分勝手のせいで…


しばらくして店長が先生の相手をし終わり戻ってきた。

先生は店内でだいぶ好き勝手言ったらしく、それに気を悪くしたお客達が皆、帰っていってしまった。

店内は珍しくほとんどのお客がいない状態になった。

「はぁー疲れた、疲れた。全くしょうがない人だった。」

「「「お疲れ様です。」」」

店員の皆が声を揃えて言う。

「…店長…ありがとうごさいました… あの、その…少しお話を…したいのですが…」

「辞めるの?」

「え?」

店長の唐突な一言に驚く。

…まさに今からその話をしようとしていた。

「あれ、中学校の先生だよね。バイトしてるのバレたから辞めるの? あいつ、きみの事分かってはなさそうだったよ?」

「え? あ?…」

言葉が上手くでない。

気づかれた?

自分が中学生だってことに。

「あ、え…と、」

「知ってたよ。君のこと。…こう見えても客商売やってるんだ。人の事はよく見えているつもり。」

店長は気づいていた。


「…ごめんなさい。」

「……きみの目が本気だった…」

「?」

店長のよく分からない言葉に少し困惑する。

「私の方こそ悪かったね。面接に来た時点で分かってはいたんだ。………ただきみの目が本気だったんだ。本気で働きたい、お金を稼ぎたい…そんな目をしていた。何か訳があるんだろ?」

…見透かされる。

本当に人の事をよく見てる。

「実は…」

自分がバイトをしようとした理由を素直に話す。

店長は何も言わずに何も聞かずに話を聞いてくれた。

お客が少なくなり暇になった店員も仕事をしながら話を聞いていた。

「…ということなんです。」

「………うん、素晴らしい! 友達のために中学生で無謀に働こうだなんて。…青春っていいね! 助けたかいがあった。」

…助けた。

『やっぱりさっきのは店長が助けてくれたんだ。』

もしもあの時、先生にバレていたら計画が台無しになるところだった。

本当に店長には感謝しかない。

「凄い、凄いよ。感動する。」

「アオハル-!!」

店員の皆も話を聞いてなんだか盛り上がってる。

「でも、辞めるんだよね?」

店長のその一言でその場は一瞬で静かになった。

「…はい。自分がいる限り今回みたいなことは起こり続けると思います。そうなるとお店に、皆さんに迷惑をかけてしまう。…だから辞めさせていただきたいと思います。」

「…そっか、きみ頑張って働いてたからよかったのに。でも…そうだね。やっぱり駄目だよね。中学生だって知ってて雇うのは。」

店長も店員の皆も少しがっかりしている様子。

自分勝手で本当に申し訳なく思う。

あとそんな自分が辞めるのをほんの少しでも惜しんでくれることが嬉しく思った。

たとえただの働き手の1人としてでも必要としてくれた。

『働くって…』

少しの沈黙のあとに店長が口を開いた。

「わかった。きみの決断を私は受け入れよう。短い間だったけどこの店で働いてくれて本当にありがとう。きみとの出会い感謝を。きみの門出に祝福を。…じゃあこれを。」

財布を出してきてお札を封筒に詰め自分へ渡してくる。

「これは?」

「バイト代。働いてくれた分の給料はしっかりと払わなきゃ。」

「…自分はお店にも店長にも店員の皆にも迷惑をかけました。なのでこれは受け取れません。…迷惑料としてお店や皆さんのために使ってください。」

責任とけじめのつもりだった。

お金は欲しいけど他人に迷惑をかけてまでは欲しくない。

「…わかった。………じゃあ皆が気持ちよくきみを送れるようにこれは持っていきなさい。お店の事を思ってくれるならそれが一番いい。」

「…えっ…」

「それにきみはしっかりと働いてくれた。しっかり時給分、仕事をしてくれた。その代価を払わないわけにはいかない。…うちは給料を払わないブラック企業にはなりたくないからね。」

「…………」

「…それでも私達に申し訳ないと思うなら今度はお客として店に来てくれ。そうしてくれればお店の利益になるし、売り上げが良くなれば店員の時給も上がる。そして私の評価も上がる。万々歳だ。」

「……そんなことでいいんですか? そんなことで自分は許されるんですか? そんなことで…」

「そんなことでいい。それに許されるも何もきみはたいしたことしていない。……いいか? 世の中…社会ってものはそんなものなんだ。自分にとって小さな事でも他の人からすれば大きい事だったりする。逆に自分にとって大きな事が他の人からすれば小さな事の時もある。今回の事でいえばきみが年齢を偽って働いた事も今日のトラブルも私にとってはそこまでたいした問題じゃない。バイトに来てレジのお金盗んで逃げた子もいるし、お客とトラブルになってテーブルを3台も引っくり返された事もある。…この社会で生きていたら色々な事がある。そんなもん。 だからきみがやったことは…いけないこともあるけど私にとっては本当にたいしたことはない。だから気にするな。」

店長に肩をポンポンと叩かれる。

そして封筒を目の前に差し出される。

「さっ、これを受け取ってもう帰るといい。きみの"友達のためにお金を稼ぎたい"という事にはこれ以上は協力できないが応援はしてるからな。」

店長が優しく言う。

「これからも頑張れよ。」

「またいつでも来てね。」

店員の皆も優しい言葉をかけてくれる。

…なぜなんだろ?

なぜこの人達はこんなにも優しいのだろう?

確かに"たいした事ない"のかもしれないがそれでも"損"はしてるし"害"も被っているはず。

なのに…なぜ?

社会経験が無く中学生の、子供の自分には少し難しい問題だった。

ただ優しい言葉が対応が……"嬉しかった"。

その事だけはしっかりと分かった。

皆がなぜこんなに自分に優しくしてくれるのかは分からなかったが優しくされて嬉しいのは分かった。

『……大人にはまだ全然なれそうにないや。』

自分がまだまだ成長途中の無知で未熟な人間なのだと思った。

「さあ、あまり遅くなると親御さんも心配するから…」

確かに時間は19:00に近い。

…親は自分の心配なんてしてはいないだろうが皆にこれ以上、心配はかけさせたくない。

「…はい。…ではこちらはありがたくいただきたいと思います。本当にありがとうございます。それと、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」

感謝と謝罪を込めて深々とお辞儀をする。

「うん。じゃあ、またいつかどこかでね。お疲れ様。」

「お疲れ様ー。」

「お疲れ。」

いつもの仕事終わりの挨拶。

「本当にありがとうございました。失礼します。」

再び深くお辞儀をして店を出る。

そして店を出たあと店と皆に向けて三度深くお辞儀をする。

「ありがとうございました。」



家に帰り給料の入った封筒を開けてみると3万円と割引券が数枚入っていた。

実際の給料よりもいくらか高いが(2.5時間×800円×5日+5時間×850円×3日)きっと店長はわざとやっていると思った。

「ありがとうこざいます。」

封筒に向かって四度深くお辞儀をした。


ーーー→

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