お客様0人目(1)
お客様0人目
「え!? 学校辞めるの!? なんで!?」
「…お金が無くて… ほら、うちって母子家庭で妹弟もまだ小さいから…」
「辞めてどうするの? 働くの?」
「…分からない。…でも少しでもお金を稼ぎたい。」
「中学中退で雇ってくれる所なんてあるの?」
「…それも分からない。…でも無くは無いと思う。ほ、ほら、バイトとかパートとか。…あとお手伝いみたいのとか…」
「…本気?」
「…うん…」
……。
…………。
………………。
「いくらぐらいあれば辞めなくてすむの?」
「…え?」
「だから何円あれば学校を辞めなくてすむの?」
「…え、と……ごめん、分からない。」
「うーん…」
「…えっと、…ごめん…」
「なにが?」
「あの、…変な事言っちゃって。…もう忘れて。本当にごめんね。…………仲良くしてくれてありがとう。」
…………。
「待って。…自分バイトする。そのお金を渡す。だから辞めるのちょっと待って。」
「えっ? いや、え? そんなの……ダメだよ…」
「なんで?」
「なんでって…せっかく稼いだお金を僕なんかに… 悪すぎるよ… ダメだよ…お金はトラブルになりやすいし… それにバイトするってどこで? できるの?」
「バイト先はこれから決める。自分、中学生にしてはちょっとだけ背が高い(170cm)から「高校生です。」って言えば大丈夫。…多分。あと一緒に卒業するって、一緒に修学旅行へ行くって約束したじゃん。その約束のために自分はできることをするだけ。」
「…そんなのって…なんで、なんで僕なんかのために?」
「なんでって友達だろ? それも結構仲のいい。」
「…ここで親友とは言わないんだ。」
「うん。」
「意地悪だな…」
「へへへ。……まっ、とりあえず自分に時間を頂戴。なんとかやってみる。それまで学校辞めるのはちょっと待ってて。…まー断言も約束もできないけどね。」
「…本気?」
「うん。」
「…やっぱり悪いよ。…僕もう一度、母さんと相談してくるから…だから働くのは……」
「してくれば? 自分はバイト探してるから。」
「え!?」
「え?」
「は、話、聞いてた?」
「? 聞いてたよ?」
「なんでバイト探しに行くの?」
「お金を稼ぐため。」
「だからお金の事は母さんと相談するからって…」
「いってらっしゃーい。」
「えっと…だから…その…」
「…自分ってさ…"自由"が唯一絶対不変の信条なの。」
「……知ってる…よく言ってるよね。」
「そんな自分に指図?」
「指図って訳じゃないけど…でも…」
「自分は自分勝手にバイトをしてお金を稼ぐって決めた。で、そのお金をどう使おうと自分の勝手。自分で使ってもいいし、誰かにあげてもいい。なんなら捨ててもいい。…まあ、稼げるとも決まってはないのだけどね。」
「……」
「だから気にしないで。「またバカやってんなー」って傍から見てて。」
「……」
「だけど辞めるのはちょっと待ってて。ちーとだけこの理不尽な世の中で踠いてみるから。」
「……」
「踠いてみてダメなら諦めて友達の門出を素直に見送るから。」
……。
…………。
………………。
「………うっ…ううっ…うっ…」
「なんだよ、泣くなよ? 自分は男の泣き顔なんて見てもちっとも嬉しくとも楽しくともならないんだけど。特に泣くと不細工になるタイプは余計に。むしろ不快感を覚える。」
「……うっ、うっ、ここは…嘘でも…優しい言葉をかけろよ。…ていうか、僕、ブサイクってこと? ブサイクは…酷くね?」
「え? …事実だもん。不細工な顔見せたくなければ泣くな。」
「…本当に…意地悪だな。」
「へへへ。」
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