第六話 舞台装置
「簡単に言えば、睡眠薬が入っているんだけれどね」
「睡眠薬?」
そんな簡単な――現実的なもので何とかなるのだろうか?
キョウカはそんなことを考えていたのだが、
「まあ、習うより慣れろって言うでしょうし、龍を目撃したら、先ずはそれを投げてみてよ」
投げる……って?
「すいません、何を言っているのかさっぱり……」
「いや、だから投げてって。……出来れば龍の口に入れてくれると有難いんだけれどね。流石にそこまでコントロールを求めてないから安心して」
「安心してってことでもないような……」
「さてと」
キョウカの反応は完全に無視して、ローラがサーフボード――もとい小型飛行機に乗った。
それを見て、キョウカも慌ててサーフボードに乗り込む。
というか、その格好はどう見ても今からサーフィンを楽しむようにしか見えない。
着衣水泳ってジャンルもあるし。
「……着衣水泳ってジャンルで良いんだっけ?」
「何を言っているんだか分からないけど、さっさと出陣するよ。……あ、そういえば説明してなかったよね? この小型飛行機の操縦方法」
「そういえば受けてなかったですね……。あれよあれよと説明を受けてしまったので。で、どうやって操縦するんですか?」
「波に乗るのさ」
「は?」
何を言っているんだかさっぱり分からなかった。
「昔流行ったロボットアニメにもあったじゃん。空中の波を読んでサーフィンのように楽しむスポーツが。あれって、まあまあ的を射てるんだよね。だって、実際に応用出来る訳だし。……さて、ここで問題。この世界にある魔力って、どうやって生み出してるんだっけ?」
「どうやって……って。そりゃあ、仕組みははっきりと判明してなかったような気がしますけど……。後は、この世界に無限に存在してるとかしてないとか」
「ご明察。その通りだねえ。……で、その魔力って粒子のように存在してる訳。空気だって、酸素やら二酸化炭素やらの原子が散らばってる訳だけど、それと同じ。そしてその粒子は常に動いてる。動いてるというよりかは回転してるって言えば良いのかな。そして、その回転によって流れが出来る。これが『流れ(フロウ)』って奴だね」
「流れのことなら知ってますけど……」
「別に良いじゃないか、復習をしたって。時間が有り余ってるというのは言えないけど、少なくとも龍がこっちにやって来るまでいくらかの時間はある訳だし。……要するに、このサーフボードは最初の揚力は自前の魔力で何とかするんだけど、流れに乗ったら後はその波を制御するのはサーフボードと同じって訳。ところで、キョウカ。サーフィンの経験は?」
そう問われて首を横に振るキョウカ。
「ま、首を横に振ったところで、拒否権はないんだけどさ。……さ、行くぞ!」
その声と同時に二人の居る床がせり上がっていく。
それはまるで、舞台上へと上がっていく装置の如く。
到着したのは、円柱状の空間だった。
上を見上げると、日が沈みかけているのか、オレンジ色の空が見える。
「さあ、行くよ。……右足のところにボタンがあるからそれを押して」
言われた通りにボタンを押すと、ふわりとした感覚とともにゆっくりとサーフボードが浮かび上がっていく。
「う、うわっ……、浮かんでる、浮かんでますよ!」
「あー、良いねえ、初々しいねえ……。私も小さい頃はこんな感じだったのかねえ……」
そうして、二人は出撃する。
幻獣――龍を退治するために。