第五話 幻獣
「幻獣の調査が終了した。幻獣の警戒レベルは4。具現化している対象は龍だ」
「……龍、ですか」
「久しぶりじゃね? 龍って。今までは妖精とかそれぐらいの規模だったよーな記憶があるけど」
レイラの言葉に、それぞれの反応を示すキョウカとローラ。
サーフボードを片手に、ゴーグルを頭に装着した二人は、今にもゲレンデに滑りに行きそうな感じだ。
「サーフボードだからどちらかと言えば海水浴という認識の方が正解なんでしょうけど……」
「で? ドラゴンは何処に出撃したの?」
「ベイカー・ストリートって知っているかな?」
それを聞いて頭を抱えるローラ。
「何だっけ……聞いたことはあるんだけどな。コナン・ドイルが生まれた場所?」
「コナン・ドイルが生まれた場所はエディンバラだよ、ワトソンくん」
「?」
「……ネタで返したのに、それを知らないか、或いは知らない振りするのはどうかと思うな! ……答えを言うと、シャーロック・ホームズで有名になったストリートのことだよ。ほら、ベイカー・ストリート221Bって有名だろう? シャーロック・ホームズ博物館があの近辺にもあるから、幾ら世間知らずのローラでも知っていると思ったんだが……」
「世間知らずで悪かったね。……で? まさかその龍はホームズのファンだったりする訳?」
「シャーロッキアンってことですか? 幻獣もそういう俗世の物を好んだりするんですかね?」
「……キョウカ。ローラの話は話半分に聞くように。普通に考えて、龍がシャーロッキアンな訳ないだろう。とにかく、その龍を何とかしないといけないのが我々の任務って訳だから」
「任務って言いますけど……具体的には何をすれば?」
「沈静化すれば良いよ。幻獣は人を、いや、人以外でも何でもとにかく動物を、直接殺すことは出来ない。さっきも言った通り、二次災害で殺すことは大いに可能だが」
「……龍の大きさはどれぐらいなんですか?」
「基本的には、十メートルオーバーと思って良いだろうねえ。十メートルを超えると龍、超えなかったら……何だっけ? トカゲ?」
「そうそう。オオトカゲ。一応、そういう分類になってるらしーけど。でも、十メートルぐらいのトカゲが居たらそれはそれで困るよな……」
十メートル近いトカゲって、それはもうトカゲではないのでは?
「……まあ、とにかくあなた達への任務は至ってシンプル。龍を成敗するだけ。成敗と言っても、実際問題、龍を含めた幻獣を手玉に取るのは難しいのであって……であるなら、もっと簡単なやり方が用意されている訳」
「?」
「小難しいこと言ってないで、さっさと解説したらどう? キョウカが何も分からなくて困惑してるようだけど」
「ああ、ごめんごめん。別に悪気があって言った訳じゃない。ただ、これを使えば楽に物事が進められるという訳であって……」
そう言ってポケットから取り出したのは、小さなカプセルだった。
そのまま手に取っていたら、何かの薬剤だと間違えてしまいそうなぐらいな形。
しかしカプセルの中には何も入っていなく――ただ空白だけが広がっていた。