第三話 面談
「まあ、大勢の人間は幻想を直視しない現実主義者だらけな訳だからね」
「ローラ、口を慎みなさい、口を」
「はーい。でもまあ、魔女ってこういう人間だらけだから気にしないでね? あと、何だっけ? 魔女って、砕けた言い方しか出来ないって話を聞いたことがあるけど。日本でもそうなのかな?」
「私は日本で魔女と付き合いがあった訳ではありませんが……。でも、そうなのかもしれませんね。……というか、どうしてここって日本語上手な人だらけなんですか? 普通、英語がスタンダードのような……」
「魔術師協定って言葉、知ってるかな?」
ローラは飽きてしまったのかスマートフォンを触りながら、
「簡単に言えば、世界有数の魔術師大国である日本の技術を、世界が隔たりなく享受することが出来る協定だね。その協定があるもんだから、魔導書が……日本語で書かれてる訳。だから、魔女は自ずと日本語を第二言語とするの。でも、習ってみて分かるけど、日本語って難しいったらありゃしない。だって、ひらがなにカタカナに漢字もあるんだから。普通、一つの単語を書くのに一つの言語体系だけで充分じゃない?」
「あー、はいはい。ローラの個人的な日本語へのヘイトをぶつける時間じゃないってことは、さっさと理解してくれ。でないと本題に進むことが出来ない訳だからな。……という訳で、改めて」
レイラが咳払いを一つして、キョウカに告げる。
「君は……ほんとうに魔女になりたいのか?」
「先程も言われましたが……何故そこに拘るのでしょうか」
「当然だろう。ここは東京、パリに次ぐ三大魔女育成機関の一つ、ロンドン『魔女旅団』だ。ここにやって来る人間は……誰もが魔女になろうと望む。だが、全員が全員魔女になれる訳ではない。何故だか分かるか?」
「魔女になるには……それなりの才能が要りますからね」
「それなりじゃないっつーの」
ローラが再び軽口を叩いてくる。
「そもそも、魔女になるために必要なのは才能でも努力でも何でもない。血よ。……もっと分かりやすく言えば家系ということになるのでしょうけど。魔女が生まれるのは、魔女の家系以外には有り得ない。そりゃあ、例外だってあることにはあるけど……それは千年に一度って言われてる訳。けど、魔女になりたい……要するに、平たく言えば『魔女見習い』は大勢集まる。ロンドン、パリ、東京だけじゃない……全世界に置かれる様々な魔女育成機関に、大勢の魔女見習いが集まってくる。でも、彼女達の中でほんとうに魔女になれるのは一握り。たとえ家系が条件を満たしてても、自分の力及ばず、といった形で魔女を諦める人間は幾らでも居る」
簡単に――魔女になるといっても、そう簡単に物事が上手くいく訳じゃない。
昔みたいに、魔女の弟子になって、才能がなければ諦める。才能がある弟子はいずれ開花する。そういうのが、今も続いているのだ。
「……その点に関しては、あまり危惧しなくても良いような気はするけれど。ほら、だって彼女、一応魔女の家系らしいし」
「魔女の家系だって、魔女になれるかどうか分かんねーだろ。現にそういう漣ちゅは一杯見てきた」
「もうこれ以上、辛いところは見たくない……って? それって何とエゴが詰まった発言なのかねえ。魔女であるあんたはそれで良いかもしれないが、私は司令官として戦力を補充し、管理する義務がある。魔女と司令官の立ち位置は違うことを十二分に理解してもらいたいところだが」
「分かってるよ。別に何度言わなくても……。で、あんたはどうなのよ、キョウカ」
「どう……と言われましても。私は魔女の家系で育ちました。ということは、魔女については普通の人よりは知ってるはずです。そうであるからこそ、私は魔女になるべくこの地を選んだのですから」
「魔女になるべく……ね。まあ、分からない話でもないけれど。実際、魔女の家系に生まれたなら、魔女になった方が楽とも言われているらしいしね?」
「それ、どこの統計だよ……」
もはやローラとレイラの会話が漫才のようになってきたが、それはそれ。
とにかく今は、面談を進めていかなければならない。




