第七話 初陣I
龍はビルを破壊する。ロンドンの歴史の中でも古いとされている煉瓦造りのマンション――或いはアパートと呼ぶべき建物を無残にも踏み潰していく。しかしながら、一般人は龍を認知することは出来ない。例えば龍がアパートを踏み潰し、人が生き埋めになってしまったとするならば――表向きにはアパートが老朽化により崩落したためと記される。要するに、龍――広い意味で言えば幻獣の存在は表に出してはいけない、ということだった。
「ひどい……」
キョウカは龍から少し離れた地点で、その惨状を見てぽつりと呟いた。
「……ひどいと言えるのも今のうちかもしれないね。進んでいけば、その感情すら失う」
言ったのはローラだった。
「失う……ってどういうこと?」
「文字通りの意味さ。幻獣による被害者は年々増加してる。起きると直ぐに我々が対処してるとはいえ……、その数は、最早我々のキャパシティを上回ろうとすらしてるの」
「……もし上回ってしまったら?」
「幻獣による被害者の数が、ますます加速してくことになるでしょうね。最悪の事態、とでも言えば良いのかも」
「……何か、何処か他人行儀なところがあるような気がするのですが?」
「そうかな。気のせいじゃないかな。……私だって、別にむざむざと人が死ぬのを待つばかりじゃない。この世界に意味を見出さないのならば、もっと良い方法はあるのだからね」
その方法については、あまり展開していかない方が良いだろう――キョウカはそんなことを思った。
「さて……、これからは私達の出番。これからあの龍を、どうにかして戦闘不能に陥らせる。……その手っ取り早い方法がさっき言ったあの睡眠薬入りカプセルって訳」
「……そこでこれが出てくるんですね……」
「予想はしてたでしょう?」
「そりゃあ、睡眠薬を使うと言っていた段階から……ですけれど。でも実際に、どうやって入れるんですか? まさか龍が口を開けるために、餌で釣るんですか」
「そんな単純な幻獣だったら、苦労しないんだけどねえ……」
単純ではないらしい。
だとすれば、どうするのだろうか?
「――ま、その辺りは私が何とかするから安心して。初陣を派手にしてあげるからね、そればっかりは唯一出来る私のやり方だからさ!」
「別に派手にしなくても良いのですが……。きちんと安心して終わってくれれば、それで」
もっと言うなら、傷つかなければそれで構わない。
キョウカは平和主義者? でもあったのだ。
「はっはっは。それなら……ちょいと待っててね!」
そうして、ローラはキョウカを置いて猛スピードで龍の近くへと向かっていく。
それを見て単身攻撃をするのだ――などとキョウカは直ぐに思ったのだが、初心者であるキョウカはそれをどう対処すれば良いのか、さっぱり見えてこなかった。
仮に、キョウカが助太刀したところで――ローラの足手まといになることは目に見えている。
ならば、今は自分に出来ることを、ただ実直に熟すしかなかった。